著者
古山 公英 黒岩 茂 河合 正計 立川 哲彦
出版者
Showa University Dental Society
雑誌
昭和歯学会雑誌 (ISSN:0285922X)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.85-91, 1983

メチル水銀を多量に含むマグロ肉の摂取に対しては同時に共存するセレンが毒性を減じているという報告がある.一方, マグロ肉を長期摂取すると染色体や病理所見に異常がみられるという報告もある.しかし, 比較的一般人よりマグロ肉を多食すると思われ, また, 毛髪中水銀濃度が高濃度であるマグロ漁船員には異常な所見がみられたという報告はない.そこで今回, 凍結乾燥したカジキマグロ肉45%含有する飼料を作製し, ネコに対して長期投与実験を行い生体への影響を追試した.3年間という長期投与期間のため, 急性伝染病の感染などがあり生存例が少なかったために明確な結論は得られなかったが, 1,175日屠殺例の臓器内蓄積量は対照群に比べ多く, 途中死亡例と比較しても数倍高い値であり, 長期飼育での蓄積の増加がみられた.小脳における総水銀に対するメチル水銀の割合はおのおの57.2, 93.2%と高く, 肝では逆にこの割合は低く, 肝での無機化が示きれた.染色体の異常および神経症状を主とする発症はみられなかった.しかし, 病理組職学的検索においてはメチル水銀中毒所見と思われる小脳の穎粒細胞の脱落, 消失とプルキニエ細胞の消失がみられた.このことはカジキマグロ肉の大量長期摂取は注意を要すると考えられるが, 今後さらに動物数を増加し, dose-response, dose-effectの関係を確かめる必要かあると考えられる.
著者
中納 治久 大嶋 貴子 中納 淳子 槇 宏太郎
出版者
昭和大学・昭和歯学会
雑誌
昭和歯学会雑誌 (ISSN:0285922X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.129-140, 2003-06-30 (Released:2012-08-27)
参考文献数
23

著しい過蓋咬合を伴う, 下顎の劣成長と著しい上顎前歯の唇側傾斜を伴う上顎前突症例に対し, 5⊥4抜歯による矯正治療を施行し予後の安定を図るためoverjet, overbiteのovercorrectionを行った.保定後2年を経過し継続的な歯周病予防の管理と保定装置の使用, さらに咬唇癖などの習癖に対する指導を行っていたにも関わらずoverbiteの増加を認めた.過蓋咬合であっても中心咬合位における安定した歯の接触があり, 機能的に為害作用が無ければ問題ない.しかし, 前方, 側方滑走の制限による顎関節に対する荷重負担や歯周組織に対する為害作用などがあれば, 安定した状態とは言い難い.本症例は骨格的に下顎角が小さく, 上下顎犬歯, 下顎側切歯に著しい咬耗が認められることから, 咀嚼パターンは過度のgrinding patternであることが予測される.これらの機能的な問題は下顎犬歯間幅径の減少, 下顎前歯の挺出と舌側傾斜, 上顎前歯の挺出を引き起こし, その結果, 下顎前歯が上顎前歯を突き上げ, 正中離開とoverbiteの増加を招き不安定な状態である.つまり, 過蓋咬合におけるoverbiteの後戻りを予防するにはovercorrectionのみならず, 機能・咬合・形態の相互関連を定量的に評価した上で, より正確で安定的な治療目標を設定することが重要であると示唆される.
著者
大野 彰久 鈴木 康生 高橋 真朗 向山 賢一郎 野島 洋 藤原 理彦 大山 まゆみ 山田 かやの 佐々 竜二
出版者
Showa University Dental Society
雑誌
昭和歯学会雑誌 (ISSN:0285922X)
巻号頁・発行日
vol.12, no.3, pp.221-229, 1992
被引用文献数
11

小児歯科臨床における外傷症例の対応は, 予後管理も含めて, 近年ますますその重要性が高まってきている.これまで小児の歯の外傷に関しては, 症例や処置内容などの実態調査の報告は多いが, 受傷から来院までの経過を詳しく調査した報告は少なく, その実態を知ることは, 適切な処置を施す上でも大切なことといえる.今回, 当科来院までの経緯を把握すべく, 外傷の既往が比較的はっきりしている受傷後1週間以内に来院した者に限って, その内容を調査した・その結果, 当科来院状況では, 約10年前に比べ, 総来院者に対する外傷児の比率が高くなってきていた・年間の月別来院者数は, 8月がやや少なかった.受傷曜日と来院曜日をみると, 乳歯では木曜から土曜日の週後半の受傷者が若干少ないものの, ほぼ1週間変わりなく, また来院は圧倒的に月曜日が多かった.永久歯では火曜から土曜, 中でも金曜日に多く, 来院は週後半に漸増していた・受傷原因は, 乳歯・永久歯とも転倒が多くを占めた.受傷場所では乳歯で屋内が多いのに対し, 永久歯では屋外の事故も増加していた.受傷状態は, 乳歯では重度脱臼が最も多いのに対し, 永久歯では歯冠破折が多数を占めていた.受傷直後の受診医療機関をみると, 乳歯では近医 (歯科) と当科を受診した者で7割強と多かったが, 永久歯では直接当科を受診した者が半数を占めていた・当科来院までの日数は, 全体として24時間以内, あるいは2日以内の早期に来院する者が多く, 特に永久歯の場合に著明であった.これを受傷状態との関連でみると, 脱臼症例では乳歯・永久歯とも早期来院者が多く, 特に重度脱臼者では24時間以内の来院が7割を超えた.一方, 歯冠破折症例では, 乳歯ではやや来院が遅れる小児が増えるのに対し, 永久歯では24時間以内が8割程度と早期の来院が特徴的であった.受傷部位は上顎前歯部が圧倒的に多く, その処置は, 乳歯では固定処置, 永久歯では歯髄処置を含めた歯冠修復処置が多かった.以上のような調査結果から, 当科では外傷児の来院が増加傾向にあり, また受傷後, 早期の来院者が比較的多いことからも, 受け入れ側としての的確な対応と体制の整備が望まれることが判明した.
著者
山本 綾子 永尾 悦子 浅賀 恵美子 五十嵐 武 佐々 龍二 後藤 延一
出版者
昭和大学・昭和歯学会
雑誌
昭和歯学会雑誌 (ISSN:0285922X)
巻号頁・発行日
vol.21, no.4, pp.413-420, 2001-12-31 (Released:2012-08-27)
参考文献数
33

口腔トリコモナス (Trichomonas tenax : T. tenax) は, 歯周疾患患者から非常に高率に分離されることから歯周疾患との関連性が疑われている.また, 口腔領域以外の種々の病巣から分離されそれぞれの疾患との関連性が推定されているが, 従来は純培養が困難であったことから, 研究が進まずT. tenaxが保有する病原因子は解明されていない.我々は, 病原性に関連する種々の生化学的性状を明らかにしてきている.今回は, 病原体に対する重要な防御因子である免疫グロブリン, すなわちIgG, IgM, IgAおよびSIgAの分解能について検討した.T. tenax細胞の滲出液は, IgGを著明に分解し, IgMは僅かに分解した.その両者の分解活性はDTTによって促進され, E-64によって著しく阻害されたが, EDTA, pepstatin AおよびAEBSFによっては影響を受けなかった.血清型IgAは, 完全に分解されためにDTTによる活性化は不明であるが, E-64によって活性が明らかに阻害された.以上の阻害剤および活性化剤の影響から判断して, IgG, IgMおよび血清型IgA分解は, T. tenaxが保有するシステインプロテアーゼによるものと考えられた.SIgAのSC成分は著しく分解され, その活性はEDTAおよびAEBSFによって阻害されたが, DTTおよびE-64によっては影響を受けなかった.このことから, SlgAのSC分解に関与する酵素は, IgG, IgMおよび血清型IgA分解に関与するものとは異なるプロテアーゼであることが推定できる.以上の結果から, T. tenaxは, 歯周ポケットや唾液中に存在する各クラスの免疫グロブリンを分解できることがわかった.
著者
山縣 健佑 積田 正和 谷口 秀和 小川 恭男
出版者
Showa University Dental Society
雑誌
昭和歯学会雑誌 (ISSN:0285922X)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.47-56, 1988
被引用文献数
10

粉末法パラトグラフィーを応用して, 歯の舌側面および咬合面を含む口蓋部への発音時の舌の接触範囲を観察する方法を開発した.研究方法 : 上顎模型の歯列と口蓋部にビニールシートを圧接成型して記録板を作製し, アルジネート粉末を塗布し, 口腔内に装着して発音させた.被験者は, 有歯顎者10名 (男9名, 女1名) で, パラトグラムの採得と発音誤聴率検査を行った.被験音は, 「サ, シ, ヒ, カ, キ, タ, ナ, ラ, ヤ」である.発音誤聴率検査は, この9語音が, それぞれ10回ずつ出現するようにして3語音ずつ組み合わせた検査語表によって行った.発音誤聴率検査の結果 : 記録板装着時には記録板なしよりも異常度はやや増加するが, 大部分は「ヒ」「キ」についての誤聴である.被験者1名で, 「キ」の誤聴率が30%であったほかは, 4%以下の誤聴で, 異常の程度は小さい.パラトグラムの計測結果 : 歯列に対する舌の接触部位は被験音によって異なり, 口蓋部への舌の接触範囲が標準的な場合には, 歯列との接触範囲も限られた部位で一定のパターンとなる.その範囲は, 臼歯では舌側咬頭頂をややこえる部分まで, 前歯部では基底結節から歯冠のほぼ中央まで接するのが典型的なパターンである.ただし, パラトグラムが非典型的形態と思われる被験者でも, 発音誤聴率検査では誤聴が認められない場合も多い.
著者
桑澤 実希 北川 昇 佐藤 裕二 赤坂 恭一朗 金原 大輔 瀬沼 壽尉 吉岡 達哉 石橋 弘子 今井 智子 新井 元 杉山 雅哉 吉江 正隆
出版者
Showa University Dental Society
雑誌
昭和歯学会雑誌 (ISSN:0285922X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.387-390, 2004-12-31
参考文献数
6
被引用文献数
3

超高齢社会を迎えるなかで, 高齢者のQOLを支えるためには口腔の管理と口腔ケアが不可欠と考えられる.ここに大田区の特別養護老人ホームにおける昭和大学歯科病院の訪問歯科診療の実態と2003年度の訪問歯科診療の概要について報告する.我々は1998年より同施設の依頼により訪問歯科診療を開始した.現在は毎週木曜日の15 : 30~17 : 30まで, 歯科医師4名と歯科衛生士1名で往診を行っている.2003年度の歯科診療は同施設と歯科病院外来の合計で200件, 口腔衛生指導は226件で, 全ての合計は426件であった.2003年度の歯科診療は義歯に関するものが105件と半数近くを占めた.次いで, 歯科医師によるスケーリングなどの歯周治療が61件, 残存歯の削合や充墳処置など保存関連の治療が14件であった.他には, 抜歯・摂食相談・粘膜疾患など多岐にわたった.これより, 訪問歯科診療には各専門科の連携が必要であることが示唆された.歯科病院外来での治療は通院が必要かつ可能な場合においてのみ行われた.通院件数は43件あり, 内容は義歯の製作と充填処置・抜歯処置であった.しかし, 歯科病院への通院は入居者・施設職員ともに大変な負担を強いることとなるので, 今後は施設内でより高度な歯科治療を提供できるように診療器材を充実させる必要があると考えられた.
著者
宇田川 信之 高見 正道 自見 英治郎 伊藤 雅波 小林 幹一郎 須沢 徹夫 片桐 岳信 新木 敏正 高橋 直之
出版者
昭和大学・昭和歯学会
雑誌
昭和歯学会雑誌 (ISSN:0285922X)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.64-69, 2001-03-31 (Released:2012-08-27)
参考文献数
10

破骨細胞は高度に石灰化した骨組織を破壊・吸収する唯一の細胞である.骨吸収を司る多核の破骨細胞はマクロファージ系の前駆細胞より分化する.この破骨細胞の分化と機能は, 骨形成を司る骨芽細胞あるいは骨髄細胞由来のストローマ細胞により厳格に調節されている.大理石骨病を呈するop/opマウスの解析より, 骨芽細胞が産生するマクロファージコロニー刺激因子 (M-CSF) が破骨細胞前駆細胞の分化に必須な因子であることが示された.更に最近, 骨芽細胞が発現し破骨細胞の分化と機能を調節する腫瘍壊死因子 (TNF) ファミリーに属する破骨細胞分化因子 (osteoclast differentiation factor, ODF/receptor activator of NF-κB ligand, RANKL) がクローニングされ, 骨芽細胞による骨吸収の調節メカニズムのほぼ全容が解明された.骨吸収の調節は, Ca代謝調節ホルモンと共に局所で産生される各種のサイトカインが重要な役割を担っている.骨吸収促進因子は骨芽細胞あるいは間質細胞に作用してRANKLの発現を促進する.しかし, TNFαやIL-1は破骨細胞前駆細胞や破骨細胞に直接作用し, RANKLのシグナルを介さずに破骨細胞の分化や骨吸収機能を促進することも明らかにされた.さらに, 骨形成因子 (BMP) をはじめとするTGF-βスーパーファミリーに属するサイトカインがRANKLの存在下で破骨細胞の分化と機能を促進する結果も得られた.現在, これらのサイトカインとRANKLとのシグナル伝達のクロストークに関する解析が活発に行われている.
著者
江黒 節子 篠原 親 柴崎 好伸 中村 篤 大野 康亮 道 健一
出版者
昭和大学・昭和歯学会
雑誌
昭和歯学会雑誌 (ISSN:0285922X)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.68-73, 1997-03-31
参考文献数
3
被引用文献数
1

上顎前歯歯槽部が過度に露出した上顎前突症患者 (Angle Class II division 1) に対し, 矯正治療に加えLe Fort I型骨切り術と下顎枝矢状分割術を併用することで, 顔貌と咬合の改善を計った.Le Fort I型骨切り術は, 術直前に, 上顎左右第二大臼歯を抜去することで得られた抜去空隙を利用し, 後方移動量を増大させた.結果, 上顎中切歯切縁にて, 上方に7.0mm, 後方に5.0mm, 上顎第一大臼歯近心咬頭頂にて, 上方に4.5mm, 後方に7.0mmの移動が可能となり, 更に, 下顎枝矢状分割術の併用により, ANB角は7.0度から3.9度へ改善された.これより本法は, 著しい上顎前突症患者に対し, 良好な顔貌および咬合状態を得る有用な方法と考えられたので, その概要を若干の考察を交え報告する.
著者
鄭 宗義 今村 一信 大塚 純正 柴崎 好伸
出版者
昭和大学・昭和歯学会
雑誌
昭和歯学会雑誌 (ISSN:0285922X)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.48-54, 1997-03-31 (Released:2012-08-27)
参考文献数
28

審美的な顔貌の獲得のための矯正治療のゴール設定を目的として, 顔面形態と下顎前歯の位置について以下の検討を行った.研究対象は, 矯正治療を終了した88名で, これらについて審美的観点から調和群, 不調和群の2群に分類し, Rickettsの分析法を用いて, 顔面形態ならびに歯の比較検討を行った.特に, 側面頭部X線規格写真の計測からA-Pog線に対する下顎中切歯の植立状態と顔面形態が, 審美性に対してどのように関連しているのかを検討し, 以下の結果を得た.1.調和群の側貌の上唇は, Esthetic lineより0.2mm後方, 下唇は1.0mm前方に位置していた.一方, 不調和群では上唇は0.9mm前方, 下唇は3.0mm前方に位置しており, 不調和群の下唇は調和群に比べ有意に前方位を取っていた.2.下唇の前後的位置と下顎前歯の位置とに有意な相関が認められ, 側貌の調和には下顎中切歯の位置が関与していることが示された.3.A-Pog線に対する下顎中切歯の切端の位置は, 中顔型で3.7±1.4mm, 短顔型は3.6±1.6mm, 長顔型は4.7±2.0mmであった.一方, 下顎中切歯の歯軸傾斜には, 顔面形態による有意な相違は認められず, 平均25.6°であった.以上, 審美性の見地から矯正治療の目標を設定する際には, 顔面形態による相違を考慮に入れる必要があり, 特に長顔型の場合, 他に比べ下顎前歯の位置をやや唇側に植立するように留意すべきであることが示された.
著者
中山 裕司 高橋 浩二 宇山 理紗 平野 薫 深澤 美樹 南雲 正男
出版者
昭和大学・昭和歯学会
雑誌
昭和歯学会雑誌 (ISSN:0285922X)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.163-174, 2006-06-30 (Released:2012-08-27)
参考文献数
23
被引用文献数
2

音響特性による嚥下障害診断の重要な手掛かりとなる嚥下音について, その産生部位や部位に対応した音響特性は明らかとされていない.そこで嚥下音の産生部位と音響特性を明らかにする目的で, 画像・音響分析プログラムを新たに構築し, 健常者を対象として嚥下音産生時の造影画像と嚥下音音響信号データの同期解析を行った.対象は健常成人12名で, 各被験者8嚥下ずっ計96嚥下にっいて食塊通過時間の測定, 食塊通過音の識別と出現頻度の解析, および最大ピーク周波数の評価を行った.食塊通過時間は喉頭蓋通過時間 (121.7±92.4msec), 舌根部通過時間 (184.8±70.6msec), 食道入口部通過時間 (342.9±61.1msec) の順で長くなり, 舌根部通過音, 喉頭蓋通過音, 食道入口部通過開始音, 食道入口部通過途中音および食道入口部通過終了音が識別された.このうち喉頭蓋通過音が最も出現頻度が高く (96嚥下中94嚥下), 嚥下ごとの通過音の出現状況では舌根部通過音, 喉頭蓋通過音, 食道入口部通過開始音, 食道入口部通過途中音の4音が出現するパターンが96嚥下中22嚥下 (22.9%) と最も多くみられた.また最大ピーク周波数の平均値の比較では食道入口部通過開始音 (370.7±222.2Hz) が最も高く, 続いて食道入口部通過途中音 (349.1±205.4Hz), 舌根部通過音 (341.2±191.3Hz), 喉頭蓋通過音 (258.6±208.2Hz), 食道入口部通過終了音 (231.2±149.8Hz) の順であった.本研究により嚥下音の産生部位と産生喜附に対応した音響特性が明らかとなった.
著者
柴垣 博一 若月 英三
出版者
昭和大学・昭和歯学会
雑誌
昭和歯学会雑誌 (ISSN:0285922X)
巻号頁・発行日
vol.20, no.4, pp.449-465, 2000-12-30 (Released:2012-08-27)
参考文献数
40

モンゴロイド集団というのは, 大きく分けて2つのグループに分けられるという.1つはSinodont (中国型歯形質) とよばれるもの, もう1つはSundadont (スンダ型歯形質) である.日本では, このSundadontをもつ縄文人が1万年ほど前に渡来した.しかし, その後, 約2000年前にSinodontをもつ弥生人が朝鮮半島経由で渡来し, 混血して現在のようなSinodontが優性な日本人が形成されたといわれている.そこで著者らは, モンゴロイドの基盤となる集団と近縁であると考えられるSundadontに属する南方系のフィリピン人とSinodontに属する日本人と日本人の起源と関係の深い北方系の中国人の各々の上顎口腔内石膏模型を作製した.これらの上顎口腔内石膏模型をレーザー計測装置SURFLACER VMS-150R-D (UNISN社) を用いて三次元的に計測し, パソコン上で画像解析ソフトSURFACER (米国IMAGEWARE, INC) で, 歯列弓の大きさと口蓋の深さ (前頭断面, 矢状断面) について解析し, これらを統計学的に検討した.その結果, 日本人が中国人に近い項目は歯列弓の大きさの項目が多く, 日本人がフィリピン人に近い項目は口蓋の前頭断面の中央部と口蓋の矢状断面の後方部で, 日本人が両者の中間の項目は第二大臼歯の歯列弓幅で, 日本人が大きい項目は, 前歯列弓長, 犬歯弦であった.以上を要約すると, 現在の日本人の歯列弓の大きさと口蓋の深さは北方系の中国人と南方系のフィリピン人の要素が複雑に混血しているが, 歯列弓の大きさは中国人に近く, 北方系弥生人の要素が強く, 口蓋の深さ (前頭断面の中央部, 矢状断面の後方部) はフィリピン人に近く, 南方系縄文人の要素が強い.さらに, 日本人の口元は出っ張り気味で北方系弥生人の要素が強いことが示唆された.
著者
高田 嘉尚 高橋 浩二 中山 裕司 宇山 理紗 平野 薫 深澤 美樹 南雲 正男
出版者
昭和大学・昭和歯学会
雑誌
昭和歯学会雑誌 (ISSN:0285922X)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.68-74, 2006-03-31 (Released:2012-08-27)
参考文献数
11

本研究は嚥下音と呼気音の音響特性を利用して嚥下障害を客観的に鑑別することを目的として企画されたものである.対象は嚥下障害を有する頭頚部腫瘍患者26名である.VF検査中嚥下音ならびに嚥下直後に意識的に産生した呼気音をわれわれの方法によって採取し, 嚥下と呼気産生時の動態のVF画像とともにデジタルビデオレコーダーに記録した.嚥下音と呼気音の音響信号はわれわれの音響解析コンピュータシステムによって分析を行い, 嚥下音については持続時間を計測し, 呼気音については1/3オクターブバンド分析により, 中心周波数63Hzから200Hzまでの6帯域の平均補正音圧レベルを求めた.嚥下音と嚥下後に意識的に産生した呼気音92サンプルずつについて, これらの分析が行われ, VF所見との比較が行われた.その結果, 嚥下音の持続時間では, Abnorma1群 (誤嚥あるいは喉頭侵入のVF所見を示した群) はSafety群 (前記のVF所見のない群) に比べ, 持続時間が延長する傾向がみられ, 呼気音の補正音圧レベルでは, Abnorma1群はSafety群に比べ, 音圧レベルが大きい傾向を示した.次に嚥下障害を鑑別するために嚥下音の音響信号の持続時間の臨界値として0.88秒を設定し, 同様に呼気音の音響信号の補正音圧レベルの臨界値として17.2dBを設定した.嚥下音と呼気音の分析値の両者がともにこれらの臨界値を超えた場合, そのときの嚥下は障害があると評価した.これらの評価とVF所見との判定一致率は感度82.6% (38/46), 特異度100% (46/46), 陽性反応的中度100% (38/38), 陰性反応的中度85.2% (46/54), 判定-致率91.3% (84/92) となった.以上の結果より嚥下音の持続時間と呼気音の補正音圧レベルは嚥下障害を検出するために利用できることが示唆された.
著者
北村 徹
出版者
昭和大学・昭和歯学会
雑誌
昭和歯学会雑誌 (ISSN:0285922X)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.211-230, 1989-06-30 (Released:2012-08-27)
参考文献数
26
被引用文献数
1

有歯顎者20名 (男10名, 女10名) について, 無声破裂音 [P, t, k], 有声破裂音 [b, d, g], 弾音 [r], 鼻音 [m, n] の周波数分析および時間波形の拡大描記をDigitalSonagraph (7800型KAY社製) によって行い, 先行子音継続時間および後続母音移行部の第2ホルマント周波数を計測した.1.時間要素の観察および計測は, 時間波形の時間軸を最大96倍まで延長して行った.子音発音区間をDI, DII, DT, BZに区分し, それぞれの時間およびDI/DT (%) 求めた.すなわち, 子音の開始から後続母音成分の出現までをDT, さらに, この中で, spike創e減衰までを (DI), それ以降を (DH) とした.その結果, (1) 調音方法の違いによって時間波形に差異が認められた. (2) [k]では後続母音の違いによる差異が認められた. (3) 無声破裂音間および有声破裂音間では調音部位が後方のものほどDTは長い. (4) 対応する無声破裂音より有声破裂音はDI, DTとも有意に短い.2.第2ホルマント始端周波数については各被験者の [a] の定常的な部分の第2ホルマントの周波数 (FHa) を基準値として, これに対する各被験音の第2ホルマント始端周波i数 (FHT) の差 (ΔTa) を求めた.また, 各後続母音の定常的な部分の周波数(FIIT)との差 (Δa) を求めた.その結果, (1) FIITの平均値は, [P, b, m] は低く, [t, d, r] は中間, [n, k, g] は高い. (2) 第2ホルマント始端から後続母音への遷移の軌跡を延長した仮想線は, [t, d] では, 子音発音時点で一点に集束し, [r, n] も同様の傾向がみられる.また, [p, m]では下方に, [k, 9] では, 上方に向かっている.以上のように, それぞれの音について時間要素および第FH遷移での特性が認められた.
著者
Takashi MIYAZAKI Toshihiko SUZUKI Genshoku LEE Sinya FUJIMORI
出版者
Showa University Dental Society
雑誌
昭和歯学会雑誌 (ISSN:0285922X)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.47-52, 1992-03-31 (Released:2012-08-27)
参考文献数
14

Anodic oxidation is a popular method to deposit an oxide film on titanium with a thickness on the order of several hundred nm. In this study formation and some properties of anodic films of titanium under discharge conditions were investigated. Treated titanium specimens served as an anode in several electrolytes, and voltage was applied using the direct current power source. The discharge threshold voltage in each electrolyte decreased as the concentration of the electrolyte increased. Anodic oxidation of titanium was carried out on applying the voltage above the discharge threshold voltage, for example, at 100-130 V for a phosphoric acid solution (30 wt. %). Surface films with a thickness on the order of pm were formed by this treatment. Adhesion of the oxide film was superior when the anodic oxidation was carried out under moderate discharge conditions. SEM observations appeared the featured microscopic surface topography with many small (pm order) holes on the surface of the specimen treated by anodic oxidation under discharge conditions. X-ray diffractory analysis revealed that titanium oxides (TinO2n-1) and an amorphous anatase (TiO2) were formed by the anodic oxidation under discharge conditions.
著者
長澤 郁子 岩崎 多恵 増田 陸雄 五島 衣子 岡 秀一郎 吉村 節
出版者
昭和大学・昭和歯学会
雑誌
昭和歯学会雑誌 (ISSN:0285922X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.142-145, 2005-06-30 (Released:2012-08-27)
参考文献数
11

静脈内鎮静法の施行時に, フルマゼニルの投与直後に血圧上昇, 頻脈および不穏状態をきたした症例を経験した.患者は59歳女性, 体重60kg.2種類の降圧薬を服用している.静脈内鎮静法下で, 下顎デンタルインプラント埋入手術を施行した.手術終了まで良好な鎮静状態で経過した.手術終了後, 鎮静状態からの回復が不十分だったため, フルマゼニルを0.1mgずつ総投与量0.2mgを静脈内投与した.その直後からめまい, 胸部不快症状を訴え, 血圧と脈拍の急激な上昇と一過性の不穏状態をきたした.約30分後には, 不快症状は緩解し, 発症から1時間後には帰宅可能となった.後日, 既往歴の再確認を行った結果, 精神安定薬の服用中であることが判明し, 今回の不快症状はフルマゼニル投与後の一過性の離脱症状と推測された
著者
浅里 仁 井上 美津子 佐々 龍二 池田 訓子 伊田 博 島田 幸恵 向山 賢一郎 佐藤 昌史 山下 登
出版者
Showa University Dental Society
雑誌
昭和歯学会雑誌 (ISSN:0285922X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.373-380, 2004-12-31
被引用文献数
2

パネルディベートを歯学部4年 (89名) の小児歯科学の授業に導入した.到達目標は, 「小児歯科治療への関心を育てることができる」, 「情報収集・整理能力を育てることができる」, 「論理的思考能力を育てることができる」, 「討論する力を育てることができる」, 「聞く力を育てることができる」, 「現実問題に対応する力を育てることができる」, 「患者の立場や心理への理解を深めることができる」の7つとした.テーマは「小児歯科治療に強制治療は必要か」とし, 患者および疾患の設定は, 「3歳児の左下乳臼歯のC<SUB>2</SUB>」とした.立場は保護者, 歯科医師 (肯定派), 歯科医師 (否定派) の3者とした.一日目は, スモール・グループ・ディスカッションを行馳立論文を作成空た.二日目は役割を立論者, 代表者, 応援団, 審判団とし, パネルディベートを行った.パ不ルァィベートの結果, 歯科医師 (肯定派) 班が勝者となった.学生のアンケート結果では, 到達目標の全ての項目で, 7割以上の学生が, 上記の能力や理解が "おおいにあがる" もしくは "少しあがる" と回答した.感想や意見では, パネルディベートに肯定的な意見, 否定的な意見, 配布した資料や実施方法についての問題点などがあげられた.
著者
中島 還
出版者
Showa University Dental Society
雑誌
昭和歯学会雑誌 (ISSN:0285922X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.83-92, 2005-06-30
参考文献数
46

摂食行動は, 生後吸畷運動から咀噛運動へと大きく転換する.この転換の背景には, 顎顔面口腔器官の発育変化に対応した中枢神経機構の変化があると考えられるが, その詳細はいまだ明らかでない.そこで本研究は, 近年開発された光学的電位測定装置をラット脳幹スライス標本に適用し, 三叉神経運動核 (MoV) とその三叉神経上領域の外側部 (1SuV) の問に存在する, 下顎運動の制御に関与すると考えられる局所神経回路の発育様態を調べた.前頭断脳幹スライス標本のさまざまな部位を電気刺激したところ, 1SuVにおいてMoVに興奮性の光学的応答を誘発する部位が見出された.さらに, 細胞外液のCa<SUP>2</SUP>+をMn<SUP>2+</SUP>に置換してシナプス伝達を遮断した状態でMoVを電気刺激すると, 1SuVに逆行性の光学的応答が認められた.次に, この興奮性出力を担う神経伝達物質を検討したところ, 1~6日齢の動物では, CNQXとAPVの同時投与, あるいはstrychnine投与により, 1SuV刺激に対するMoVの興奮性応答が減弱し, グルタミン酸受容体およびグリシン受容体の関与が明らかとなった.一方, 7~12日齢の動物ではCNQXとAPV投与でMoVの興奮性応答は抑制されたが, strychnine投与によるMoVの興奮性応答は増強し, グリシン性のシナプス伝達は抑制性に変化した.以上の結果から, ISuVからMoVに対するシナプス伝達様式が発育により変化することが明らかとなった.このような変化は, 吸畷から咀囑への転換に対応する可能性が考えられる.

1 0 0 0 日本人の顔

著者
若月 英三
出版者
Showa University Dental Society
雑誌
昭和歯学会雑誌 (ISSN:0285922X)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.42-45, 2001-03-31
参考文献数
10
被引用文献数
1

モンゴロイドの基盤となる集団と近縁であると考えられるSundadontに属する南方系のフィリピン人 (マニラ市近郊に在住する女性) とSinodontに属する日本人 (昭和大学歯学部女子学生) と日本人の起源と関係の深い北方系の中国人 (青島市在住の女子高校生) の頭顔部の生体計測を行い, 統計的に検討した.計測項目は身長と頭顔面部の計測 (マルチンの基準) (頭長, 頭幅, 頭耳高, 頬骨弓幅, 下顎角幅, 形態顔面高とそれに顔面厚 (美濃部ら)) である.その結果, 頭顔部の計測項目において, 日本人は北方アジア系である中国人と南方アジア系であるフィリピン人との中間に値する計測項目が多かったが, 中国人と同じ値を示す計測項目もあれば, フィリピン人と同じ値を示す計測項目もあった.また, 日本人がこれら他の集団より大きい値を示す計測項目もあった.したがって, 現代の日本人の頭顔部は南方系縄文顔と北方系弥生顔の混血が現在でも進行中と考えられた.よって, この研究は, 埴原の日本人の起源についての仮説を支持する.
著者
江川 薫 野中 直子 星野 睦代 高野 真 滝口 励司
出版者
Showa University Dental Society
雑誌
昭和歯学会雑誌 (ISSN:0285922X)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.74-85, 1999-03-31
被引用文献数
1

骨を構築する基質線維は, 圧縮, 牽引, 歪み, 振れなどの応力に対抗するための適合性をもった配列を呈している.骨に加わる応力と骨層板および線維性基質の配列との係わりを検討する目的で, 解剖学実習用男性遺体の脛骨を用いて, 基質線維の配列を高分解能の走査電子顕微鏡で立体的に観察した.緻密骨層板の表層基質線維を観察するための試料は, 実体顕微鏡下で外骨膜の線維層を剥離した.基礎層板とハバース層板の線維性基質を観察するための試料は, 緻密骨の水平断面と垂直断面を作製して, 切断面の研磨を行った.すべての試料はEDTAで脱灰を施し, トリプシン処理後, 導電染色, 上昇アルコール系列による脱水, 液化炭酸ガスによる臨界点乾燥, 白金-パラジウムのイオンスパッタコーティングの後, 電界放射型走査電子顕微鏡で観察した.筋の付着がない脛骨体内側面の外基礎層板の最表層は大部分が骨の長軸方向に配列された基質線維束で構築されていた.脛骨体外側面の中央部の基質線維束も骨の長軸方向に配列されていた.脛骨体外側縁には約500μmの幅で骨間膜が基質線維束に侵入していた.脛骨体近位端外側面の最表層基質は交錯した基質線維束で構築され, 基質線維東間には前脛骨筋および縫工筋の腱が侵入していた.脛骨体前縁では基質線維束の大部分は骨の長軸方向に配列されていた.脛骨体後面の近位骨幹端の最表層は交錯した基質線維束で構成されていた.後面中央部および下部の最表層の基質線維束はほぼ骨の長軸方向に配列されていた.脛骨体の内表面の最表層は大部分が骨の長軸方向に配列された基質線維束で構築されていた.脛骨体の外基礎層板では約5μmの厚さの層板と約3μmの厚さの層板が交互に配列されており, 交互に隣接している層板の基質線維束はやや斜めに交叉していた.ハバース層板を構成する基質線維束はほぼ上下方向に配列された基質線維束からなる厚さ約4μmの層板と, 基質線維束がほぼ同心円状に配列された厚さ約2μmの層板とが交互に配列されていた