著者
佐藤 洋祐 松田 律史 民谷 健太郎 増井 伸高 松田 知倫 瀧 健治 丸藤 哲
雑誌
第46回日本集中治療医学会学術集会
巻号頁・発行日
2019-02-04

【背景】我々はしばしば悪性症候群(NMS)に遭遇する。またICU-acquired weakness(ICU-AW)が知られているが、近位筋が侵され中枢神経に影響はない。今回我々はNMSに中枢神経を含む全身性の神経疾患を合併した一例を経験したので報告する。【臨床経過】60歳代男性。搬送3日前より四肢の脱力・感覚鈍麻を自覚、歩行困難・呂律障害も出現し当院搬送となった。既往症は双極性障害と脂質異常症で、内服薬は炭酸リチウム 600mg/日、クロチアゼパム 15mg/日、メコバラミン 1.5mg/日、フルニトラゼパム 2mg/日、ゾテピン 25mg/日。来院時現症:GCS E4V5M6, 瞳孔 4+/4+、RR 12/min、SpO2 98%(室内気)、HR 134bpm、BP 161/118mmHg、BT 36.8℃。頭部・胸腹部および脳神経(II-XII)に異常所見認めず、上下肢の脱力及びdermatomeに一致しない感覚鈍麻を認めた。頭部CT/MR、CXR、胸腹部CT、ECG及びUCGに特記所見は認めなかった。血液検査で軽度の白血球増多およびCRP高値を認めた。23年来のLi内服者で、血中Li濃度は低値だったが晩期リチウム中毒として入院加療を開始した。補液により感覚鈍麻は改善したが、四肢の脱力と、横隔膜の筋力低下を認めた。髄液検査では蛋白細胞解離を認めたが、原因は不詳であった。GBSやCIDPを考慮し各種検査を追加したが、オリゴクローナルバンドやGQ1b抗体、GM1抗体は陰性で、髄液HSV抗体は既感染パタンだった。血清IgG抗体は高値を示したが、IgG4は正常範囲に留まった。HIVは同意が得られず検査できなかった。第4病日に意識レベルの低下と頻脈を認め、第5病日に発熱、眼球の上転、著名な発汗をきたし、NMSを疑い診断基準を検討したが、CKの上昇や筋強剛は認めなかった。EEGでは群発波・鋭波を認めた。神経伝導速度検査で潜時の延長および振幅の低下を認め、末梢神経脱髄と判断し、最終的に振戦のないNMSと診断した。ステロイドパルス療法(mPSL 1000mg/day)を3日間施行し、意識状態および頻脈・血圧高値の改善を得た。脱力も改善した。しかし脳波異常および髄液検査異常を説明できず、精査を目的に第10病日に神経内科へ転院した。【結論】NMSに、末梢神経の脱髄性ポリニューロパチー、蛋白細胞解離および鋭波を伴う中枢神経が関与する病態の一例を経験した。ICU-AWを考慮したが横隔膜の筋力低下を伴っていた。本症例では中枢神経が侵されており、全身性疾患の一部であった可能性は否定できないが原因は不詳であった。