著者
平 智 山本 貴子 丹野 ゆか
出版者
養賢堂
雑誌
農業および園芸 (ISSN:03695247)
巻号頁・発行日
vol.91, no.7, pp.711-717, 2016-07

一般に果実の食味を左右する主な要因は,糖度(糖または可溶性固形物含量)と酸度(有機酸または滴定酸含量)ならびにそれら両者のバランスであるといわれる。そのバランスの指標としてしばしば糖酸比(糖度/酸含量)が用いられる。人間の味覚は,糖が持つ甘味に対しては寛大で,糖含量が高いほど嗜好度は高まるが,酸味に対しては厳しく,ある濃度を限界にしてそれ以上になると嗜好性が急激に低下するといわれている。ただし,どの程度の糖酸比がよいかは果実の種類や品種によって異なる。一方,1個の果実でもその品質は一様ではなく,果肉の部位によってかなり異なることが知られている。例えば,ニホンナシ'二十世紀'の可溶性固形物含量は,果梗部付近の果肉より果頂部付近の方が,また,果心部より果皮に近い部位で高く,赤道部付近の果皮と果心との中間部位の果肉で果実全体の平均値に最も近いといわれる。モモ'白鳳'では,中心部付近より周縁部付近の,果梗部より果頂部側の果肉の可溶性固形物含量が高い傾向が認められる。さらに赤道部の果肉についてみると,縫合線付近で低く,縫合線から離れるにしたがってしだいに高くなるが,縫合線の反対側では再び低くなるという。リンゴ5品種('つがる','スターキング・デリシャス','ジョナゴールド','陸奥'および'ふじ')の可溶性固形物含量は,果心側から果皮側に向けて,'ジョナゴールド'以外の品種ではこうあ部から果頂部に向けて高まること,また,滴定酸含量は果頂部およびこうあ部で高く,赤道部に向けて低下し,最も低くなる部位は果皮側から果心側に向かうにつれて果頂部側からこうあ部側へ移行するという報告もある。しかし,その他の種類の果実や品種についてはあまり明らかではない。本報告は,数種類の果実を対象にして,果肉の部位の違いが品質に及ぼす影響について調査した結果を取りまとめたものである。