著者
亀井 優香
出版者
長浜バイオ大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012-04-01

出芽酵母は細胞レベルの老化・寿命研究モデル生物として非常に有用である。本研究では、遺伝学、トランスクリプトミクスおよびメタボロミクスの手法を駆使し、分裂寿命(一つの細胞が老化して死ぬまでの出芽回数)の決定機構および老化の進行に伴う細胞の変化を明らかにすることを目指した。本年度は前年度までに得られた老化細胞のトランスクリプトーム解析から新規の寿命制御機構を発見した。老化細胞のトランスクリプトームおよびメタボローム解析による細胞老化機構の解明前年度までに、細胞老化の進行過程での変化を知るために、老化段階の異なる細胞(1、4、7および11世代)を調製し代謝と転写の変化に着目した。ピルビン酸に加えてTCA回路の中間代謝物量が老化の進行に伴い増加し、多くのアミノ酸は次第に減少していた。これらの代謝変化に対応する酵素遺伝子の転写量変化が見られたことから、老化細胞での代謝の変化は転写の変化が原因であると考えた。7世代から11世代にかけて転写量が増加した遺伝子に着目すると、定常期で転写が誘導される遺伝子群が多く含まれていた。以上の成果をJournal of Biological Chemistry誌で発表した。ビタミンB6による分裂寿命制御11世代で特に転写量が増加した遺伝子の中で、ビタミンB6合成に関与するSNZ1 遺伝子に着目した。SNZ1 遺伝子を破壊した株の分裂寿命は野生型株よりも短かった。ビタミンB6トランスポーターをコードするTPN1 遺伝子の破壊株は snz1 株と同様に短寿命であった。分裂寿命測定培地に過剰量のビタミンB6を加えると、snz1 とtpn1 株の寿命が回復した。以上より、出芽酵母の分裂寿命にはビタミンB6が必要であることを明らかにした。