著者
森田 矢次郎 今井 文雄 呉 邵忠
出版者
人間-生活環境系学会
雑誌
人間と生活環境 (ISSN:13407694)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.29-33, 1996 (Released:2018-03-22)
参考文献数
6
被引用文献数
1

灸療法の研究は東洋医学の観点から行われ,疾病の治療と健康の維持に大きな効果を挙げてきた。本研究では,灸の一種である塩灸を取り上げ,灸のメカニズム解明のため,熱工学的アプローチを採用する。灸そのものの熱工学的データを取り,人間の灸による感覚(温熱感と快適感)を調べた。主な結論を次に示す。1) 塩の量と艾の量をパラメーターとし,各種の艾を用いて,塩灸の実験データを取り,1個の艾柱が燃え尽きるまでの熱の発生と散逸,人体表面の界面の温度変化について,定量的な知見を得た。2)被験者の皮膚の熱伝導率と熱拡散率に個人差があると考えられる。3) 塩灸実施時の温熱変化の特徴は,施灸者が艾柱を燃やすという過程を数回繰り返すので,人間の皮膚が熱の吸収と放散を繰り返す,という点である。4)塩灸被験者の温熱感覚が快適となるのは,皮膚から熱の放散がある時と皮膚が熱を吸収し,皮膚表面の温度が上昇し始める期間である。