著者
中田 五一 伊藤 壽美代
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.82-93, 1955
被引用文献数
1

1) 1952年5月から1953年4月に至る1年間, 京都市右京区太秦, 安井小学校々庭において, New Jersey型light trapによる周年採集を行つた.2) 採集現場は市街地帯と農耕地帯の境界附近にあり北側は人家が密集し, 他の三方は水田である.3) 上記期間中に終夜採集を41回実施し, 総計5属19種8655個体の蚊が得られた.4) Culex pipiens (32.6%), Culex tritaeniorhynchus (29.0%), Anopheles sinensis (26.0%)の3種が圧倒的に多く, Culex vishnui (9.0%), Culex bitaeniorhynchus (1.4%), Culex rubithoracis (0.7%), Armigeres subalbatus (0.4%)の諸種は少いながらも構成上無視しがたい地位を占める.他は0.1%以下であつた.5) Culex pipiensは3, 4月には越冬雌が散発的に採れ, 5月中旬から雄が出現し, 以後11月下旬まで概ね連続して採集され, 従つて活動期間が最も長い.最高頂は6月下旬に認められる.6) Culex tritaeniorhynchusは5月下旬から雌が, 6月中旬から雄が出現を開始し, 7月下旬最高頂に達し, 9月下旬に急激に消失する.7) Anopheles sinensisは3, 4月に雌が散発的に出現, 5月中旬から雄が現われる. 7月上旬から急増し, 下旬に最高頂に達し, 10月上旬に姿を消す.8) Culex vishnuiは6月下旬から雌が, 7月下旬がら雄が現われ, 8月中旬最高頂に達し, 9月末に消失する.9) Culex bitaeniorhynchusは6月上旬に雌が始めて採れ.その後約1ヵ月間採れず, 7月中旬から9月下旬までは概ね連続的に出現する.最高頂は7月下旬に認められる.10) Culex rubithoracisは7月中旬から9月中旬まで概ね連続的に少数宛出現し, 8月中下旬に雄が稍々多くなる.11) Armigeres subalbatusは8月末から10月中旬まで採集され, 9月20日前後が最も多い.12) その他の諸種は, 概ね不連続に少数宛採集され, 消長様相を把握することは困難である.13) 各種の最盛期の間には多少のずれがあり, 全体として季節的"すみわけ"の傾向が認められる.14) 以上の成績を一応従来の知見と比較した結果, 蚊成虫の季節的消長は採集地点附近の環境や調査方法によつてかなり異つた様相を示す場合が多く, 到底緯度や気象の差だけでは説明し得ない.15) 季節的消長に関する研究の窮極の目的は, 各種の蚊のpopulation増減と環境要因の季節的変動との間の因果関係を探究することであり, その手がかりは, 個々の成績間における共通点を集約することよりも, むしろ相違点の分析的検討によつて与えられると思う.16) 以上の他light trap採集法の方法論的考察を行つた.
著者
伊藤 壽美代
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.42-46, 1954
被引用文献数
1

(1)ヒトスヂシマカとヤマダシマカの終齢幼虫を, 五対毛(α, ε)の分岐数によつて鑑別する従来の知見を, 推計学的に再検討した.(2)材料は1952年秋に京都市西南丘陵地帯の竹林内で採集した両種雌成虫を個体別に飼育産卵せしめ, これより孵化した幼虫を, 夫々親別に分けて飼育し, 得られた終齢幼虫脱皮殻につき, 上記両毛の分岐数を計測した.(3)供試数は, ヒトスヂシマカ3群, 計156個体, ヤマダシマカ5群, 計194個体である.(4)両種各群における平均値の均一性を検定した結果, ヤマダシマカのa毛のみが高度に有意となり, 他は有意ではなかつた.この原因は不明である.(5)両種全測定個体について, 両毛分岐数の分布型を調べた結果いずれも概ね正規型分布をすると認定した.(6)両毛分岐数の母平均の信頼限界は, ヒトスヂシマカのa毛2.93〜3.09, 同ε毛2.46〜2.64, ヤマダシマカのa毛6.77〜7.09, 同ε毛7.98〜9.22である.(信頼度95%)(7)種々の危険率における両毛分岐数の棄却限界を比較した結果, これらの分岐数による両種終齢幼虫の鑑別は危険率2%以上においてのみ可能であり, またa毛が5岐する個体はヤマダシマカに属し, ε毛が5岐する個体はいずれに属するとも云えないことが結論された.終りに本研究のテーマを与えられ, 終始懇切な御指導を賜つた恩師中田五一先生, 並びに推計学的処理について, 絶大な御教示を仰いだ大阪市立大学理工学部の大沢済先生に, 深く感謝の意を表する.