著者
佐々木 恵雲
出版者
藍野大学
雑誌
藍野学院紀要 (ISSN:09186263)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.1-16, 2009

『はじめに』「死」は宗教・哲学のみならず, 最近は生物学・医学にとっても非常に重要なテーマとなっている. 「アポトーシス」といった概念抜きには現代生物学を語ることは出来ない程である. また「死」があるからこそ, 芸術・文学・哲学といった人類の文明・文化が生まれてきたといっても差しつかえないと考えられる. 死による愛する人や家族との別れ, そして悲しみや苦しみ, 死が近づくからこそ生まれる周囲の人に対する思いやりや慈しみの心といったように人間独特の多様な心や思いは, 死の存在抜きには考えられないのではないだろうか. 人間に「死」が存在せず, 人間が「不老不死」と想像してみれば, そこには人間しか持ちえない愛や憎しみ, 苦悩や不安といった感情や思いはなく, 切迫感のないダラダラとした生活, 平板で薄っぺらな心や精神しか生まれなかったと考えられる. しかし「死」は現代社会にとって最大のタブーでもある. 現代社会は常に世界が大量生産, 大量消費を繰り返しながら, 進歩・成長していくという思想に支えられている.