著者
今野 浩之 大森 純子
出版者
公益社団法人 日本看護科学学会
雑誌
日本看護科学会誌 (ISSN:02875330)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.772-779, 2021 (Released:2022-03-02)
参考文献数
35

本研究は,地域で生活を継続する統合失調症を持つ者の回復とはどのような経験であるかを明らかにすることを目的とした.Giorgiが提唱する現象学的アプローチを参考に,統合失調症を持つ者5名を対象に分析した.結果,統合失調症を持つ者の回復の経験とは『他者の理解の中だけにある未知の自分の存在を認知する』であり,未知の自分に対し,過去から現在までの連続の中で自分が認識できている既知の自分を見定めながら『未知の自分と既知の自分を共存させる』ことであった.未知の自分と既知の自分を共存させ続けるためには『既知の自分を維持・強化し続ける』ことが必要であった.統合失調症を持つ者の回復の経験は,未知の自分とそれに対応する既知の自分との因縁の不可分な関係によって生じ続け,今も持続的に経験されていた.既知の自分を蓄積することは,自己同一性の再構築であると考えられ,今も継続しているものであると推察された.