著者
中林 哲夫
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.146, no.4, pp.185-190, 2015 (Released:2015-12-10)
参考文献数
26

精神神経領域の医薬品開発は,国際的にも活発である.これまでのうつ病治療薬の開発は,選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)やセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)等が中心であり,これらは今日の標準治療薬に位置づけられている.現在,数多くのうつ病治療薬が使用可能となっているが,うつ病治療の臨床的課題(unmet medical needs)は,複数の抗うつ薬による治療を試みても十分な効果が得られない患者が一定数存在することである.このため,近年のうつ病治療薬の臨床開発では,既存治療薬で効果不十分な患者を対象とした第2選択薬の開発が増加し,そして新規性の高い作用機序を有する化合物の開発が行われている.現在,臨床開発の段階にある化合物には,アミノ酸関連,神経ペプチド類関連の作用機序を有するものがあり,うつ病のモノアミン仮説を超える化合物が開発対象となっている.精神神経領域の医薬品開発を目的とした臨床試験の基本デザインはプラセボ対照比較試験であるが,臨床試験の成功割合は高くはなく,プラセボに対する優越性を示すことも容易ではない.近年は,臨床試験におけるプラセボ反応性が増加傾向にあり,その要因についても検討が進められている.これらの有効性評価に影響を及ぼす要因を特定し,より適切な臨床評価方法を検討していくことは重要であり,精神神経領域におけるレギュラトリーサイエンスの課題と考える.