著者
斉藤 進 高間 総子 豊巻 孝子
出版者
The Japanese Society of Nutrition and Dietetics
雑誌
栄養学雑誌 (ISSN:00215147)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.165-168, 1972-07-25 (Released:2010-10-29)
参考文献数
9

環境条件が味覚にどのような心理的影響を与えるかについて実験するため, 温湿度, 照明, 音響などを調節できる特殊な官能審査室を設け, John, W. Mitchell が行なった1:2点官能審査法を採用し, パネルによる審査をした。その結果, 総合的に温湿度, 照明, 音響などの環境要素を変えた場合と, 照明のみを変えた環境条件下で行なった場合では何れも5%の水準で有意差があり, 環境が味覚の心理に影響したものと思われた。
著者
小島 彩子 佐藤 陽子 橋本 洋子 中西 朋子 梅垣 敬三
出版者
特定非営利活動法人 日本栄養改善学会
雑誌
栄養学雑誌 (ISSN:00215147)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.141-145, 2010 (Released:2010-09-10)
参考文献数
25
被引用文献数
2 1

最近の野菜の栄養価が低下しているという情報が流されている。こうした情報は,単に日本標準食品成分表(食品成分表)の収載値を引用して比較しているが,食品成分表では改訂ごとに分析方法が変更されていることは考慮されていない。このような情報における分析方法の関与について検証する目的で,ビタミンC(VC)に焦点をあて,9種類の野菜のVCを,これまで食品成分表で使用された3つの分析方法,すなわち滴定法(I),比色法(II),HPLC法(III)を用いて比較した。ホウレンソウ,コマツナ,ニンジンのVC含量はI>II>IIIのように明確に年代順に低下した。この実測値の変動は,食品成分表におけるVC収載値の変動とよく一致していた。トウガンのVC含量は食品成分表収載値の変動と同様に方法IIによる実測値が他法よりも高かった。いくつかの野菜では,食品成分表におけるVC収載値の変動が分析方法だけでは説明できなかったものの,全体としては,実測値の変動は食品成分表の収載値の変動とよく一致していた。以上の結果より,過去の食品成分表のVC収載値の変動に対して,分析方法の違いがある程度は影響したことが示唆された。(オンラインのみ掲載)
著者
岸田 典子 上村 芳枝
出版者
The Japanese Society of Nutrition and Dietetics
雑誌
栄養学雑誌 (ISSN:00215147)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.23-30, 1993 (Released:2010-04-30)
参考文献数
23
被引用文献数
9 8

学童376人に, 食事中の家族との会話の有無 (以下, “有り”を会話群, “無し”を非会話群とする) と健康・生活の規則性・食生活との関連について, 質問紙法により調査を行い, 次のような結果が得られた。1) 健康についてみると, 会話群は非会話群に比べ, 食欲がある, 朝の目覚め良好, だるいことはない, 夜よく眠れる, 風邪をひきにくい, イライラしない, 非常に健康なほう, 健康良好, 起立性調節障害症状無しなどの割合が高く, 食事中の家族との会話と健康との関連がみられた。2) 生活の規則性に関して, 起床・就寝・排便・間食時刻などが規則的で, 朝食を毎日食べる, 運動を毎日するなど, いずれも会話群のほうに割合が高かった。3) 食生活では, 料理や6つの基礎食品群の組み合わせがよい, 野菜をよく食べる, 給食外で牛乳を飲む, 食べ物の好き嫌いがない, 間食量を決めている, 清涼飲料水を飲まないなどについて, 会話群のほうに割合が高かった。
著者
川端 晶子 澤山 茂 瓜生 恵子
出版者
The Japanese Society of Nutrition and Dietetics
雑誌
栄養学雑誌 (ISSN:00215147)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.9-18, 1974-01-25 (Released:2010-10-29)
参考文献数
19
被引用文献数
7 6

44種の果実類, 3種の果菜類および3種の種実類のべクチンを定量した結果, 新鮮物可食部に対するペクチン酸カルシウムとしての全ペクチン含有量は, 次のようであった。1) かんきつ類4%以上: 温州みかん果皮3.00~3.99%: きんかんパルプ, ぶんたんパルプおよび果皮, ゆずパルプ。2.00~2.99%: ぶしゅかん, ゆず果皮。1.00~1.99%: きんかん果皮, 温州みかんパルプ。0.99%以下: きんかん果汁, 温州みかん果汁, ぶんたん果汁, ゆず果汁。2) その他の果実類2.00~2.99%: ポポー, アボカード。1.00~1.99%: かりん, いちじく, 赤すぐり。0.50~0.99%: りんご (紅玉, スターキング, デリシャス, ふじ, インド, 国光), すぐり, バナナ (エクアドル産, フィリピン産, 台湾産), かき, いちご, キィウィ, マンゴー, パパイア, まるめろ。0.49%以下: 和なし (二十世紀, 長十郎, 幸水), 洋なし, さくらんぼ, プラム, あんず, もも, うめ, クッキンダバナナ, りんご (むつ), びわ, レンブ, ぶどう (キャンベル, デラウェア, ネオ・マスカット, 巨峰), パイナップル。3) 果菜類0.50~0.99%: れいし。0.49%以下: トマト, 西瓜。4) 種実類5%以上: くるみ, らっかせい。1.00~1.99%: くり。全ペクチン中の各抽出区分の比率について, かんきつ類の果汁では, きんかん以外, W-S区がもっとも高く, 果皮およびパルプでは, きんかん以外は, P-S区がもっとも高く, つづいてH-S区であった。その他の果実類, 果菜類および種実類45種のうち, 28種はH-S区がもっとも高く, W-S区のもっとも高いものは9種, P-S区のもっとも高いものは8種であった。総体的に, 熱帯果実にW-S区の高いのが目立つ。
著者
高橋 恵理 樋口 満 細川 優 田畑 泉
出版者
The Japanese Society of Nutrition and Dietetics
雑誌
栄養学雑誌 (ISSN:00215147)
巻号頁・発行日
vol.65, no.5, pp.241-247, 2007-10-01 (Released:2010-02-09)
参考文献数
21
被引用文献数
4 3

The basal metabolic rate (BMR) of Japanese females in their twenties (F2006) was compared with that of females of the same age measured in the 1950s (F1950; Nagamine and Suzuki, 1964). The subjects measured during 2004-2006 were 83 females (F2006) with no exercise habits. BMR was measured by using indirect calorimetry, and the body composition was assessed by dual-energy X-ray absorptiometry (DXA).While the height and weight of F2006 were respectively significantly higher and heavier than those of F1950, BMR of F2006 (1, 110±112kcal/day) was not significantly different from that of F1950 (1, 132kcal/day). In addition, there was no difference in lean body mass (LBM) between the two groups. On the other hand, BMR per body weight of F2006 (21.5±2.1kcal/kg/day) was significantly lower than that of F1950 (23.1kcal/kg/day). BMR per body weight of F2006 was correlated with LBM per body weight (%LBM, r=0.51, p<0.001), although BMR per LBM of F2006 was not different from that of F1950.These data suggest that BMR per body weight of the current young females of Japan is lower than that of the young females of the same age measured in the 1950s, during which data for establishing the BMR reference value in “Dietary Reference Intakes for Japanese, 2005” was obtained. Furthermore, the difference in BMR per body weight between the two groups can be explained by the difference in %LBM.
著者
東元 稔 糸賀 寛子 新畠 直
出版者
特定非営利活動法人 日本栄養改善学会
雑誌
栄養学雑誌 (ISSN:00215147)
巻号頁・発行日
vol.68, no.5, pp.315-321, 2010 (Released:2010-11-29)
参考文献数
36

著者らは,自家発酵ヨーグルトの冷蔵,植え継ぎ,ならびに味付け食品や酒類との共存下における生菌数の変動を検討した。冷蔵庫で保存したヨーグルト中の生菌数は1週間で約1/4ずつ経時的に減少した。植え継ぎによる生菌数の変化はヨーグルトの種類による差が多少見られたが,実用上問題になるほど大きいものではないと考えられた。また,他の食品との共存によるヨーグルト中の生菌数への影響を検討した結果,通常の味付け食品による影響はほとんどみられなかったが,高濃度のアルコールを含む酒類の共存によって生菌数が減少した。しかし,低濃度のアルコールを含む酒類の共存下ではヨーグルト中の細菌の増殖が有意に増強されることが分かった。これらの結果は,我々が,比較的簡便に,自分で作製した好みの手作りヨーグルトを日常的に食べ続けることが可能であることを示唆している。(オンラインのみ掲載)
著者
安部 景奈 赤松 利恵
出版者
特定非営利活動法人 日本栄養改善学会
雑誌
栄養学雑誌 (ISSN:00215147)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.75-81, 2011 (Released:2011-07-02)
参考文献数
24
被引用文献数
8 2

【目的】学校給食の食べ残しに関連する要因を検討すること。【方法】2009年5~6月,都内の小学校に通う5~6年生112名を対象に,自己記入式質問紙調査を行い,その日の給食についてたずねた。調査は2日間,給食の後に行った。調査当日の給食の食べ残しの状況を従属変数とし,食前の空腹感,食後の満腹感,献立の嗜好,喫食時間の過不足,食具,性別,BMIを独立変数として,ロジスティック回帰分析を行い,食べ残しの要因を検討した。同一の対象者に2回ずつ調査を実施したため,一般化推定方程式(generalized estimating equation: GEE)を用いて延べ224名として解析を行った。【結果】有効回答数は延べ222人であった(回収率99%)。多変量ロジスティック回帰分析の結果,喫食時間(オッズ比[OR]=45.31,95%信頼区間[95%CI]=13.46~152.53),嗜好(OR=2.71,95%CI=1.04~7.09),BMI(OR=0.80,95%CI=0.65~0.99)が食べ残しと関連していた。【結論】本研究により,給食の食べ残しに関連する要因には,喫食時間,嗜好,BMIがあることが示唆された。今後は,児童の食べ残しを減らすための栄養教育を行うとともに,学校全体として食べ残しの問題に取り組む対策を考えていく必要がある。
著者
里内 美津子 若林 茂 大隈 一裕 藤原 啓子 松岡 瑛
出版者
The Japanese Society of Nutrition and Dietetics
雑誌
栄養学雑誌 (ISSN:00215147)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.31-37, 1993 (Released:2010-04-30)
参考文献数
18
被引用文献数
18 26 25

難消化性デキストリン (PF) の便通に及ぼす影響について検討する目的で, PF摂取後の糞便重量, 糞便水分量, 排便状態, 便性状, 胃腸症状等について調べた。1) PF10~60g摂取後の便性状は大半がバナナ状~半練状であり, 下痢発症のED50値は2.4g/kg体重と推定された。また, 臨床上問題となるような胃腸症状は認められなかった。2) PF35g/日, 5日の連続摂取で, 糞便重量, 排便回数の増加が認められたが, 糞便水分含有率は変化がみられなかった。3) PF5~10g/日, 5日の連続摂取で, 排便状態の改善が認められた。
著者
江口 昭彦 齋藤 寛 田中 静恵 田中 恵子 中野 篤浩 有澤 孝吉 小林 誠
出版者
The Japanese Society of Nutrition and Dietetics
雑誌
栄養学雑誌 (ISSN:00215147)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.177-182, 1999-06-01 (Released:2010-02-09)
参考文献数
9
被引用文献数
1 1

種々の食品中の硫黄含量を明らかにすることにより, 硫黄の摂取量また硫黄の人体に対する生理的意義や健康状態との関連を知るための基礎資料の作成を目的とし, 予備的な回収実験の後, ICP発光分析法により12群77種 (各5検体) の食品について硫黄含量を測定した。この結果に基づいて, たんぱく質, 含硫アミノ酸と硫黄含量との相関を解析した。1) システイン溶液を用いた回収実験の結果, 過酸化水素水, 硝酸, 過塩素酸を加える操作法が, 最も高い回収率 (97.8±2.1%) を示した。2) 魚介類, 卵類, 豆類, 獣鳥肉類, 藻類 (あまのりのみ) 等の食品は, 硫黄含量が多かった。3) いも類, 野菜類 (にんにくを除く), 果実類, きのこ類などの食品は, 硫黄含量が少なかった。4) 今回測定した食品の硫黄含量とイギリスで発表されているもの20種 (24品目) との比較を行ったところ, 数値に若干の開きがあるものもあったが, 相関係数はr=0.89 (p<0.001) と極めて強い有意な正相関が認められた。5) たんぱく質及び含硫アミノ酸含量と硫黄含量との間には, 有意な正の相関が認められた。6) いいだこ・いか・ほたてがい・あまのり等の硫黄含量が特に多いのは, タウリンが多く含まれている食品であったり, 含硫アミノ酸以外に酸性ムコ多糖類似物質等も含まれている食品であるためと考えられる。7) にんにく, あさつき, グリーンアスパラガスの硫黄含量が比較的高いのは, 硫化アリルを含んでいるためと考えられる。
著者
沖谷 明紘
出版者
The Japanese Society of Nutrition and Dietetics
雑誌
栄養学雑誌 (ISSN:00215147)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.119-129, 2002-06-01 (Released:2010-02-09)
参考文献数
20
被引用文献数
5 5

A review is presented of the recent results mainly obtained by author's studies on the texture, taste and odor of chicken, pork and beef. An organoleptic study revealed that the texture of beef was very similar to that of pork but quite different from that of chicken. The meat-like taste and umami of soup were most intensive with chicken and weakest with beef, the umami of the soup being attributable to glutamic acid and 5'-inosine monophosphate. The organoleptic test panel was unable to identify chicken, pork and beef soups by their tastes, possibly due to the fact that the free amino acid pattern of each soup was similar with these three types of meat. On the other hand, the organoleptic test panel could readily identify chicken, pork and beef by their odor. The meat of Nagoya Cochin chicken was shown to have a unique odor of the meat of aigamo (a crossbreed of domestic and wild ducks). There was no difference in the odor character among the meat from three types of pig, including Kagoshima Berkshire. Wagyu beef from Japanese Black Cattle was found to have a preferable aroma (Wagyu beef aroma) which was sweet and fatty. This Wagyu beef aroma was concluded to be the main reason why the Japanese prefer Wagyu beef to imported beef. The Wagyu beef aroma was generated through unknown reactions between lean meat, fat and oxygen and the subsequent heating process.
著者
谷中 かおる 東泉 裕子 松本 輝樹 竹林 純 卓 興鋼 山田 和彦 石見 佳子
出版者
特定非営利活動法人 日本栄養改善学会
雑誌
栄養学雑誌 (ISSN:00215147)
巻号頁・発行日
vol.68, no.3, pp.234-241, 2010 (Released:2010-10-05)
参考文献数
13
被引用文献数
2 2

大豆中のイソフラボンは構造的にエストロゲンと類似しており,弱いエストロゲン様作用を発揮する.2006年に,内閣府食品安全員会は特定保健用食品から摂取する大豆イソフラボンの上限量を,通常の食事に上乗せして30mg/日と設定した.しかしながら,大豆イソフラボンや大豆たんぱく質が含まれている,いわゆる健康食品には イソフラボンの許容上限量が設定されなかった.そこで我々は,大豆が原料となっている加工食品,特定保健用食品を5品目含む健康食品10品目について,大豆たんぱく質と大豆イソフラボン含有量をそれぞれ酵素免疫測定法(ELISA)と高速液体クロマトグラフ(HPLC)法で測定した。8品目における大豆たんぱく質量は表示の90-118%が確認され,ジュニア選手用のプロテインパウダー2品目においては表示の約半分量が定量された.大豆たんぱく質を含む特定保健用食品中には表示の90-122%の大豆イソフラボンが検出された。一方,表示のない大豆たんぱく質強化食品2品目には一回摂取目安量当たり30mgを超える大豆イソフラボンが検出された。このような食品をジュニア選手が過剰に摂取しないよう注意する必要があると考えられた。(オンラインのみ掲載)
著者
西山 一朗
出版者
特定非営利活動法人 日本栄養改善学会
雑誌
栄養学雑誌 (ISSN:00215147)
巻号頁・発行日
vol.72, no.6, pp.292-301, 2014 (Released:2015-01-20)
参考文献数
50
被引用文献数
1 1

貯蔵性に優れ,いつでも手軽に食べられるキウイフルーツは,日本を含め世界中で食されている。ビタミンC,カロテノイドの一種ルテインなどを含んでおり,食物繊維も豊富な機能性の高い食品である。さらに,キウイフルーツ果実には「アクチニジン」という特徴的な成分が含まれている。アクチニジンはキウイフルーツから見出されたたんぱく質分解酵素で,近年,その消化促進作用が注目されている。本稿では,アクチニジンの酵素学的な特性を概説するとともに,in vitroおよびin vivoにおけるアクチニジンの消化促進効果を検証した最新の研究結果を紹介する。これらの研究結果から,アクチニジンは消化管で様々な食物由来たんぱく質の消化を促進し,胃の内容物排出速度を速めることで,アミノ酸吸収の効率を高める可能性が示唆された。高い栄養価に加え,消化促進効果が期待できるキウイフルーツは,健康の維持増進に有用な果実の一つと考えられる。
著者
福岡 秀興
出版者
特定非営利活動法人 日本栄養改善学会
雑誌
栄養学雑誌 (ISSN:00215147)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.3-7, 2010 (Released:2010-09-01)
参考文献数
19
被引用文献数
2 4

日本では生活習慣病(成人病)が著しく増加している。成人病(生活習慣病)は遺伝素因〈遺伝子多型〉と生活習慣の相互作用により生ずるといわれているが,特殊な遺伝子多型に由来する成人病はあってもこの考え方ですべての発症は説明出来ない。ここに第3の発症説として「受精時,胎芽期,胎児期または乳幼児期に,低栄養又は過栄養の環境に暴露されると,成人病の(遺伝)素因が形成され,その後の生活習慣の負荷により成人病が発症する。」という「成人病胎児期発症(起源)説 FOAD:Fetal Origins of Adult Disease」が注目されており,疫学的にこの説はほぼ正しいと認められるに至っている。その分子機序には3つあり,ひとつは低栄養で生ずる腎臓ネフロンや膵臓β細胞の減少等の解剖学的変化である。ついで低栄養・過量栄養環境に対応して生ずる代謝系の変化即ち遺伝子発現制御系(クロマチン構造変化)の変化がある。この変化は出生後も持続し,胎内と出生後環境のギャップに適応できず,やがて疾病を発症する。日本で出生体重はこの 20年間に男女共に 200g以上減少し,1980年代以降に,低出生体重児頻度(%)は増加し続け,2007年は9.70%にまで達している。エネルギーや葉酸等を十分摂取している妊婦むしろ少なく,全般的に栄養は不足している。ホモシステイン高値例も多い。胎生期のエピジェネティク変化で生ずる永続的な変化を起こす上で重要なのは,DNAメチル化度の変化である。それにはメチル基の代謝回転(one carbonmetabolism)が大きく影響する。この代謝系には葉酸,ビタミンB12,ビタミンB6,亜鉛,一部アミノ酸等が関与している。二分脊椎症の多発傾向に見るごとく葉酸の不足した妊婦が多い事も想像され,胎児の遺伝子発現系の望ましくない変化が生じている可能性がある。妊婦栄養を今こそ見直す必要がある。妊娠前の栄養,妊娠中の栄養管理,授乳期の母乳哺育指導等が重要であり,疾病・健康・寿命がこの時期の栄養環境で決る事が理解され,次世代の健康を確保する重要な考え方として広まる事が期待される。(オンラインのみ掲載)
著者
濱嵜 朋子 酒井 理恵 出分 菜々衣 山田 志麻 二摩 結子 巴 美樹 安細 敏弘
出版者
特定非営利活動法人 日本栄養改善学会
雑誌
栄養学雑誌 (ISSN:00215147)
巻号頁・発行日
vol.72, no.3, pp.156-165, 2014 (Released:2014-07-19)
参考文献数
25
被引用文献数
2 1

【目的】栄養状態と口腔内因子の関連については,多くの報告がみられる。これまでの報告は口腔機能との関連について検討したものが多い。本研究では舌の状態など,器質的な口腔内因子に着目し,栄養状態との関連について明らかにすることを目的とした。【方法】対象者は通所高齢者82名とした(男性29名,女性53名,年齢81.5±7.2歳(平均±標準偏差))。栄養状態,生活および食習慣の状況,栄養素等摂取量,食事摂取時状況および口腔内の状況について調査を行い,口腔内状況と栄養状態評価との関連について比較検討を行った。【結果】栄養状態と関連のあった口腔内因子は,“食事中の食べこぼし”と“舌苔の厚み”であった。食習慣では,“間食としてパンを摂取する”,“加工食品を使用する”,“大豆製品摂取頻度が少ない”および“漬け物摂取頻度が少ない”もので,いくつかの口腔内因子との関連がみられた。“食べこぼし有り”の者は,“たんぱく質エネルギー比率”が低いという特徴がみられた。【結論】食事状況や器質的な口腔内因子が栄養状態,食習慣さらには摂取栄養素と関連が認められた。そのため,食習慣についての把握,食事状況や口腔についての十分な観察,食事介助の改善および口腔ケアの実施に取り組むことの重要性が示唆された。
著者
中嶋(坂口) 名菜 高野 優 福島 英生 北野 直子 森 政博
出版者
特定非営利活動法人 日本栄養改善学会
雑誌
栄養学雑誌 (ISSN:00215147)
巻号頁・発行日
vol.70, no.6, pp.331-336, 2012 (Released:2013-01-08)
参考文献数
21

【目的】マゲイシロップは血糖指数(GI: glycemic index)が低い甘味料として注目されている。そこでグラニュー糖の代わりにマゲイシロップを配合した食品を摂取してもらい,マゲイシロップの食後高血糖抑制効果について検討した。【方法】疾患を認めない若年成人女性7名を対象に,2006年4~9月の間に実施した。約12時間の絶飲・絶食後,早朝空腹時の血糖値を測定した。WoleverとJenkinsの方法に基づき,基準食の血糖曲線下面積(AUC: areas under the curve)を算出し,糖質量を基準食と同量に調整した8種類の試験食(ロールケーキ,アイスクリーム,ジャム,糖尿病食にグラニュー糖もしくはマゲイシロップを配合)を基準食と同じ方法で摂取させ,同一被験者による基準食,グラニュー糖配合,マゲイシロップ配合の3群比較を4食品ごとに行った。基準食のAUCを100として各試験食のAUCの割合を求めGIを算出した。【結果・結論】一般的に用いられるグラニュー糖を使用した食品(対照食)に比べ,マゲイシロップを配合した食品(ロールケーキ,アイスクリーム,ジャム)においてAUC,GIの有意な低下が示された(p<0.05)。本研究により一定量以上のグラニュー糖と置換したマゲイシロップ含有食品3種類(ロールケーキ,アイスクリーム,ジャム)において食後高血糖抑制効果が確認された。
著者
堀 由美子 内田 博之 清水 純 君羅 好史 小口 淳美 真野 博
出版者
特定非営利活動法人 日本栄養改善学会
雑誌
栄養学雑誌 (ISSN:00215147)
巻号頁・発行日
vol.79, no.4, pp.242-252, 2021-08-01 (Released:2021-10-02)
参考文献数
27
被引用文献数
1

【目的】保険薬局およびドラッグストアに勤務する管理栄養士・栄養士の配置状況や就業実態を把握するとともに就業上の課題を明らかにすることを目的とした。【方法】第14回薬局管理栄養士研究会(2019年11月19日)に参加した管理栄養士・栄養士153名/企業67社に対し,自記式質問紙調査を行った。有効回答率は96.1%(管理栄養士:96.0%,栄養士:100%)であり,参加企業の各代表者からの有効回答率は100%であった。自由記述で得られた就業上の課題については質的解析を行った。【結果】回答者の多くは関東地方勤務(65.3%),年齢は20歳代(74.8%),資格取得後5年未満(69.4%),勤続年数3年未満(64.0%)の管理栄養士(98.6%)であった。薬局事務を担いながら栄養相談やセミナー・イベント等を業務としていた。質的解析した就業上の課題は,『業務への専念・時間』,『地域社会・患者の理解・連携』,『知識・経験不足』等のカテゴリーが形成され,「業務バランス」,「専門性・職務内容(ビジネススキル)」,「業務生産性」,「他職種との関係」,「地域社会との関係」の視点に分類された。【結論】本研究では,保険薬局やドラッグストアに勤務する管理栄養士・栄養士の就業実態とその課題を示した。就業上の課題解決には,同業種・同職種との連携や教育環境の整備,行政や各界の支援の必要性が示唆された。