著者
三好登和子 今橋正征 鳥居 鉄也
出版者
国立極地研究所
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.113-128, 1988-07

南Victoria LandのDry Valley地域には多くの塩湖が点在する。それら塩湖水中のストロンチウム濃度を測定したところ, 0.0-1630mg/lであった。そこでそれらのSr/Ca比を求めたところ, 0.0-4.56×(10)^<-2>の範囲で, 内陸の塩湖水のSr/Ca比はRoss海に近い塩湖水の比よりも低いことが明らかになった。Dry Valley地域の塩湖の塩起源をSr/Ca比をもとに, 次のように要約した。1)Fryxell湖の塩類は海水に起因する。すなわち, 湖水のSr/Ca比, 約3-4×(10)^<-2>, はhaliteが蒸発析出した海水の比に似た値である。現在の塩水は, 塩分が1/5ほどであるので, 蒸発した海水と氷河融水との混合により形成したと思われる。Bonney湖の塩類もまたFryxell湖と同じような変化を経て生成したと考えられる。2)Vanda湖は, 岩石風化で生じた塩類や海水起源の塩類析出物を含んでいる氷河融水と, Onyx河川水で形成された。谷中に分布するcalciteやgypsumのような塩類析出物は, T. G. THOMPSONとK. H. NELSON (Am. J. Sci., 254,227,1956)により行われた低温下での凍結濃縮で海水から生成されたと思われる。3)Wright谷上流域のLabyrinth地帯の湖沼水は, 氷河融水や降雪による風送塩の溶解や, 玄武岩といくぶん反応した水から生じたと考えられる。