- 著者
-
丸茂 雄一
- 出版者
- GRIPS Policy Information Center
- 雑誌
- GRIPS Discussion Papers
- 巻号頁・発行日
- vol.9, 2009-10-19
米軍飛行場周辺に居住する住民から、数次にわたり基地騒音訴訟が提起されている。本稿は、損害賠償請求(過去分)を検討する過程において論点となる飛行場の「公共性」の評価と「危険への接近の法理」について着目し、判例の動向を分析するものである。米軍飛行場の有する「公共性」に関する近年の判例に共通する認識は、①公共用飛行場と同程度であるとか、②受忍限度を判断する際の一要素に過ぎないというものである。損害賠償請求訴訟において、被告国は「公共性」を過度に強調することはできない。「危険への接近の法理」は、2つに区分される。国が損害賠償を免責される「免責の法理としての危険への接近」の適用については、周辺住民が違法状態を利用して損害賠償を請求するような、周辺住民が特に非難されるべき事情がある場合に限られるであろう。一方、国の損害賠償額が減額される「減額の法理としての危険への接近」を適用については、第五次~第七次横田騒音訴訟控訴審判決が厳しく指摘するように、①米軍飛行場の違法状態が継続し、②最高裁判決後においても違法状態を国が放置していることを考慮すると、国が今後抜本的な騒音対策を施さない限り、裁判所が損害賠償額の減額を認定することはないだろう。