- 著者
-
久保 武一
- 出版者
- 千葉大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 2009
中枢神経軸索は一度損傷すると再生しないが、その原因の一つとして中枢神経軸索の再生を阻害する因子repulsive guidance molecule(RGMa)が報告されている。RGMaは、中枢神経傷害時にニューロン、オリゴデンドロサイトのみならず、免疫細胞の一種であるミクログリア/マクロファージにおいても発現上昇する。この観測結果から、先行研究課題でRGMaの免疫系における役割を検討し、以下の結果を得た。1、抗原提示細胞(樹状細胞)の活性化にともないRGMaの発現上昇を認めた。2、CD4陽性T細胞ならびにマクロファージにRGMaが結合することをフローサイトメトリーにて確認した。3、RGMaはCD4陽性T細胞ならびにマクロファージにおいて、細胞内シグナル分子であるRap1の活性化を誘導した。4、Rap1が媒介する細胞機能として、細胞接着性の向上が報告されているが、CD4陽性T細胞ならびにマクロファージを含む脾臓細胞にRGMaを作用させたところ、細胞接着性の向上を認めた。5、過剰な免疫反応により誘導される実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)におけるRGMaの役割を、RGMaの作用を抑制する抗RGMa抗体投与により解析したところ、抗RGMa抗体が治療効果を示すことを観察した。本研究課題ではさらに詳細な解析を行い、RGMaの作用をブロックすることで、CD4陽性T細胞の免疫反応性ならびに脊髄における炎症反応が抑制され、EAE病態が抑えられることを観察した。以上の結果は、RGMaが生体内での免疫反応の活性化に関与することを示唆し、RGMaが過剰な免疫反応を原因とする多発性硬化症などの中枢神経での自己免疫疾患の治療標的となりうることを示唆する。