著者
阿部 広和 大須田 祐亮 井上 和広 森 鉄矢 古川 章子 石岡 卓 中島 久三子 小塚 直樹
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Bb1176-Bb1176, 2012

【はじめに、目的】 脳性麻痺児の移動手段は個々により多種多様にも関わらず,移動に関する研究の多くは歩行に焦点を当てたものである.移動時のエネルギー効率に関しても,歩行時のエネルギー効率を算出している報告が多くみられる.しかし,障害の重症度を表すGross Motor Function Classification System(GMFCS)レベル3-4の脳性麻痺児の多くは学校や地域で車いすを用いて移動している.そのため,GMFCSレベル3-4の脳性麻痺児においては,歩行によるエネルギー効率の把握が日常生活における移動方法のエネルギー効率をみているとは必ずしも言えない.本研究の目的は,脳性麻痺児における手動車いす駆動時のエネルギー効率と歩行時のエネルギー効率をGMFCSレベルごとに分け,比較し検討することである.【方法】 対象は,痙直型脳性麻痺児21名(男性11名,女性10名,平均年齢13.5±3.4歳)とした.内訳は,GMFCSレベル2-4の児が各レベルごと7名であった.移動方法は,GMFCSレベル2の児は独歩,レベル3-4の児は手動車いすであった.エネルギー効率の測定は5分間の安静座位後,1辺10mの正方形のコース上を5分間,対象児の最も快適と感じる速度で歩行・手動車いす駆動させた.歩行時・手動車いす駆動時のエネルギー効率は,Total Heart Beat Index(THBI)を用いて求めた.THBI(beats/m)は,5分間総心拍数(beats)/5分間総移動距離(m)で算出した.心拍数の測定には,Polar RS800CX (Polar Electro社,日本)を使用した.統計処理は,GMFCSレベルごとのエネルギー効率を比較するために一元配置分散分析と多重比較検定を行った(有意水準5%).また,群間の差の大きさをみるために効果量(Cohen's d)を算出した.効果量は,0.2≦d<0.5で軽度,0.5≦d<0.8で中等度,0.8≦dで高度と効果量が高くなるほど群間の差が大きいとされている.一元配置分散分析と多重比較検定はSPSS version 19.0,効果量はG Power3.1を用いて算出した.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は札幌医科大学倫理委員会の承認を得て,保護者・対象者に説明を行い,同意書を得て行った.【結果】 THBI(beats/m)は,GMFCSレベル2で2.75±0.75,レベル3で1.99±0.21,レベル4で3.0±0.87であった.GMFCSレベルごとのエネルギー効率を比較するために一元配置分散分析を行ったところ,有意な主効果が得られた(F<sub>2,18</sub>=4.254,p=0.031).Games-Howellの方法でpost-hocテストを行ったところ,GMFCS レベル3と4で有意な差が見出された(P=0.049).GMFCSレベル2と3,3と4間の効果量はd=1.37,1.60と大きかったが,レベル2と4間の効果量はd=0.32と小さかった.【考察】 GMFCSレベルが低下するにつれて,歩行時のエネルギー効率は低下するとされている.しかし,GMFCSレベル3の児は車いす駆動で移動することにより,GMFCSレベル2の児における歩行時のエネルギー効率よりも効率よく移動できた.GMFCSレベル2と4間では,効果量が小さいためエネルギー効率にあまり差がないと言える.GMFCSレベル4の児における歩行時のエネルギー効率はレベル1-3の児よりも大きく低下するため,手動車いす駆動で移動することで効率よく移動できることが示唆された.また,有意差はなかったがGMFCSレベル3と4間では,効果量が大きくサンプルサイズを増やせば有意差が生じる可能性がある.つまり,車いす駆動時のエネルギー効率も粗大運動能力により変化する可能性が示唆された.しかし,GMFCSレベル4の児はばらつきが大きいため,手指の操作性を評価するManual Ability Classification System(MACS)などで詳細に評価していく必要があると考える.【理学療法学研究としての意義】 日常生活の移動方法として用いられている手動車いす駆動時のエネルギー効率を把握することで,エネルギー効率の改善を目的とした理学療法介入の一助となると考える.