著者
久保 隆司
出版者
日本宗教学会
雑誌
宗教研究 (ISSN:03873293)
巻号頁・発行日
vol.93, no.1, pp.1-24, 2019

<p>本論は、近世初期の神道家・朱子学者の山崎闇斎が探究した「闇斎神学」を、闇斎が「神書」として重視した『日本書紀』(特に神代巻)の構造と解釈の観点から捉える試みである。井筒俊彦の「神秘哲学」概念を主な補助線として導入し、闇斎の構築した「天人唯一」の神学は普遍性を持つ神秘哲学の日本的展開であることを明らかにしたい。闇斎は普遍的真理の探究過程において、朱子学的「合理主義」の限界と葛藤し、超克することでその神学を形成したと考えられるが、具体的には、中世以来の神聖な行為としての『日本書紀』の体認的読解を、神秘哲学の構造上に取り込むことで、実践と哲学との統合を図ったとの解釈が可能となる。この観点から、闇斎神学の本質は、合理性を獲得した上で、神道的な学び・実践を通じて、その限界を超える意識の高みを目指すところにあることがわかってくる。本論では、闇斎神学とは、垂直段階的に構築された「神儒兼学」の統合体系であり、近世・近代における日本では稀有な神秘哲学体系であることの一端を考察する。</p>