著者
藤井 瞬 井ノ原 裕紀子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1619, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】交通事故による右小指切断再接合後の指尖壊死となった本症例が壊死部再切断を通知された後,理学療法士かつ保存療法を望む患者として提案した内容が医師の治療方針に影響を与えた経験を報告する。【症例提示】29歳男性。診断名:右小指切断中型バイク直進運転中,反対車線から右折してきた自動車と衝突し,前方へ体を投げ出した。衝突の際,バイク右ブレーキレバーの変形に伴い,小指を巻き込み引き抜き損傷のように遠位指節間関節(以下DIP関節とする)より離断した。2014年8月X日,同日マイクロサージェリー実施。尺側固有掌側指動脈のみ切断指と縫合し,橈側固有掌側指動脈,周辺静脈,内外側側副靭帯,深指屈筋,指伸筋は縫合出来ず未実施。K-wireにて末節骨と中節骨を固定。同日からX+3日まで上腕までシーネ固定。その後,近位指節間関節(以下PIP関節とする)伸展位のまま中節指節関節(以下MP関節とする)までのアルフェンスシーネ固定へ変更。X+49日より就寝時以外は皮膚保護剤のみに変更。【経過・方法】経過:手術日より5日間はプロスタンディンと生理食塩水を6時間毎交互に静注し,同時にワーファリンを1日3回内服。X+8日で退院。その後,週一回の外来通院を実施。現状では再接合部は壊死しているが感染症状はない。方法:湿潤療法および週3回40分以上の経皮的電気刺激療法を患部に直接実施。外来での週1回の消毒と管理(退院後から継続)。健康状態管理として週3回以上の15,000歩,ビタミンC摂取を注意して実施する。関節可動域練習:X+30日後よりPIP関節最終可動域で30秒持続を可能な限り実施。統計処理はMicrosoft Excel 2014を使用し,優位水準を5%未満とした。【結果】(初期)→(X+60日)※初期評価は疼痛評価と切断指状況のみ。疼痛検査:Numerical Rating Scale(以下NRSとする)断端先端部:安静時(4)→(1)。運動時(PIP屈曲時)(4)→(4)。PIP関節:安静時(0)→(0)。運動時(屈曲endfeel時)(8)→(7)。遠位切断指:(暗紫色,指型は残存)→(黒色,軟部組織が萎縮し指型から尖端に変化)近位切断指:(暗紫色,炎症所見著明)→(鮮赤色~赤色,炎症所見軽度)Arc Of Motion(AOM)(右小指):MP屈曲120°伸展-5°,IP屈曲100°(pain+)伸展0°。握力(kg)5回平均:右21.28±2.672,左:32.08±2.487。ピンチ力(*10.0kgf)10回平均:(右手)母-示:3.52±0.51,母-中:2.78±0.57,母-環:1.82±0.139。(左手)母-示:3.79±0.42,母-中:3.44±0.63,母-環:2.72±0.13。ピンチ力検定(t検定)左右:母-示:p<0.05,母-中:p<0.01,母-環:p<0.01。ADL制限:自動券売機のおつりが取りにくい,おつりを落とす。血液データ(事故後4時間値→X+7値)CRP:0.1→0.1,WBC:11270→6800。【考察】本症例の切断指は重度挫滅であり,再接合する確率は5割程度手術直後に医師から通知されている。マイクロサージェリーでは尺側固有掌側動脈のみの接合であり,深指屈筋,指伸筋,内側外側側副靭帯,周辺静脈の縫合は実施していない。切断指の状態は悪く退院時には既に壊死状態であり,断端形成のための再手術を考えておくようにと医師より打診があった。本症例は可能な限りの指延長を望んだことから,自ら情報を集め医師の指示に追加して断端面に対する電気刺激療法を提案し,その治療効果に関して医師に説明後,了承を得た事から治療を開始することになった。しかし,感染症等が発覚した場合は早急に手術をするとの条件もあり,身体面のリスク管理が必要と考えた。そこで,免疫力を高めるため,また末消循環を促すために軽度の身体活動として15,000歩を全身運動として取り入れた。その結果,X+61日のX-Pより骨髄炎の問題はなく,肉芽が末節骨中間まで発生している状況であるため,現在は再手術の緊急性はなく,指尖が自然脱落する治療方針に変化し,治療を継続することとなっている。しかし,感染症などの身体症状が生じた場合は緊急で手術をする状況は変化していない。今回の経験に関して,発症時期から早期であったこと,症例の年齢,職業から考えた事から可能な限りの指の延長を望んだ患者としての意見と,理学療法士としての意見を元に医師と治療方針を相談出来た事で希望に合った治療が可能になり,心身共に良好な状態が維持出来ていると考えられる。本人のQOLとって,望まない状況からの脱却はなされ,良好な結果で生じているのは事実である。【理学療法学研究としての意義】保存治療を望む本症例が医師の治療方針に対して,理学療法士かつ患者として治療方針の意思決定に関与出来た事例である。