著者
緒方 一喜 原田 節子 中村 光子
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衞生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.5, no.3, pp.100-110, 1954-12-30
被引用文献数
3

1. S. aokiiは本州, 九州に広く分布し, 平地から山脚地帯にかけての小流に発生する極く普通の種類である.屡々山間の溪流にもみられる.又, S. venustumと共に本邦に於て激しく人を襲う代表的な種類である.2.著者の観察によれば, 産卵は夕刻に多く, 水中の植物, 岸の上から垂れた草の葉或はコンクリート壁を問わず産卵場所は水表上の常に水沫で濡れる状態の場所であつた. 1〜数10匹で集団的に或限られた小面積の好適な場所に短時間に行われた.そして1〜数10個の卵塊は集合的にうみつけられた.1匹の雌による1回の産卵数は150〜300と考えられた.3月の室温で約10日で孵化を始めた.3.幼虫は川幅約1〜0.3m, 流速10〜30m/分, 水質は水底が見える程度の清流に最も多数みられた.4.幼虫が水中で吸着している基物は, 基物自体に対する選択よりも, 寧ろ基物のおかれている環境条件によつて選択される.自然界では水面下約10cm以内の植物に大部分吸着している.特に細長い葉面の裏面先端部に多い.5.幼虫は水中で, 好条件下では数日間同一場所に固着しているが, 又或程度尺取虫状匐匍運動或は分泌した糸に懸垂して移動を行つている.6.蛹の発生水域から1, 000mの距離迄100mおきに実験者が位置し, 刺咬する成虫を採集して活動範囲調査を行つた.発生水域附近が最も刺咬数は多く, 1, 000mの地点でも若干採集された.7.成虫の刺咬活動は周年みられるが, 特に3月から7月にかけて最盛活動を示した.8.雌成虫は最も人を好んで吸血するものと考えられた.牛, 馬及び山羊を用いて襲来成虫を採集したが, 馬で9匹, 牛で1匹採集されたに過ぎなかつた.