著者
伊藤 幹雄 横地 英治 鬼頭 利宏 鈴木 良雄
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.77, no.4, pp.419-425, 1981
被引用文献数
2

糸球体腎炎の発症および増悪において,血液凝固系の役割を明らかにするために,liquoid(Liq)を正常あるいは腎炎ラットに反復投与した場合の影響について検討した.正常ラットに Liq 10mg/kg 毎日1回計22回 i.v. 投与(I群)した場合,尿中への蛋白,N-acetyl-β-glucosaminidase の排泄,血中尿素窒素含量は正常対照群と比較して,ほとんど変わらなかった.また,抗ラット糸球体基底膜ウサギ血清(AGS)[0.5ml/150g体重]のi.v. 投与後15日目から Liq を 10mg/kg,3日目毎に計8回 i.v. 投与(III群)しても,毎日1回計22回 i.v. 投与(IV群)しても,これらの生化学的パラメーターは AGS のみを投与した腎炎対照群(II群)との間に有意差を認めなかった.螢光抗体法による糸球体への fibrin あるいは fibrinoids の沈着は弱かったが,10匹中I群およびII群では2匹,III群では8匹,そしてIV群では10匹に認められた.光顕所見ではI群においても係蹄壁とボウマン嚢との癒着,富核,半月体形成や硝子化を示す糸球体が少数例認められた.腎炎ラットに対する Liq の影響に関して,特に硝子化が顕著となり,硝子化を示す糸球体はII群ではわずか17%であるのに対してIII群では14%,IV群では55%であった.他の糸球体変化は富核を除いてII群に比しIII群では変わらなかったがIV群では明らかに増加を示した.しかし富核は逆にIII群,IV群では減少した.糸球体毛細管腔閉鎖はI群でも軽度ながら認められた.また腎炎群においてはII群に比しIV群ではその閉鎖の程度は明らかに強度であった.以上の結果から,糸球体内の血液凝固亢進が,糸球体腎炎の発症,増悪の主要な因子と考えられる.