著者
石丸 隆 伊藤 友加里 神田 穣太
出版者
日本海洋学会 沿岸海洋研究会
雑誌
沿岸海洋研究 (ISSN:13422758)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.143-149, 2017 (Released:2020-02-12)
参考文献数
9
被引用文献数
1

2011年3月11日の福島第一原発事故により大量の放射性物質が海洋生態系に拡散した.我々は同年7月以降,ほぼ半年ごとに練習船による調査を行ってきた.プランクトンネット試料のCs-137濃度は時間とともには低下せず,大きく変動した.原因は,オートラジオグラフィーにより確認された高セシウム線量粒子の混在であると考えられる.ベントスでは,事故当初は原発近傍とその南側で高い濃度のCs-137が観察された.その後原発近傍では低下したが,原発南側の岸よりで下げ止まっている.2014年12月から1年半の間,原発近傍の水深約25m の定点で,大量ろ過器により採集した懸濁粒子のCs-137濃度は約2,000Bq/kg-dry で変化したが有意な低下の傾向はなく,またCs-137濃度全体に対する高線量粒 子の寄与は大きかった.陸域からの高線量粒子の供給が続いていると考えられるが,高線量粒子は不溶性であることから魚類に移行することはない.