著者
丸山 範高
雑誌
和歌山大学教育学部紀要. 人文科学 (ISSN:1342582X)
巻号頁・発行日
no.72, pp.141-148, 2022-02-09

本研究の目的は、一人称の語り手が語る文学作品世界の臨場性・省察性・他者性を読者が俯瞰的・構造的・重層的に読み解くことの意義を明らかにすることにある。一人称の語り手「僕」が語る『刺繍する少女』は、当事者として出来事当時の感情が語られる世界、その出来事を語る現在において省察した世界、そして、語り手が語り得ていないながらも、ことばの仕組みから立ち上がる語り手の語りを超える世界、の三層によって作品世界が構成されている。そして、その作品世界の重層性を読み合わせると、「僕」と「彼女」と「母」と、登場人物それぞれの思いが交わることなく相互疎外状況にある世界が浮かび上がってくる。『刺繍する少女』は、一人称の語り手の恋愛経験を追想する作品ではなく、その恋愛経験から、登場人物同士の思いがすれ違っていく世界を描き出した作品と読めてくる。こうした文学作品の読みの研究は、読みの多様性ではなく、読みの拡張性を拓く研究として位置づけられる。
著者
丸山 範高
雑誌
和歌山大学教育学部紀要. 人文科学 (ISSN:1342582X)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.1-9, 2018-02-23

本研究の目的は、高校国語科教師が教科内容観を拡張するプロセスについて、学校環境の異なる複数の教師間での共通性と個別性をふまえ、経験学習モデルを構築することにある。研究方法は、教師の語りを組織立てて概念化するナラティヴ・アプローチを採用した。教師自身の経験世界に迫るためには、教師の語りを分析対象とすることが適しているからである。分析の結果、教師間の共通性として、①教科内容観の拡張内容、②その拡張を促す内的要因の2点が、また、個別性として、①教師を取り巻く外的環境要因、②生徒が抱える課題、③教科内容観を授業展開する手立て、④授業改善に向けた今後の課題の4点が、それぞれ明らかになり、これらの要因の関係性を、教科内容観の拡張に関わる学習モデルとして構造化した。経験学習に関わる種々の先行研究では、経験の蓄積に伴う"拡張"イメージが具体化されていない、あるいは、個別領域ごとの専門的内容を反映した理念(観)との関係を中心に配置した学習モデルを描き出せていない傾向にある。そうした課題をふまえ、国語科教師の経験学習に関わる内容・方向性を具体化した点に本研究の特徴が見出される。