著者
井上耕 一郎
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.75-89, 1992-12-31 (Released:2008-12-25)
参考文献数
20
被引用文献数
15 15

河川縦断面曲線は,従来,平衡河川を表すのに適当であると考えられてきた関数回帰式によって近似的に表現されてきた。日本の諸河川は非平衡河川であるが,その縦断面曲線は,「指数関数」もしくは「べき関数」で表される。適合関数形の違いは,河川の運搬作用の違いに反映していると考えられる。本研究では,河川作用の縦断方向への変化の実態を理解する目的で,「礫径-掃流力-縦断面形」の関係を吟味し,河川縦断面曲線の適合関数形が異なると掃流力や礫径の縦断変化の特徴がどのように異なるのかを論じた。 関東地方の5つの沖積河川において,「粒度組成・掃流力・河川勾配」のそれぞれにっいて,縦断変化を検討した。河床砂礫は2~5つの対数正規分布集団に分けられる。そのうち最大の粒径を持つA集団の運搬形式は掃流形式と解釈され,その粒径は,河川勾配に強く規定された流水の掃流力の大きさに対応していることが確かめられた。 「指数関数形タイプ」の河川では,縦断面曲線の曲率が大きいため,その中流部において,掃流力が著しく減少し,それにともなって-7~-6φの大きさを持っA集団が特徴的に見られなくなる。それに対して,「べき関数形タイプ」の河川は,河川縦断面曲線の曲率および河川勾配の縦断変化が小さく, -7~-6φの大きさを持っA集団は,「指数関数形タイプ」の河川と異なり,河口付近まで存在する。その流下限界は,中~下流部で掃流力すなわち河川勾配が著しく減少する所に相当しており,その地点の河川勾配は,調査対象5河川においては,いずれも約1/1000を示している。またこの位置は,縦断面曲線の適合関数形が「指数関数形」河川よりも「べき関数形」河川の方が,下流側に位置する。 以上の検討から,沖積河川における河床砂礫の大きさは,河川縦断面曲線の適合関数形のタイプに特有な縦断変化を示すと同時に,河川縦断面形状の特徴を反映した水理状態の縦断変化によく対応していることが明らかになった。このことは,河川縦断面形状(適合関数形のタイプ,曲率)から河川の運搬作用や堆積物によって形成される地形が概ね推定できることを意味している。