- 著者
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今里 知世
山本 秀美
熊谷 あずみ
- 出版者
- 日本重症心身障害学会
- 雑誌
- 日本重症心身障害学会誌 (ISSN:13431439)
- 巻号頁・発行日
- vol.43, no.2, pp.377, 2018
はじめにA氏は、人工呼吸器装着中であり、徐々に精神運動機能の退行がみられ、低い覚醒水準が持続している寝たきり重症心身障がい児(者)の状態にあった。幼少期の在宅での記憶や、食事摂取していたころの嗜好に関連した五感刺激を与えることにより、覚醒状態の改善・反応の改善・看護の好循環がみられたのでここに報告する。研究方法1)対象者:A氏 40歳代 男性 2)研究期間:2017年6月〜7月 3)方法 視覚:アイマスクの使用・高照度光療法の導入。聴覚:朝は生活音・日中はラジオや音楽・就寝時はオルゴールを流す。臭覚:家庭での朝の臭いを回想できるよう味噌・就寝時はミントの臭いを使用。味覚:いちご味の口腔スプレーを使用。皮膚感覚:乾布摩擦・爪もみを導入。時間を決めて刺激を行い、覚醒・半覚醒・睡眠の割合を研究期間前と期間中で比較・分析した。結果夜間の睡眠割合が29%増加し、日中の覚醒時間がわずかながら増加した。また、反応が乏しかったA氏に、目がパチッと開いたり、鼻をひくひくさせたり、口をもごもごして味わっているような動作や、手を払いのけるような反応がみられた。考察高照度光療法や、自律神経系へ作用するとされている皮膚感覚刺激の導入、夜間の睡眠環境の整備、在宅時の記憶や摂食時の嗜好に関連した五感刺激をバランスよく行うことで、1日のリズムが整い、入眠・起床時間の規則性が得られた。その結果、夜間の睡眠時間の増加、日中の睡眠時間の減少につながったと考える。また、日中の覚醒時間の増加と、積極的に五感刺激を与えていくという目標をスタッフが共有することでA氏への関わりが増えた。反応の乏しかったA氏が、目をパチッと開いたり、鼻をひくひくさせたりする様子を見せたことで、看護の与える影響の大きさを実感し、感動や喜びへつながり、さらにA氏との関わりを持つという看護の好循環につながっていったと考える。