著者
伊藤 宣行
出版者
杏林医学会
雑誌
杏林医学会雑誌 (ISSN:03685829)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.485-496, 1999
参考文献数
36

酪酸ナトリウム(NaBu)は,細胞増殖を停止させ細胞分化を誘導することが知られてきた。しかし,その分子機構に関しては未知の点も多い。本研究では, 2種の培養ヒトグリオーマ細胞(U87MG, U251MG)に対するNaBuの細胞増殖,細胞浸潤効果を検討した。本研究により1) NaBuはグリオーマ細胞の増殖抑制,浸潤抑制を示した。2) 増殖抑制には, NaBuによるp21発現増加とRbの燐酸化の低下が関与していると考えられた。3) p53蛋白質に変異のあることが知られている細胞株においても, NaBuによるp21発現増加が観察されることから, p21の発現増加はp53蛋白質非依存的であると考えられた。 4) 形態学的変化として, NaBuによってアクチン-ストレスファイバー形成の増加が観察された。アクチンの細胞内分布の変化や形態変化が, NaBuのグリオーマ細胞浸潤抑制効果と関係している可能性が示唆された。