著者
井上 義文 居倉 裕子
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.EbPI1400-EbPI1400, 2011

【目的】<BR> 当施設では、理学療法士の個別の関わり方には限界があるため、より多くの利用者にリハビリテーションを提供するために、集団体操を行っている。集団体操は、画一的かつマンネリ化しやすいという側面があるため、これの活性化を図るために、平成21年8月より音楽を取り入れた集団体操を試みた。今回は、集団体操に音楽を介入させたことによる利用者の参加状況の変化について報告し、集団体操の特性および可能性について考える機会としたい。<BR><BR>【方法】<BR> 入所者に対し、運動機能の維持・向上および運動機会の確保を目的に行っている集団体操(2回/週、20~30分/回)に、音楽を介入させる。音楽の介入方法は、以下の通り。理学療法士1名は、インストラクターとする。季節感や記憶に作用するような話を交えながら、運動量を調節しつつ、集団体操の進行役を務める。もう1名の理学療法士は、運動の動きやテンポに合わせ、利用者の反応に応じたピアノ伴奏を行う。体操中の伴奏は、運動の動きやテンポに合わせた伴奏と、利用者の好みに合わせたものや季節感をとりいれた曲を演奏し、利用者が歌いながら体操をする場面もある。使用器具として、電子ピアノ(カシオ社製Privia PX-120)を用いた。集団体操への参加状況については、各階毎に、音楽導入前後の10回について、利用者の反応を「自発的に参加」「促しにより参加」「拒否」「無関心」の4つに分類し、比較した。また、集団体操に関わったことのある介護職員を対象に、音楽導入前後の利用者の集団体操時の様子について、アンケート調査を行い、「良くなった」「変わらない」「悪くなった」から答えを一つ選択し、また、気づいた点を自由記載してもらった。<BR><BR>【説明と同意】<BR> 利用者・家族には、リハビリテーション実施計画の説明とともに、本研究について十分な説明を行い、同意を得た。<BR><BR>【結果】<BR> 2階入所者(平均要介護度;3.1)は、10回の延べ参加人数合計は、音楽導入前:218人、音楽導入後:248人。音楽導入前の反応は「自発的」:142人・65.1%、「促し」:41人・18.8%、「拒否」:13人・6.0%、「無関心」:22人・10.1%。音楽導入後の反応は「自発的」:179人・72.2%、「促し」:32人・12.9%、「拒否」:12人・4.8%、「無関心」:25人・10.1%。職員アンケートの結果は、「良くなった」:9名・81.8%、「変わらない」:2名・18.2%、「悪くなった」0名・0%であった。3階入所者(平均要介護度;3.6)は、10回の延べ参加人数合計は、音楽導入前:291人、音楽導入後:278人。音楽導入前の反応は「自発的」:151人・51.9%、「促し」:61人・21.0%、「拒否」:25人・8.6%、「無関心」:54人・18.5%。音楽導入後の反応は「自発的」:168人・60.4%、「促し」:50人・18.0%、「拒否」:21人・7.6%、「無関心」:39人・14.0%。職員アンケートの結果は、「良くなった」:12名・100%、「変わらない」:0名・0%、「悪くなった」0名・0%であった。以上の結果から、概ね、利用者の反応が良い方向へ変化したことが確認できた。<BR><BR>【考察】<BR> 昨今、高齢者が音楽で得られる効果には、様々な報告がある。それは、身体的、生理的、心理的、社会的(対人)なプラス効果である。今回、集団体操にピアノ伴奏を取り入れたことで利用者の反応が良好となり、参加状況が改善した。これは、ピアノ伴奏の意味合いは、バック・グラウンド・ミュージック的なことではなく、利用者の反応や体操の内容に合わせてピアノ伴奏することが、利用者の興味をひき、このような結果につながったと思われる。また、随時、テンポや音の強弱の調整が可能であるため、体操の内容にメリハリがつき、利用者が最後まで集中して参加したり、歌に合わせて体操したりすることで、あまり疲労感を感じることなく、運動量を確保できた。コミュニケーションの観点からも、音楽を介入させることにより、理学療法士側の非言語メッセージ(顔の表情、声の表情、身ぶり等)が強調され、利用者と良好な関係性を築き、活気ある集団体操となった。当施設の「集団体操」の主目的は「より多くの利用者を対象に、身体機能維持・向上のために、効率よく効果的に運動させること」であったが、音楽を取り入れたことにより、様々なプラス効果が得られ、体操の内容だけではなく、導入や進行方法も再考するいい機会となった。今後も、理学療法士の専門性、音楽のもつ特性、そして集団体操という環境条件を生かしながら、今後は当施設のオリジナルとなるよう、さらに工夫を重ねていきたいと思う。<BR> <BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 音楽を介入させることで、集団体操を活性化することが出来た。音楽の特性を生かしながら、理学療法士の専門性を発揮することの重要性が伺えた。