著者
九鬼 なお子 大窪 久美子
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第51回日本生態学会大会 釧路大会
巻号頁・発行日
pp.365, 2004 (Released:2004-07-30)

本研究は長野県上伊那地方をケーススタデイとして,立地環境の異なる水田地域におけるトンボ群集の構造と季節変化,また立地環境との関係性について明らかにすることを目的とした.調査地域は中山間地(未整備2、整備済1)と市街化地(未整備1、整備済1)の計5ヶ所を選定した.晴天日の午前と午後にルートセンサスを行い,半径5m以内に出現したトンボ目の種名・雌雄・個体数・出現環境・出現位置・行動を記録した.6月上旬から11月上旬まで月に2_から_3回,1調査地につき28回,計140回実施した.土地利用調査は2003年11月に行われた.総出現種は23種,総出現個体数23,150個体で,その分類群構成はイトトンボ科2種,アオイトトンボ科3種,カワトンボ科2種,オニヤンマ科1種,ヤンマ科2種,エゾトンボ科1種,トンボ科12種であった.出現種数及び総個体数は中山間地未整備で多く,市街地整備済みで少なかった.これは池や川,湿地等の多様な水辺環境が存在し、周辺にねぐら等になる林が多いためと考えられた.成虫の成熟段階別の個体数季節変動から各種の移動について考察した.出現種は移動性大(aウスバキトンボ,bアキアカネ)と移動性中(Aノシメトンボ等,Bナツアカネ,Cシオカラトンボ等),移動性小(オオアオイトトンボ等)の3グループに分けられ,さらに小分類された. 出現種の個体数データを用いてTWINSPAN解析を行った結果,調査地域は中山間地と市街地の2グループに分類され,トンボ群集は7グループに分類された.成熟成虫の出現場所と行動の割合から、各種の水田地域の利用の仕方について考察した.種ごとに特定の環境に集中して出現する傾向がみられ,環境を選択して利用していると考えられた.各調査地域では水辺や森林等の立地条件の違いに対応した種群が出現した.また水田地域に生息するトンボの種ごとの特性に応じた季節変動と行動が確認された.