著者
Arthur V. Everitt 伊東 蘆一
出版者
The Japanese Society of Nutrition and Dietetics
雑誌
栄養学雑誌 (ISSN:00215147)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.175-182, 1985 (Released:2010-04-30)
参考文献数
22

ラットの老化の速度は, 90日齢を過ぎたところで食餌摂取量を制限したり, 下垂体を切除したりすることによって遅らせることができる。これら2つの処置は, ラットの尾の腱のコラーゲン繊維の老化を遅らせ, 腎糸球体毛細血管の基底膜の肥厚を阻止する。また加齢に伴って発症する疾患, たとえば腎疾患, 後肢の麻痺, 腫瘍の発症を阻止する。下垂体切除は食餌摂取量を低下させるが, その抗老化作用は, この処置をうけたラットと摂食量を同じにした場合に, 無処置のラットにみられる食餌制限の効果よりも大きい。最長寿命は, 無処置の雄ウイスター系ラットでは1,201日であったが, 下垂体切除ラットでは1,335日に, 食餌制限ラットでは1,525日に延長した。多くの下垂体ホルモン, 甲状腺ホルモン, 副腎皮質ホルモン, 精巣ホルモンは幾つかの組織の老化の速度に影響することが示されている。コラーゲンの老化の速度は, 主に食餌のエネルギー含量によって決定されるが, 加齢に伴う腎疾患の発症はエネルギーとたん白質両者の摂取量によって影響される。まだ仮説の域を出ないが, 脳の中枢, たとえば視床下部が, 食餌摂取と下垂体ホルモンの分泌の変化を通して, 老化の速度と加齢に伴う疾病の発症をコントロールしていることが考えられる。