著者
井上 綾瀬
出版者
日本印度学仏教学会
雑誌
印度學佛教學研究 (ISSN:00194344)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.907-902, 2021-03-25 (Released:2021-09-06)
参考文献数
10

The vinayas allow special cases of “cooking and preserving food”, “utilizing leftover food”, and “collecting fruits” in case of famine. The famine exception does not apply when the famine is over. Even bhikkhu can work in times of famine in order to support their lives, according to the Vinayas. In the event of famine, the rules loosen. It was generally accepted in ancient India that there was a difference between normal and emergency times. It is common in the Vinayas and Dharma literature that, in the event of an emergency, bhikkhus or brahmins may take on the activities of someone with a different social status, while keeping their status as bhikkhu or brahmin, respectively. It can be said that the Buddhist sangha had the same character as the broader Indian society in that avoiding poverty is more important in an emergency than protecting the bhikkhu’s normally expected means of life.
著者
井上 綾瀬
出版者
日本印度学仏教学会
雑誌
印度學佛教學研究 (ISSN:00194344)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.1045-1049, 2018-03-25 (Released:2019-01-25)
参考文献数
6

塩は比丘の健康維持のために生涯,持ち歩き摂取することが許可されていた薬(人形寿薬)の一種である.塩は動物の生命維持に必要不可欠であり比丘の生活に密着していた.インドで使用されている塩の種類は,律文献やアーユルヴェーダ文献における塩についての記述の用例から判断して古い時代より今日まで大きな変化はみられない.パキスタンのソルトレンジから採掘される無色透明から白色,ピンク色の岩塩が文献中でsindhuと呼ばれる塩で岩塩のなかでも価格が高く,黄色の岩塩はnādeya,硫黄臭がする黒い岩塩はsauvarcalaと呼ばれる.また,romakaはサンバル塩湖から完全天日製塩される塩である.律文献における用例より,比丘たちが使用していた塩は,岩塩・塩湖塩・海塩sāmudra(-ka)が中心であったことがわかる.塩の色や形状をめぐってその使用有無を限定する条文は律文献中になく,比丘は「塩」であれば,どのような塩でも使えた.“lavaṇa”という語は「塩全般,もしくは,塩味の物質」を示し,岩塩や塩湖塩,海塩,塩味の灰を含んでおり,漢訳語の「塩・鹽」がこれに通じる.基本的には,岩塩や塩湖塩,海塩が「塩」に相当するが,場合によっては「塩味の灰」も塩と見なされる.しかし,これら岩塩などの塩も塩味の灰もあくまでも食事とは区別されていた.
著者
井上 綾瀬
出版者
Japanese Association of Indian and Buddhist Studies
雑誌
印度學佛教學研究 (ISSN:00194344)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.1179-1184, 2017-03-25 (Released:2018-03-24)
参考文献数
6

漢訳律文献では,砂糖を表す際に「石蜜」という翻訳がしばしば使われる.しかし,紀元前後のインドには,サトウキビの絞汁を1/4に煮詰めた糖液(phāṇita/phāṇita),含蜜糖(黒糖,guḍa/gauḍa/guḷa),粗糖の結晶が浮いた廃糖蜜(khaṇḍa/khaṇḍa),廃糖蜜(matsyaṇḍikā/*macchaṇḍikā),薄い色の粗糖(śarkarā/sakkharā,さらに薄い色vimala/vimala)などが存在し,「砂糖」は複数存在した.サンスクリット語やパーリ語で残る律文献には,phāṇita,guḍa,śarkarā,vimalaが砂糖として示され,仏教教団にも複数の砂糖が知られていた確認ができる.しかし,教団内では砂糖は全て「薬」として使用された為,厳密な砂糖の種類を言及する必要はそもそもなかった.そのため,漢訳律文献において複数の砂糖をひとつの「石蜜」という単語に訳しても「砂糖=薬」の原則故に問題が無かった.そのため,漢訳律文献中の「石蜜」という訳語が示す砂糖は複数ある.漢訳律文献中の「石蜜」が,どの砂糖にあたるかは文脈や規則の内容から総合的に判断しなければならない.
著者
井上 綾瀬
出版者
日本印度学仏教学会
雑誌
印度學佛教學研究 (ISSN:00194344)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.1064-1059, 2020-03-20 (Released:2020-09-10)

In this paper, basing myself upon the descriptions of the Vinayas and the historical distribution channels of spices, the pungent taste of India before the introduction of chili is explored. In the case of udara-vāta-ābādha (pain caused by the wind dosa in the belly), eating tekaṭulā-yāgu (gruel made of three pungent ingredients) is relatively common in the Vinayas. The ingredients of tekaṭulā-yāgu are pepper, Indian long pepper, and ginger. yāgu was cooked from cereals such as rice, sesame and beans. In addition, yāva-jīvika includes pepper, Indian long pepper, and ginger, which is common to the Vinayas. In modern India, clove and cumin are used as curry ingredients as one of the pungent tastes, but they do not fall under the Vinayas.
著者
井上 綾瀬
出版者
日本印度学仏教学会
雑誌
印度學佛教學研究 (ISSN:00194344)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.1179-1184, 2017

<p>漢訳律文献では,砂糖を表す際に「石蜜」という翻訳がしばしば使われる.しかし,紀元前後のインドには,サトウキビの絞汁を1/4に煮詰めた糖液(phāṇita/phāṇita),含蜜糖(黒糖,guḍa/gauḍa/guḷa),粗糖の結晶が浮いた廃糖蜜(khaṇḍa/khaṇḍa),廃糖蜜(matsyaṇḍikā/*macchaṇḍikā),薄い色の粗糖(śarkarā/sakkharā,さらに薄い色vimala/vimala)などが存在し,「砂糖」は複数存在した.サンスクリット語やパーリ語で残る律文献には,phāṇita,guḍa,śarkarā,vimalaが砂糖として示され,仏教教団にも複数の砂糖が知られていた確認ができる.しかし,教団内では砂糖は全て「薬」として使用された為,厳密な砂糖の種類を言及する必要はそもそもなかった.そのため,漢訳律文献において複数の砂糖をひとつの「石蜜」という単語に訳しても「砂糖=薬」の原則故に問題が無かった.そのため,漢訳律文献中の「石蜜」という訳語が示す砂糖は複数ある.漢訳律文献中の「石蜜」が,どの砂糖にあたるかは文脈や規則の内容から総合的に判断しなければならない.</p>