著者
若杉 誠 中谷 清一郎 衣畑 晃治 田村 信一
出版者
一般社団法人映像情報メディア学会
雑誌
テレビジョン学会誌 (ISSN:03866831)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.75-87, 1987

テレビ放送が開始されて以来, 3分の1世紀が過ぎた.この間送信機は小型化, 高信頼化と, 制作用放送機器のそれほどではないにせよ着実な進歩を遂げて来た.特に, ここ数年来の大電力放送機の全固体化技術は, 世界のトップレベルを行く飛躍的なものである.トランジスタPAの並列による冗長系の増加は, 総合システムの構成に影響を与えると同時に, バッテリーバックアップによる停電時の無停波も可能にした^<1)〜3)>.従来, ウィークポイントとされた電子管の排除による高圧・冷却水からの解放が, 保守・運用にもたらす効果は絶大である.さらに, コンピュータを利用した監視・測定装置が開発されるに至り, 運用面の大幅な改善が見られるようになった.昭和53年に音声多重放送が, 昭和60年には文字多重放送が運用を開始しているが, 他の放送に比べ広い帯域を有するテレビ放送電波には, なお隙間と呼ばれる空間が残されており, ニューメディアへの利用として多重放送技術の研究が盛んに行われている.一方, 国内のテレビ伝送網は, 昭和29年に東京-大阪間にマイクロウェーブ回線が開通して以来, 回線のループ化, コンピュータによる回線制御, 音声多重伝送, CSの実用化等に, 目ざましい進歩を遂げ, 現在では, 全国の主要都市に極めて信頼性の高い伝送路が張り巡らされている.ところが, 一見充足しているかに見える回線網も, ひとたびイベント, 事件が発生し, 一地点から各社が独自の回線を要求するようになると, もはや早い者勝ち的様相を呈して来る.また今後ローカル局の増加も予想されるため, 昭和63年に運用開始予定のいわゆる民間衛星を含めた伝送網の再検討がなされている.なお地上系, 衛星系の電気通信事業者の新規参入により, 放送事業者が独自の回線を保有することも今後は可能となる.世界109カ国が加盟するインテルサット(国際電気通信衛星機構)は, 太平洋, 大西洋およびインド洋上の静止衛星により, ほぼ全地球をカバーしており, これにより我々は茶の間で世界の最新の情報を見聞することができる.現在, 我が国の国際テレビ中継には, 太平洋およびインド洋上のインテルサット衛星を利用しているが, 伝送番組(素材)は年々増加しており, 現行の1トランスポンダ(36MHzおよび41MHz)当たり2チャンネルのFM伝送では, 将来の回線品質の向上, 需要の増加には対処できない.この解決策として, 高能率符号化ディジタル伝送方式による, 高画質化および3チャンネル, 4チャンネル伝送(1トランスポンダ当り)の実験が行われている^<4)>.NHK, 東京民放各社では, 緊急時の回線予約の困難を緩和するため, 昭和59年4月より特に利用頻度の高い米国との通信に太平洋上のインテルサット予備衛星のトランスポンダ1本を, 長期サービスの一環としてプリエンプティブル契約(現用衛星に障害が発生した場合は, インテルサットに優先権を渡す)し, 共同で運用している^<5)>.以下に, 送信機, 国内・国際テレビ中継における最近の技術動向を述べる.