著者
井村 治 山田 大吾
出版者
農業技術研究機構畜産草地研究所
雑誌
畜産草地研究所研究報告 (ISSN:13470825)
巻号頁・発行日
no.11, pp.1-9, 2011-03

畜産草地研究所御代田研究拠点(長野県北佐久郡御代田町)の放牧草地において,2002年5月から11月まで標高1,000m,1,100mおよび1,200m の3地点に牛糞トラップ(糞1kg使用)を設置し,放牧草地での牛糞の分解に係わる糞虫相とその季節的変動を調査した。またその糞虫相の特徴と放牧草地での糞分解への寄与について考察した。3調査地点で合計2,320個体が捕獲され,ダイコクコガネ亜科(Scarabaeinae)5種およびマグソコガネ亜科(Aphodiinae)8種,合計13種が記録された。この内6種が糞を土中に埋め込んで利用するタイプの穴掘り屋(tunnelers)で,7種が地上の糞の中に産卵し幼虫が成育するタイプの住込み屋(dwellers)であった。標高によって種ごとの捕獲数は異なったが,各標高で出現した種数と総個体数に大きな違いはなかった。住込み屋と穴掘り屋の個体数比は標高が高いほど小さくなり穴掘り屋が優占した。3地点の合計で最も個体数が多かったのはシナノエンマコガネで,次いでマエカドコエンマコガネ,オオマグソコガネ,コマグソコガネ,ツノコガネの順で,スズキコエンマコガネ,クロマルエンマコガネ,マキバマグソコガネ,ヌバタママグソコガネおよびヨツボシマグソコガネの個体数は少なかった。種豊度(species richness)は13.2±0.7(S.E.),また種多様度(Shannon-Wienerの情報量指数H')は1.640±0.017(S.E.)で糞虫相の多様性は低かった。穴掘り屋の糞虫の種数は7月と8月の夏季に最も多くなり11月末には出現しなくなった。住込み屋の糞虫は春により多くの種が出現した。住込み屋の個体数は5月にはトラップ当たり30.2個体であったがその後減少し,7月以後は低い密度であった。穴掘り屋のトラップ当たり個体数は5月22日には55.7で,その後6月まで減少したが夏季の7月と8月は100個体を越え,9月には大きく減少し11月はゼロとなった。穴掘り屋の性比はやや雌に偏っていたが,雄と雌の行動の違いを反映していると推察された。御代田研究拠点の糞虫相には保全上重要な種が含まれ,当放牧草地は糞虫を保全するという観点からも重要な草地であることが示された。糞虫個体数は9月下旬以後を除いておおむね糞分解に十分な密度が生息しており,放牧草地の糞の円滑な分解に貢献していると推察された。
著者
井村 治
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.45-56, 2008-04-15
参考文献数
67
被引用文献数
4

各都道府県別のチョウのレッドリストとチョウの生態的特性を定量的に分析することにより,草地性チョウ類の保全すべき種とその特性を明らかにした。またこれらのチョウの保全とその生息地となる草地の維持・管理について議論した。日本産チョウ類の65.4%の種がいずれかの都道府県で絶滅の恐れがある種とされていた。レッドリストの種数では,草地性種が森林性種に比べて生息が脅かされるとは言えなかった。レッドリストカテゴリーに基づく絶滅リスク指数(ERI)でチョウを評価したところ,最上位の種はいずれも草地性の種であった。ERIとチョウの生態的特性の関連を一般化線形モデルで解析したところ,分布面積が狭く,単食性の草地性である種の絶滅のリスクが高かった。ERIは保全すべきチョウを評価するだけでなく,チョウの住む草地の環境的価値を評価するためにも利用できると考えられる。