著者
小嶋 智 丹羽 良太 岩本 直也 金田 平太郎 服部 克巳 小村 慶太朗 山崎 智寛 安永 一樹
出版者
Japan Society of Engineering Geology
雑誌
応用地質 (ISSN:02867737)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.2-12, 2022-04-10 (Released:2022-06-06)
参考文献数
42
被引用文献数
1

中部日本,越美山系,冠山地域にみられる二重山稜地形は,山体重力変形(DSGSD)により形成されたものである.二重山稜地形の間の凹地を埋積した堆積物は,上位より,(a)炭質泥層と植物遺体に富む層の互層,(b)明灰色泥層,(c)橙色礫質泥層からなる.(c)層は基盤との不整合直上の基底礫層と解釈した.(a)層に含まれる木片の加速器質量分析計を用いて測定した放射性炭素年代(AMS-14C年代)と,7,300 cal BPの鬼界アカホヤ火山灰(K-Ah)により,凹地埋積堆積物の平均堆積速度は約0.25 mm/yearであり,二重山稜地形は約11,000年以上前に形成されたと推定した.比抵抗トモグラフィー探査の結果から,この凹地は,伸びに直交する方向の断面では東に薄くなる楔形を呈し,凹地の西を限る東に急傾斜した重力性断層に沿った円弧滑りにより形成されたと推定した.約7300年前の地表面を示すK-Ahの層準は,水平で西に傾斜した基盤にアバットしている.このことはDSGSDによる二重山稜地形の形成が約7300年前までには終了し,その後は安定していることを示している.DSGSD活動は,おそらく最終氷期後の寒冷・乾燥気候から温暖・湿潤気候への変化により引き起こされた.氷河の後退とそれに伴う急斜面の形成,支えや重圧の徐荷による同様な斜面の不安定化は,世界中から報告されている.(b)層から(a)層への層相の変化も,この気候変動に伴う植生の変化に起因する可能性がある.