著者
佐島 直子
出版者
日本ニュージーランド学会
雑誌
日本ニュージーランド学会誌
巻号頁・発行日
vol.6, pp.41-54, 1999-12-10

冷戦下、ニュージーランドは、ANZUS同盟(米国、オーストラリアとの三国間同盟)の一員として,西側の安全保障に積極的に貢献した。しかしニュージーランドでは、70年代から国民の反核意識が高まり、80年代に入ると核に対する態度の違いから、米国との同盟関係に亀裂が生じた。1985年、米海軍の核兵器塔載可能な駆逐艦「ブキャナン」の寄港をニュージーランドが拒否したことから、米国はニュージーランドへの安全保障義務を停止し、現在もなお、その関係は改善されていない。 このANZUS機器を契機として、ニュージーランド労働党政権は,より自立的、地域的な安全保障上の役割を模索した。その結果、ニュージーランドでは冷戦の終焉を待たずして、周辺各国との間に独自の安全保障ネットワークが形成された。 しかしながら、1990年に成立した国民党政権(その後一時連立政権)は、米国との関係改善を最重要外交課題として掲げ、湾岸戦争ではいち早く医療チームを派遣するなど、伝統的な安全保障上の役割への回帰を希求している。もっとも、核に対する強硬な政策は国内政治上の配慮から転換されていない。また、80年代半ばから進められた行政改革の波は国防予算をも締め付けている。軍事力の近代化が著しいアジア・太平洋地域にあって、ニュージーランド装備は老朽化が目立っている。1997年にはようやく長期的な防衛力整備計画が示されたものの、その実現には様様な障害が立ちはだかっている。かたや、冷戦後の国際社会では国際的な平和維持活動の所要は拡大する一方である。現状のニュージーランドの防衛力では、いずれ思うような貢献がままならない事態となる。 今後のニュージーランドは、安全保障上の役割を抜本的に参考する必要がある。とりわけ問題となるのは、陸海空三軍の合理的統合;オーストラリア軍との防衛力緊密化計画;周辺国との良好な安全保障関係の維持・継続;平和維持活動への参加基準、の見直しである。 こうした課題と真摯に取り組むことで、米国とも「同盟国ではないが友好国」としての新しい関係が構築されていくであろう。また、安全保障上の役割を拡大している日本との二国間関係も今後より重要になるであろう。