著者
井上 牧子 遠藤 知二
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第51回日本生態学会大会 釧路大会
巻号頁・発行日
pp.307, 2004 (Released:2004-07-30)

京都府京丹後市の箱石海岸では、今までの野外調査から8種のツチバチ類が生息し、それらの生息密度もきわめて高いこと、またいくつかの海浜植物ではツチバチ類が重要なポリネーターとなっていることなどが明らかになった。このように、ツチバチ類が海岸砂丘域において多様で高密度に生息できる要因のひとつは、それらのホストであるコガネムシ幼虫の多様性や生息密度の高さにあると考えられる。しかし、ツチバチ類成虫の地中での生態はほとんどわかっておらず、ホスト利用や寄生行動に関しても、ごく断片的な知見しか得られていない。そこで本研究では、同海岸でも特に個体数の多い、オオモンツチバチ、キオビツチバチ、ヒメハラナガツチバチの3種について、飼育個体を用いた寄生実験と寄生行動の観察を行った。実験にはシロスジコガネ、サクラコガネ属、ハナムグリ類の幼虫を用い、飼育容器にツチバチ類とコガネムシ幼虫を1個体ずつ入れ、1日後に寄生の成否を確認した。その結果、オオモンツチバチはシロスジコガネ(寄生成功率38%)に、キオビツチバチはハナムグリ類(50%)に、ヒメハラナガツチバチはサクラコガネ属の2種(ヒメサクラコガネ22%、アオドウガネ71%)とシロスジコガネ(5%)に寄生し、これら3種のツチバチ類ではホスト種が異なる傾向がみられた。各種ツチバチ類とそれらが実験下で利用したホスト種は、実際に同海岸における生息場所の分布が大きく重複しており、それぞれのコガネムシ幼虫が野外でも主要なホストとなっていると考えられる。また、利用したホストサイズについてみると、オオモンツチバチとヒメハラナガツチバチではホストサイズの幅が広く(オオモンツチバチ0.48g-2.92g、ヒメハラナガツチバチ0.36g-2.21g)、これはツチバチ類成虫の体サイズの性差と関連していると考えられる。さらに各種の攻撃行動の観察結果をもとに、攻撃行動の特徴や種間の相違についても報告する。