著者
今井 佐金吾
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.27, no.10, pp.611-615, 1978 (Released:2010-02-16)
参考文献数
11
被引用文献数
3 4

有機物試料を低温灰化する際に,これに含まれる元素群の揮発損失について放射化分析法により検討した.メンブラン・フィルター又は天然セルロースろ紙上に 25種の元素を各々100μgずつ個別に添加し,更に灰分増量剤及び共存物質として硝酸マグネシウム又は塩化鉄(III)を2mg添加した試料, 更に高揮発性の塩化アンモニウム,又は低揮発性の塩化カドミムを 0.1 mmol程度共存させた試料を調製した.これらの試料はすべて2試料1組として調製し,その一つを低温灰化し,もう一方は対照用試料として,それぞれ中性子放射化分析した.その結果,硝酸マグネシウムを灰分増量剤とした場合にヒ素(III),セレン(IV),セレン(VI)が74%から89%の間の回収量を示し,又,塩化鉄(III)を灰分増量剤とした場合,又は,これに塩化カリウムを共存させた場合,ヒ素(III),ヒ素(V),カルシウム,セレン(IV),セレン(VI)が55%から94%であった.この他の元素群については95%以上の回収率が得られた.塩化鉄(III)に塩化アンモニウムが共存する場合は,一般に回収率が若干低下する傾向が認められた.炭素微粉末を主成分とし,比較的多量の鉄を含む大気浮遊じんの灰化を想定して,これに類似の系として塩化鉄(III)に黒鉛粉末を共存させた試料では塩化鉄(III)のみの場合と,その回収率に有意な差は認められなかった.