著者
中村 敦志
出版者
札幌学院大学人文学会
雑誌
札幌学院大学人文学会紀要 (ISSN:09163166)
巻号頁・発行日
no.77, pp.37-49, 2005-03

詩集Blizzard of One (1998)は、"Untitled"から始まる。その中には別の詩が含まれるものの、この詩自体には題名が無い。なぜ、Mark Strandは、このような無題の詩から始めるのだろうか。それは,ストランドが,自己の不在性について探究していることに関わっている,と筆者には思われる。本論は,"Untitled"への疑問をきっかけに,3つの視点からBlizzard of Oneに見られるストランド詩の変化に着目する。まず,"Untitled"と同様に,過去に関連する6篇の詩を取り上げる。これらの詩は,過去の亡霊に囚われながらも,闇夜から逃れて光を目指そうとする一面がある。次に,主題の鍵を握る4篇を扱う。この中で詩人は,過去を嘆いているだけではない。失われた時間の意義を再考して現在に生かし,未来へ繋げる可能性を見出そうとしている。過去のストランド詩には見られなかった一面だ。最後に,初期の代表詩の一つ"Keeping Things Whole"との比較を試みる。「自己の不在性」という主題について,ストランドの捉え方に変化が見られる。空虚な自己の存在を受け入れ,新たな自己を見詰めなおそうとする詩人の姿がある。それが,この詩集に見られるストランドの変化だと言えよう。
著者
中村 敦志
出版者
札幌学院大学
雑誌
札幌学院大学人文学会紀要 (ISSN:09163166)
巻号頁・発行日
vol.69, pp.1-12, 2001-03-21

マーク・ストランドの新詩集, Blizzard of One (1998)は, どのような特徴があるのか。そのタイトルは何を表すのか。果たしてブリザード(猛吹雪)は起きるのだろうか。これらの点を念頭に置きながら, 4つの視点から考察する。まずは, 消滅を扱った2篇, "A Piece of the Storm"と"The Night The Porch"を考察する。2番目に, "Precious Little"を例に, 詩集に頻出する風について考える。3番目には, 詩人の問題を扱った3篇, "The Disquieting Muses", "The Great Poet Returns", "Five Dogs"を取り上げる。そして最後に, 日没を描いた2篇"The Next Time"第III部と"The View"について考えてみる。その結果, 以下のように結論付ける。この詩集の世界で, 嵐や吹雪が実際に起きることはない。だが, 起きるかもしれないという不安が, 絶えず付きまとう。例えば, 強風にもなり得る風が, 詩の中で頻繁に吹いている。それは今すぐ起こる猛吹雪ではないにしろ, 近い将来に起こり得る, とストランドは言っているようだ。つまり, Blizzard of Oneの世界そのものが, そんなブリザードの前兆となっているのである。