著者
伊藤 将太郎
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.59, 2016

<b>【目的】</b><br> 「家庭科は男女ともに学ぶ教科」という認識が浸透している一方で、家庭科を教える教員、また家庭科教員を目指す学生は、未だ女性が多い。そこで、男性家庭科教員、また家庭科教員を目指す男子学生は著しく少ない傾向にある理由・要因の追求を行う。所属する研究室に同様の目的で調査された卒業研究の結果があり、これらと比較することで、家庭科教員を目指す男子学生の現状と時系列の変化を知ることができるのではないかと考えた。また、今回の調査では、男子学生と共に学んでいる女子学生との比較を行い、より多面的に男子学生の実態に迫ることを目的とする。&nbsp;<br> <b>【方法】</b><br><b> 調査1:</b>「日本教育大学協会全国家庭科部門 会員名簿2014年度版」に記載されている教員養成系48大学49校を対象とし、家庭科に関する学部・学科・コースに在籍する(していた)男子学生数の調査を往復はがきで行った。同時に、H26年当時、すでに採用予定であった男子学生数(=H27年度採用)ならびに卒業生の中で中・高家庭科教員をしている人数をそれぞれ尋ねた。&nbsp;<br><b> 調査2:</b>調査1で回答のあった大学に協力をお願いし、男子学生・女子学生、各145名 計290名を対象に実態把握と意識調査を行ったところ、計117名から回答を得た(回収率40.3%)。内容は、学生自身の学習環境や状況、学習意欲等の6つのカテゴリーに分けた設問アンケートを郵送にて行った。<br> <b>【結果および考察】</b><br> <b>調査1:</b>男子学生数は、回答のあった大学で集計するとS63年度32名(49大学)、H13年度146名(43大学)、H26年度130名(35大学)という数字であり、S63からH13の増加数に比べると、H13からH26の変化は多いとは言えなかった。また、中・高男性家庭科教員数に関しては、回答校においてH17~26年度の10年間で計45名という結果であり、合わせても年間平均約4~5人しか中・高の家庭科教員になっていないということが分かった。<br><b> 調査2:</b>①家庭科についての印象は、以前の回答結果より「内容が面白く、興味が持てる」と感じている男子学生が増加していることが分かった。中・高の家庭科の授業を受けてきたことで、家庭科の良さを感じる者の割合が多くなっている。②科目別の興味関心度は、食物・保育分野に関する関心度が男女共に高く、「被服学」「被服製作実習」「被服実験」の3科目については、いずれも女子の方が関心が高く、男子学生の方が低い。③男性の家庭科教員の必要性については、約50%が「中・高で必要である」、約40%が「分からない又はどちらともいえない」であった。「必要である」の理由は、これまでの学習経験から、教員の男女差が気になっているというものが男女共に多い傾向であった。「分からない・どちらともいえない」の理由としては、男女の軸では考えていないというものが多かった。ただし、男性教員がいれば、何かしらの効果や影響を与えるのではと期待を込めた意見も見られた。④卒業後の進路は、中・高の家庭科教員になりたいという意欲は、男子学生の方が高く、将来中・高の家庭科教員を目指している学生が70%程度見られた。家庭科教員になりたいとする男子学生の理由は、「家庭科が好きだから」が一番多く、「男性家庭科教員が少ないから」という理由も多い。男性家庭科教員を増やしていきたいという気持ちも含まれていると考えられる。⑤男性家庭科教員が少ない要因は、『男は仕事、女は家事』という性別役割分業意識がまだ根強く残っていることを挙げ、「家事=家庭科=女子」のイメージが定着していると考えている。家庭科に女性教員が多いことで、家庭科に男性というイメージがもたれにくく、女性の世界へ飛び込む抵抗感が拭えない。また、「採用数や家庭科授業時数の減少など教育界の変化」も要因の一つだと考えている者がいた。授業数が少ないことで、(高校までの男子生徒に)興味を与える機会が少なく、家庭科の印象が薄く魅力が伝えきれず、仕事として家庭科を見る視野を充分に提供できていないという指摘もあった。