著者
佐川 拓也
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.116, no.2, pp.63-84, 2010 (Released:2010-10-13)
参考文献数
135
被引用文献数
8 3

近年,過去の海洋表層水温を復元する指標として,浮遊性有孔虫のMg/Ca古水温計が広く用いられている.この手法の利点は,約1℃の誤差で古水温を復元できるだけでなく,酸素同位体比と組み合わせることで,塩分の指標である海水の酸素同位体比の復元も行える点である.このように復元された水温と塩分の時系列変動から,様々な時間スケールの海洋変動が,気候システムの中で重要な役割を果たしてきたことが明らかになってきた.しかし一方で,Mg/Ca古水温計の問題点も指摘されており,特に炭酸塩の溶解が大きな影響を与えることが知られている.浮遊性有孔虫のMg/Ca古水温計の原理や問題点を理解し,その上で古海洋解析に適用することは,過去の水温や塩分を復元する手法として有用であり,気候変動に関するさらなる知見を与えるであろう.本論文では,Mg/Ca古水温計の原理を解説した上で,古海洋学研究への応用例,Mg/Ca古水温計の問題点と今後の展望についてまとめた.