著者
緒方 一喜 三原 実
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.13, no.4, pp.262-267, 1962
被引用文献数
2 1

現在使用されているバタートラップは, 捕集能力がはなはだ低いので, この改良のための検討と, 規格化のための資料を得るため, チャバネゴキブリを対象に, 実験装置内で実験を行つた. 0.15m^3の金属缶内に, 16箇の腰高シャーレを用い, 4種の試料を組合わせて, 4×4のラテン方格による配置で, 誘引餌の効力比較を行つた. 50種の試料について23種の組合わせを行い, 延47回の比較実験を行つた結果, 米ヌカ, ヒエ, 某社製毒餌剤が他に比べて捕集力が高い傾向がみられた.トラップ容器の形態の検討として, 腰高シャーレと, 3種のプラスチック容器を比較したが, 腰高シャーレが最もよく集めた.トラップの内壁には, マーガリンを上半部に塗つた場合が, ワセリンよりも, そして, 下半部に塗つた場合より多くの虫を捕集した.トラップの外壁には, 何も巻かないより, そして新聞紙やばんそうこうを巻くより濾紙を巻いた方が多く虫を集めた.濾紙は, 新品よりも, 5%白砂糖液に浸したものが多く虫を集めた.以上の結果から, チャバネゴキブリに対しては, 腰高シャーレを用い, 内壁上半部にマーガリンを塗り, 外壁には砂糖水に浸して風乾した濾紙を巻いたものが, 最も捕集力が高いものと考えた.なお, 深さ6cm, 口径9cmの大きさで, 少くとも, チャバネゴキブリ雌成虫200匹までは脱出逃亡させないで捕集できる.
著者
緒方 一喜
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.9, no.4, pp.228-234, 1958-12-10 (Released:2016-09-04)
被引用文献数
1 3

ドクガEuproctis flava Bremerの疫学的性格を論じ, 東京附近の被害実態を疫学的に検討した.1.日本産Euproctis属10種について, 毒針毛保有の有無, 発生量について検討した結果, E. similis, xanthocampa, piperita, pulverea, kurosawai, pseudoccnspersa, staudingeriの8種は, flava類似の毒針毛を持つ事を確めた.E. torasan, curvataでは確認し得なかつたが, 被検標本が雄成虫だけであつたためであろうと考える.2.E. flavaを含めて, 毒針毛をもつ少くとも, 上記8種について比較してみると, 種によつて疫学相が甚だしく違う.わが国で普通に害を与える重要な種は, flavaとpseudoconspersaの2種で, 特に前種が甚だしい.これは, 異常的な大発生をして, 他の種に比べて発生量が桁はずれに大きい点に原因があるように考えた.3.わが国のドクガ大発生地は, 比較的限られているが, 共通した棲息環境として, 低い灌木叢林と, 瘠悪土壤の丘陵地帯が多い事を指摘した.4.古くから日本各地でドクガの大発生はみられていたのであるが, 最近に到つて, 大きな社会問題となつた.この理由について二・三考察したが, 大きな原因は人間の心理的, 社会的な変化に基くものであろうと推察した.5.東京都内で, 1956, 57年に起つたEuproctis属の種類による被害は, ドクガ成虫によるものが一番多く, チャドクガ幼虫, 成虫によるものも少なからずあつた.6.ドクガ成虫による被害は, 職業別に, 家庭の主婦, 勤め人, 学生に多い.罹患場所は, 殆んど屋内で, 18時から24時までの前夜半に多い.6時から10時までの朝にも少しみられた.罹患部位は, 腕, 胸部, 首に多い.また, 被害は, 1頭の成虫で1人の罹患者が出る場合が一番多かつた.7)ドクガの蛹による被害は1例もなく, 幼虫によるもの2例, 卵によるもの1例があつた.8)チャドクガ幼虫による被害は, 罹患時刻が昼間に多く, また罹患場所は全例が庭である点が, ドクガ幼虫の場合と異るが, 他の疫学相はよく類似していた.
著者
緒方 一喜
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.9, no.3, pp.116-129, 1958-08-10 (Released:2016-09-04)
被引用文献数
7 7

ドクガEuproctis flava Bremerの各期の形態, 特に幼虫と, その毒針毛についての形態を報告した.(1)卵は淡緑色.みかん形をしていて, 背腹に扁平, 底面はやゝ凹陥する.長径平均0.63±0.008mm, 短径平均0.46±0.013mm.卵殼は白色で, 表面には紋理, 凹凸はない.卵は卵塊として産みつけられ, 卵塊の表面は雌の尾房毛で厚くおおわれる.(2)幼虫の経過令数は, 各種環境要因に影響されて個体により群体により一定しない.このために, 令毎の特徴は一定しないで, あらゆる場合の個体に共通の令の特徴というものは, 1令を除いて見出す事はむつかしい事が分つた.幼虫は, 全期間を通じて, 形態的に5つの型に分ける事が出来る. A型は1令に相当し, 全く毒針毛を有しない. B型は2令以後10令まで.但し5令頃からC型がまざつてくる. B型は第1腹節亜背線部に1対の毒針毛叢生部をもつ型である. C型は, 更に第2腹節亜背線部に1対の毒針毛叢生部をもつ型で, (n-2)令までに相当する. D型は, 更に第8腹節亜背線部に毒針毛叢生部をもつ型で, (n-1)令に相当する.E型は終令で, 第1腹節亜背線に2対, 第2〜8腹節亜背線, 第1〜8腹節気門上線, 第1〜6腹節(時に1, 5, 6節を欠く)気門下線に各1対の毒針毛叢生部をもつ型である.(3)幼虫では, 普通体毛及び毒針毛は, 何れも各節の瘤起上に束生している.普通体毛には, 微毛と長短毛がある.微毛には, 瘤起上, 腹脚上, 普通微毛の3種がみられる.長短毛には, 普通毛, 側枝毛, 細毛, 単純毛などの区別がみられる.(4)毒針毛は, 平均約0.118mm, 最小0.053mm, 最大0.227mmの釘型をした毛で, 内部は中空, 表面には小さい棘状突起がならんでいる.ドクガの各stageを通じて, この毒針毛だけが, 有毒性をもつている.毒針毛長の最大値は, 令の増加に伴つて大きくなるが, 全毒針毛の平均値では, その増加は著しくない.毒針毛は, (n-1)令までは, 平均約7.5, 終令では平均約12.1本の1束となつて, 盃状体上の毛窩より生ずる.盃状体が集合して, 毒針毛叢生部を形成している.幼虫の令とともに, 一頭当りの毒針毛数は増加する.或飼育個体群のものを概算した結果では, 2令で約740本, 5令で約3, 300本, 8令で約8, 000本, 11令で約14, 500本, 14令(n-1令)で約88, 000本, 15令(終令)で6, 525, 000本にのぼつた.(5)サナギの形態を記載したが, 雌雄の区別は, 触角鞘が雌では細く, 隆起が小さいのに対し, 雄では逆である.また, 雌では, 第7〜10腹節の各関節は融合し, 腹面の境は正中線上に集つているが, この位置に生殖口がある.雄では, 第9と10腹節の境界線上に生殖口がある.雌は, 雄に比べて体長, 体重とも大きい.(6)成虫は, 体翅とも全体黄色で, 黄毛におおわれている.前翅先端の2黒点と, 中央附近の紫褐色黄帯が特徴的である.雌では, 腹部が太く, 尾端には多くの尾房毛が束生している.雄では腹部が細く, 尾端の尾房毛は甚だ貧弱である.
著者
緒方 一喜
出版者
日本ペストロジー学会
雑誌
ペストロジー学会誌 (ISSN:09167382)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.31-39, 1998-09-30
参考文献数
38

国際的な人や物の激しい流れ,インターネット等通信手段の発達等によって,世界はますますボーダーレスの時代になりつつある.今後ますます加速されるであろう国際化時代にPCOはどう対応すればよいのか.このテーマには国内外における外国企業との競争など,経営・営業戦略的に重要な側面が含まれるが,これは筆者の任ではないので触れない.ここでのテーマは,国際化に伴い日本に持ち込まれる衛生害虫・有害動物の侵入・定着の実態はどうか,PCOはいかにこれに対応したらよいかという側面である.といっても対策は個別的特性を持ち,また手ごろの妙薬があるわけではないが,ここでは過去の侵入の実態を追い,現在日本が抱える問題点を明らかにして今後の指針を探ることとしたい.
著者
緒方 一喜 渡辺 登志也 宮本 和代 川口 正将 豊田 耕治 小曽根 努 松岡 宏明 白石 啓吾 森岡 健志 吉岡 照太 鈴木 雅也 千保 聡 美馬 伸治 中村 友三 足立 雅也 芝生 圭吾 池田 文明 玉田 昭男 田中 生男 石原 雅典
出版者
日本ペストロジー学会
雑誌
ペストロジー (ISSN:18803415)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.51-58, 2012-11-25 (Released:2019-04-10)
参考文献数
18
被引用文献数
2

ヒトスジシマカ成虫に対する殺虫剤による防除実地試験を東京の寺院の庭で2010年の夏に実施した.5%ペルメトリン,10%フェノトリン,7%エトフェンプロックス水性乳剤の50倍希釈液を背負式噴霧機によって50 ml/m2の量で草むら,植木,空地に噴霧した.スイーピング法,ドライアイストラップによる捕集密度の変化,配置した成虫の死亡率から効果を評価した.結果として,ペルメトリンでは約10日間,他の2剤では4~5日間は成虫飛来密度が0近くに減少した.その違いは,処理面積の違いに基づくものであろうと考えた.その後密度は緩やかな回復に向かったが,吸血シーズンの終了に伴い散布前のレベルにまで回復することはなかった.以上の結果から,処理面積を大きくすることで,感染症発生時の緊急的媒介蚊防圧にこの手法は充分に実用的効果があるだろうと結論した.
著者
緒方 一喜 田中 生男 小川 智儀
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.241-245, 1975
被引用文献数
7

Field surveys of the distribution of domiciliary cockroaches were conducted in Tokyo and Kawasaki during the period between 1972 to 1974. In Tokyo, dead cockroaches collected from various types of buildings following insecticide treatment by pest control operators were brought to the laboratory and identified. Among a total of 286 buildings surveyed, 172 (60.1%) were restaurants and snacks, 25 (8.7%) offices, 14 (5.0%) food factories, 12 (4.2%) residences and 12 (4.2%) supermarkets. A total of 2,802 cockroaches was collected including Blattella germanica (93.7%), Periplaneta fuliginosa (4.8%), P. japonica (0.5%), P. americana (0.8%) and P. australasiae (0.2%). However, the findings cannot be taken to represent the general tendency of cockroach infestation in Tokyo since a disproportionately high number of restaurants and offices, which are the principal clients of pest control services, were surveyed. A correlation between the type of structural property and established cockroach species was examined and a dominance of B. germanica was shown in all cases. This was especially striking in the case of structures constructed within the past 5 years. In Kawasaki, a total of 145 cockroach adhesive traps were set in offices, restaurants, stores, apartments, residences and farm houses on two occasions in both summer and winter. Species compositon of trapped 1,755 individuals was B. germanica (78.6%), P. fuliginosa (20.7%) and P. japonica (0.7%). B. germanica was dominant over P. fuliginosa in offices, apartments, restaurants and stores, while the opposite was true for residences. In farm houses, P. fuliginosa was most abundant followed by P. japonica. A distinct tendency for the abundance of B. germanica in urban buildings, P. fuliginosa in residences and P. japonica in farm houses was observed. Furthemore, P. japonica has never been trapped during winter, suggesting that they had entered diapause.
著者
朝比奈 正二郎 緒方 一喜
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.104-106, 1956
被引用文献数
1 4

昭和30年夏期に於けるドクガの被害は, 名古屋市を最大として全国的な規模に於て発生し, 多大の関心を集めたことは御承知の通りである.然し乍らその発生状況や被害量は主にジャーナリズムによつて喧伝され, 実際以上に誇張された面も多く, 正確な資料に基いてその実体を記録する事が極めて必要と考えられるのである.筆者らは, ドクガ被害の実体を確認するため, 国立予防衛生研究所長の名に於て, 各都道府県関係当局者に対し, 昭和30年度に於ける各地の発生, 被害状況の調査と報告とを依頼し, 又雑多な文献に散在している過去に於ける発生記録の蒐集につとめた.30年度の被害に関する上記の方法に於ては, 発生量, 被害量が主に被害届出数により類推されている点, 又過去の記録に関しては, 何等統一されたものではないので, 記録方法の杜撰, 相対的な比較が困難であるなどの不備な点は止むをえないが, 一応大体の傾向は窺知し得るものと考えられた.冒頭に於て, 上記資料の蒐集に多大の御協力を示された各都道府県市衛生部局の各担当官の方々に深甚の謝意を表するものである.
著者
緒方 一喜 中山 孝夫
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.14, no.3, pp.157-166, 1963
被引用文献数
1 1

1962年3月から11月にいたる間, 川崎市北郊の約42aの水田で, 防除を目的とした蚊の発生動態の調査を行なつた.調査中に得た種類は, 4属9種で, コガタアカイエカ, シナハマダラカが圧倒的に多く, 前2種より著るしく少ないが, キンイロヤブカ, コガタクロウスカがこれについで多かつた.水田では, コガタアカイエカとシナハマダラカが圧倒的であつたが, 用水路では, コガタクロウスカが優占種であつた.水田における蚊幼虫発生の周年消長を論ずる場合, 稲作作業歴から, 次の4期に区分して考えると都合がよかつた.第1期(苗代作りから田植まで : 4月13日〜6月11日).第2期(田植からパラチオン散布まで : 6月12日〜7月14日).第3期(パラチオン散布から中干し開始まで : 7月15日〜24日).第4期(中干し開始から落水まで : 7月25日〜9月13日).第1期は, まだ湛水面積が狭く, 季節も早く, 幼虫の発生は少ない.土塊の間の水たまりにキンイロヤブカが多かつた.第2期の後半にコガタアカイエカ, シナハマダラカの急激な増加がみられた.6月21日以降, 全水田に幼虫の発生がみられるようになつた.第3期は, パラチオン散布で始まる.これで全滅した幼虫も, 9日目にはほぼ元通り回復する.そして, 再び急激に増加するが, 中干し開始によつてここに第2のピークを作る.第4期には, 1〜5日間の中干しが合計8回行なわれた.中干の間に灌水が行なわれた時, 多数の幼虫が発生したが, 羽化にはいたらず次の中干しによつて死滅したようである.そして, 9月13日の落水で幼虫の発生は終りをつげた.すなわち, 水田における蚊の発生は水によつて大きく規制され, 7月下旬から始まる頻繁な中干しによつて, 成虫の発生を許す期間は6月中旬から7月下旬にいたる約40日間であつた.この間, 7月中旬に農薬散布が行なわれるので, 6月中旬から7月中旬にいたる間に対策を講ずればよいと考えた. 1つの試案として, この年の作業歴を基にすれば, 6月27日頃と, 7月6日頃の2回, 中干しか, 殺虫剤散布を行なえば, 充分な駆除効果を上げ得ることを確かめた.ライトトラップによる成虫の出現消長と, 水田の幼虫の消長との間には, そのパターンにかなりの相違がみられた.その因果関係を論じ, この年の長梅雨と低温が成虫捕集の時期をおくらせたこと. 7月下旬以降は中干しによつて成虫になり得ず, このために成虫の補給が絶たれたこと, によつて, 成虫では急峻な1つのピークができたものと考えた.
著者
緒方 一喜 池田 高治 海野 登久子 BOCANEGRA Rodolfo Zeissig
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.47-57, 1992
被引用文献数
2

グアテマラにおけるマラリア対策のための残留噴霧法の改良のために, Anopheles albimanusの吸血・休息行動の観察を, 南部太平洋岸の一部落で2年半にわたって実施した。吸血活動の季節的ピークは, 雨期の始まり直後(6月)と終わり(11月)に現れる二山型であった。時刻的消長は, 日没3時間内にピークをもつ一山型であったが, 季節的には必ずしも一定しなかった。最初の観察時には屋外・屋内吸血性は相半ばしたが, 殺虫剤の散布開始によって屋外吸血性が高まった。屋内で吸血した個体は数時間内に大半は屋外に脱出し, 翌朝まで残るのは数%にしかすぎなかった。屋内平均滞留時間は, 無散布家屋で約30分, 殺虫剤散布家屋で10数分であった。しかし, 殺虫剤残渣面への忌避は顕著ではなく, とくにプロポクスルにはよく接触し, 大部分は屋内で死にいたった。昼間の休息場所の観察では, 常に多数発見できたのは小屋の屋根裏で, 人家内・屋外には少なかった。以上の知見を現行の残留噴霧法にからめて論じた。
著者
緒方 一喜 原田 節子 中村 光子
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衞生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.5, no.3, pp.100-110, 1954-12-30
被引用文献数
3

1. S. aokiiは本州, 九州に広く分布し, 平地から山脚地帯にかけての小流に発生する極く普通の種類である.屡々山間の溪流にもみられる.又, S. venustumと共に本邦に於て激しく人を襲う代表的な種類である.2.著者の観察によれば, 産卵は夕刻に多く, 水中の植物, 岸の上から垂れた草の葉或はコンクリート壁を問わず産卵場所は水表上の常に水沫で濡れる状態の場所であつた. 1〜数10匹で集団的に或限られた小面積の好適な場所に短時間に行われた.そして1〜数10個の卵塊は集合的にうみつけられた.1匹の雌による1回の産卵数は150〜300と考えられた.3月の室温で約10日で孵化を始めた.3.幼虫は川幅約1〜0.3m, 流速10〜30m/分, 水質は水底が見える程度の清流に最も多数みられた.4.幼虫が水中で吸着している基物は, 基物自体に対する選択よりも, 寧ろ基物のおかれている環境条件によつて選択される.自然界では水面下約10cm以内の植物に大部分吸着している.特に細長い葉面の裏面先端部に多い.5.幼虫は水中で, 好条件下では数日間同一場所に固着しているが, 又或程度尺取虫状匐匍運動或は分泌した糸に懸垂して移動を行つている.6.蛹の発生水域から1, 000mの距離迄100mおきに実験者が位置し, 刺咬する成虫を採集して活動範囲調査を行つた.発生水域附近が最も刺咬数は多く, 1, 000mの地点でも若干採集された.7.成虫の刺咬活動は周年みられるが, 特に3月から7月にかけて最盛活動を示した.8.雌成虫は最も人を好んで吸血するものと考えられた.牛, 馬及び山羊を用いて襲来成虫を採集したが, 馬で9匹, 牛で1匹採集されたに過ぎなかつた.
著者
鈴木 猛 緒方 一喜 平社 俊之助 長田 泰博
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.10, no.4, pp.258-267, 1959

1.1959年5月8日より6月9日に至る間, 長崎県西彼杵郡高島町の端島において, ゴキブリの棲息状況の調査, 及び殺虫剤による駆除実験を試みた.2.採集数1232匹中, 3匹のクロゴキブリPeriplaneta fuliginosa Servilleを除いて, 他はすべてワモンゴキブリPeriplaneta americana L.であり, 1958年の予備調査の結果とあわせ, 端島のゴキブリの優占種はワモンゴキブリであり, しかもきわめて高い比率を占めることを認めた.3.実験地のアパートからトラツプによつて採集されたワモンゴキブリは, ♀より♂の方がはるかに多い.一方, ほぼ同時間に採炭坑内から採集されたワモンゴキブリは, ♀の方が♂より多いことを知つた.4.ワモンゴキブリは実験地のアパートに確率的に分布するのではなく, ある特定の家に集中する.そして, 各戸面接調査によつて得た環境条件と, トラップで捕獲したゴキブリ数の相関をしらべた結果, カマドの使用頻度が高く, カマドの下にたきぎや紙などがつまつており, また屋内全体の湿気が高い家ほどゴキブリの棲息密度が高いことを知つた.5. diazinon 5%乳剤(塗布及び撒布, 各原液及び5倍), lindane 10%乳剤(各2倍及び10倍), dieldrin 4% lindane 6%乳剤(各2倍及び10倍), BHC50%水和剤(各10倍及び50倍)をカツコ内の濃度に稀釈し, 塗布実験区では, 1戸150ccの割でカマドや流しの周辺, 台所のすみ, 押入の入口などに刷毛を用いて巾5〜7cmに塗布した.撒布実験区では, 台所や押入入口附近のゴキブリの潜伏場所やその周辺に対し, 1戸あたり約800ccを全自動式噴霧器によつて撒布した.6.薬剤の効果を正しく把握するため, トラップあるいは視察によつて得たデータに対し, 次の補正によつて相対棲息密度指数RPIを算出した.RPI=T_<ai>/E_i×100=C_b/C_<ai>×T_<ai>/T_b×100ここで, T_<ai>, T_bはそれぞれ薬剤処理区の処理以前の1日平均捕集数, C_b, C_<ai>は同じく対照区の平均捕集数であり, またE_iは, 薬剤処理を全く行わないと仮定した場合の処理区のi日後の期待捕集数で, 次によつて得られる.E_i=T_b×C_<ai>/C_b 7.同種の薬剤で, 塗布の効果は一般に撒布の効果に劣る.トラップの捕集数から判定すると, lindane撒布, lindane・dieldrin混合剤撒布がもつとも有効であるが, 1ヵ月後にはほぼもとの相対密度まで回復する.diazinon撒布及び塗布, 混合剤塗布がこれにつゞき, lindane塗布は効果がそれほど大きくない.BHCの撒布と塗布は, 効果がほとんど認められなかつた.8.視察及び死亡虫数から効果を判定すると, おゝむねトラップによる方法と結果が一致するが, ただBHC撒布の効果が著しく高くあらわれた.9.薬剤処理後のワモンゴキブリの性比及び幼虫比を, 処理前及び対照区のそれと比較検討した結果, 処理区では, 全成虫中に占める♂の比率及び全ゴキブリ中の幼虫の比率がともに減少する傾向にあることを知り, これを♀に対する♂の, また成虫に対する幼虫の, 薬剤に対する高い感受性によるものと推定した.結果において, 薬剤処理区では, ♀の比率が高まることを知つた.10.アパートの各戸内に床面積1m^2あたり9.2cc(約300cc/33m^2)のDDVP0.3%油剤を煙霧機によつてふきこんだが, ワモンゴキブリに対して, ほとんど効果が認められなかつた.11.端島で1959年6月以降行われたゴキブリ全島駆除の概況を附記した.