著者
丸山 祐哉 吉田 拓允 丸山 格
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
pp.22161, (Released:2023-07-15)
参考文献数
38

抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎(AAV)は全身の臓器病変を伴う壊死性の血管炎である.グルココルチコイド(GC)と免疫抑制薬を組み合わせた標準療法によりAAVの予後は大きく改善されているものの,GC使用に伴う副作用など対処すべき問題が残されている.アバコパン(タブネオス®カプセル)はAAVのうち,顕微鏡的多発血管炎(MPA)及び多発血管炎性肉芽腫症(GPA)を効能または効果として,本邦で2021年9月に製造販売承認された経口投与可能な選択的C5a受容体(C5aR)拮抗薬である.補体成分C5aによって引き起こされる好中球の機能亢進(プライミング)はAAVの病態形成に深く関与するが,アバコパンはC5aRの拮抗阻害を通じてこれを抑制する.非臨床試験においてアバコパンはC5a-C5aRシグナルの活性化によって引き起こされる好中球の細胞走化性やプライミングに対して抑制作用を示した.また,ANCAによって誘発される糸球体腎炎モデルマウスの腎炎及び腎障害の発症を有意に抑制した.MPA及びGPAを対象とした日本を含む国際共同第Ⅲ相臨床試験(ADVOCATE試験)において,アバコパン群はプレドニゾン群と比較し,26週時の寛解について非劣性を,また52週時の寛解維持について優越性を示し,主要評価項目を達成した.同時に,Glucocorticoid Toxicity Indexによってスコア化されたGC毒性はアバコパン群で有意に低く,また,GCとの関連が否定できない有害事象の発現も少なかった.さらに,推算糸球体ろ過量(eGFR)による腎機能評価についても,アバコパン群はプレドニゾン群と比較して良好な改善作用を示した.以上,補体系を標的とする新規作用機序を有するアバコパンは,GCによる副作用の軽減や腎機能の改善を可能とするAAVの新たな治療選択肢になると期待される.