著者
二宮 博義 中村 経紀
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
日本獣医学雑誌 (ISSN:00215295)
巻号頁・発行日
vol.50, no.5, pp.1065-1073, 1988-10-15

SD系ラットにN-Methyl Nitrosoureaを投与して乳頭状腺腫を誘発させ, 線腫の血管系を立体的に観察した. 方法はアクリル系樹脂を左心室より注入して樹脂鋳型標本を作成し走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した. さらに別のラットには墨汁を注入し透明標本を作成しSEM所見と対照した. 組織学的には, 腫瘍は立方あるいは円柱形の上皮細胞群からなる胞巣と, その周囲の豊富な結合組織で構成されていた. 胞巣には腺管構造や小嚢胞腔の形成が認められ, 増殖の著しいものでは上皮細胞は乳頭状に増殖していた. 腫瘍に向かう血管は直線的で, 正常な血管に認められ血流調節機能を有するintra-arterial cushionは認められなかった. 腫瘍に進入した血管は分校を繰り返し胞巣の外周にカプセル状に密な血管網を形成していた. 胞巣内の毛細血管は太く多数のヘアピン状のループを形成していた. このループを形成する毛細血管には盲端に終っていたりコブ状に突出したものも観察された. こうした所見は腫瘍に特有な血管の新生像であると考えられた. また, 一部の血管には鋳型の表面が粗造で血管壁の脆弱性あるいは透過性の亢進を思わせる所見も観察された.