著者
中村 紫織
出版者
東京慈恵会医科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

「軽度認知機能障害(Mild Cognitive Impairment: MCI)」は認知症の前段階とされ、Clinical Dementia Rating (CDR)でCDR0.5の「認知症疑い」に相当することがその診断基準の主要項目とされている。本研究は、先行研究でCDR0.5と判定された高齢者を追跡調査し、認知症に進行した人の割合を算出し、早期診断やハイリスク群の予測ができるかを検討する目的で実施した。本研究は疫学研究の要素を含むため、「疫学研究に関する倫理指針」(平成14年文部科学省・厚生労働省告示第2号)及び平成14年6月17日付け14文科振第123号文部科学省研究振興局長通知に定める細則に沿って東京慈恵会医科大学の倫理委員会の承認を得た。平成10年度に新潟県糸魚川市の高齢者への健康調査でCDR0.5と判定された252名のうち、生存者193名を対象とした。本人と家族に対し、本研究の目的、方法、意義、対象者への人権保護の配慮(守秘義務等)について十分に説明した文書と調査への協力の依頼状を送付し、賛同を得られた111人に対して精神科医師と保健師が訪問調査を実施した。その結果、33人はMCIにとどまっていると判断されたが、78人が認知症と診断され、アルツハイマー型認知症55.1%、血管性認知症29.5%、その他の認知症15.4%であった。7年間でMCIから認知症に進行した人の割合は70.3%、前回調査の時点で「直近一年間で進行性の認知機能変化がある」と判断された群では87.2%、「一年前とは変化がない」と判断された群では60.0%であった。CDR0.5に該当するというだけではなく、短期間における進行性の認知機能低下を認める場合にハイリスク群として経過を追うことが早期診断をする上で有効と考えられた。本調査の結果は第13回国際老年精神医学会、世界精神医学会国際会議2007で報告した。