著者
佐野 まさき
出版者
神田外語大学
雑誌
Scientific approaches to language (ISSN:13473026)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.49-69, 2006-03-31

日本語のいわゆるとりたて詞は、文末との呼応が明白なものとそうでないものとがある。たとえば「健は酒さえ飲んだ」に見られるとりたて詞サエは一見特定の述部と呼応することを要求しない。これは「飲んだ」の部分を「欲しがった」「飲まなかった」「飲んでいた」「飲んだようだ」などあらゆる形に変えても、サエとの文法的な関係に問題が生じるということはないことからそのように見える。一方「健は酒でも飲んだようだ」に見られる例示的なデモは、「ようだ」「に違いない」などのモダリティ表現で終わることを要求し、「飲んだ」で終わることはできない。本論はしかし、このような区別は文法的には意味がなく、むしろすべてのとりたて詞がそれ自身の呼応述部、認可子を持つという立場をとる。それによりとりたて詞の文中、特に従属節内での分布制限が普遍文法の一般原理により自然に捉えられることを示唆する。