著者
中納 治久 大嶋 貴子 中納 淳子 槇 宏太郎
出版者
昭和大学・昭和歯学会
雑誌
昭和歯学会雑誌 (ISSN:0285922X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.129-140, 2003-06-30 (Released:2012-08-27)
参考文献数
23

著しい過蓋咬合を伴う, 下顎の劣成長と著しい上顎前歯の唇側傾斜を伴う上顎前突症例に対し, 5⊥4抜歯による矯正治療を施行し予後の安定を図るためoverjet, overbiteのovercorrectionを行った.保定後2年を経過し継続的な歯周病予防の管理と保定装置の使用, さらに咬唇癖などの習癖に対する指導を行っていたにも関わらずoverbiteの増加を認めた.過蓋咬合であっても中心咬合位における安定した歯の接触があり, 機能的に為害作用が無ければ問題ない.しかし, 前方, 側方滑走の制限による顎関節に対する荷重負担や歯周組織に対する為害作用などがあれば, 安定した状態とは言い難い.本症例は骨格的に下顎角が小さく, 上下顎犬歯, 下顎側切歯に著しい咬耗が認められることから, 咀嚼パターンは過度のgrinding patternであることが予測される.これらの機能的な問題は下顎犬歯間幅径の減少, 下顎前歯の挺出と舌側傾斜, 上顎前歯の挺出を引き起こし, その結果, 下顎前歯が上顎前歯を突き上げ, 正中離開とoverbiteの増加を招き不安定な状態である.つまり, 過蓋咬合におけるoverbiteの後戻りを予防するにはovercorrectionのみならず, 機能・咬合・形態の相互関連を定量的に評価した上で, より正確で安定的な治療目標を設定することが重要であると示唆される.