著者
井上 賢一
出版者
公益社団法人 日本油化学会
雑誌
オレオサイエンス (ISSN:13458949)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.207-213, 2023 (Released:2023-04-05)
参考文献数
15

肺胞の表面を覆う肺サーファクタントは,主成分である脂質の両親媒性により,呼吸機能の維持に重要な役割を果たしている。最近,この肺サーファクタントに含まれる不飽和脂質が空気中に含まれる程度の極低濃度オゾンによっても酸化されることを示唆する結果が報告されている。極低濃度オゾンの呼吸器への影響を明らかにする上で分子レベルでの反応機構を明らかにすることは重要であるが,技術的な難しさのためにその詳細はこれまでに十分には明らかになっていない。和周波発生(SFG)分光法は,2次の非線形光学効果に基づき分子の界面構造に非常に敏感な分光法である。特に,SFG光の干渉信号を検出するヘテロダイン検出は,従来の光強度測定と比較してより多くの情報を得ることが可能である。本稿では,ヘテロダイン検出SFG分光法の原理と極低濃度オゾン環境下における不飽和脂質単分子膜の酸化反応のその場測定への適用例について紹介する。