著者
田川 憲二郎
出版者
神田外語大学
雑誌
Scientific approaches to language (ISSN:13473026)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.269-288, 2008-03

英語を苦手とする日本人大学生の多くが、主語と定形一般動詞の間に本来不要な定形be動詞を挿入するという過ちを犯す。本稿では、筆者の推測の域を出ないが、その原因として彼らが中学校教科書を通じて初めて英語に接する際、定形be動詞を日本語の「は」や「が」に相当する助詞であると誤認している可能性があると考え、現行の中学校英語教科書の定形be動詞と一般動詞の導入の仕方を概観し、その解消へ向けての方策を検討する。小学校高学年からの英語の導入を3年後(2011年度)に控え、初学時の導入方法と英語力、英語の誤用との関係についての注意深い研究がなされるべきと考える。本稿は、そうした試みのケース・スタディである。
著者
井上 和子
出版者
神田外語大学
雑誌
Scientific approaches to language (ISSN:13473026)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.49-64, 2010-03

補文標識の中には、主名詞句の内容を表す補文(同格詞句と呼ぶ)を作る「という」「との」とは別に純粋に補文を導入する「と」がある。(i(c))はその例である。(i)-(a) 「昨日太平洋岸に津波があった」というニュース -(b) 「次の会合には出席する」との加藤氏のことば -(c) 議長は「明日の会議は延期する」といった。 -(d) 議長が欠席したことが問題にされた。 -(e) 地震のニュースが一部に伝わらなかった事実が明らかになった。これまでの研究では、補文を名詞化する「こと」「事実」(i(d-e))と「と」を区別するに留まり、「と」に関する詳しい研究は無かった。本論文では、「と」の統語上、意味上の特徴を検討し、これらの分布と機能を説明するのに二種類の「と」を仮定し、その根拠を示す。
著者
吉村 紀子
出版者
神田外語大学
雑誌
Scientific approaches to language (ISSN:13473026)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.195-211, 2006-03-31

本論は日本語において共通語だけでは理解できない問題を解く手がかりとして方言研究の知識を適用する試みである。考察では、主格表示の「が」と「の」について、特に「が/の」の交替に焦点を絞り、Harada(1971)の議論に熊本八代方言の事実を交流,させつつ、最近の「主語移動説」に対して「基底生成説」を再考する。この方言は大主語に「が」を、叙述主語に「の」を区別して用いるため、「が/の」の交替に新たな見解をもたらすことになる。分析から、第一に、主文は「NP-の」の「NP-が」を越える移動が許容しないのに対し、関係節は「NP-のNP-が」の語順が可能であること、第二に、関係節の主語の位置に再叙代名詞が生起できること、が明らかになる。その結果、問題の「NP-の」はDPの指定部に基底生成されたNPに属格の「の」が付与されたもので、埋め込み節の主語はゼロ代名詞のproであることを主張する。したがって、「が/の」の交替はpro-drop現象に係わる事実として捉えることができよう。このような成果を踏まえ、統語理論と方言研究との交流の必要性と重要性を強調する。
著者
内堀 朝子
出版者
神田外語大学
雑誌
Scientific approaches to language (ISSN:13473026)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.71-83, 2006-03-31

本論では,日本語における主文表現の中から,命令・祈願・感嘆表現を取上げ,それらの統語構造について,基本的な性質を検討する。これらの表現の統語構造には,(i)動詞の形態変化,(ii)モダリティを示す補文標識(iii)モダリティを表わす語彙要素,が見られるが,本論では,これらの表現のうち,「こと」「ように」という共通する形態を文末に伴うものを主に議論する。特に(i)(ii)に関しては,動詞の取りうる形態変化上imperativeと,補文標識によって示されるsubjunctiveの相違,また,(iii)に関しては,補文埋込み構造を有する構造について,考察する。具体的には,これらの表現と,主文現象としての丁寧表現との共起が許されるかどうか,また,これらにおいて,非主文現象および名詞性の指標としての「が・の」交替現象が起こるかどうかについて観察し,これらの表現の統語構造を探る手がかりとする。
著者
宮川 繁
出版者
神田外語大学
雑誌
Scientific approaches to language (ISSN:13473026)
巻号頁・発行日
no.2, pp.241-242, 2003-03-25

Weak islands are called "weak" because they don't block extraction of arguments but they do block extraction of adjuncts. (1) a. What do you wonder [whether to fix t]? b. Why do you wonder [what to fix t]? Does this mean that argument extraction is not affected at all? It is well-known that a weak island bars an interpretation otherwise available with argument extraction, that of pair-list (Longobardi 1985, Cresti 1995). (2) What do you wonder [whether everyone will buy t]? This example only has a single-pair interpretation ("I'm wondering whether everyone will buy a new coat"), Using Relativized Minimality (Rizzi 1990) as a guiding principle, and extending Aoun and Li's (1989) general approach, I will argue that the effects we can observe with weak islands are part of a general property of quantification, (3) All quantification is local, If Quantifier X c-commands Quantifier Y, Y cannot take "inverse" scope over X. A weak island is a form of quantification, because it is headed by such an element as a wh operator. It thus prohibits any scope-bearing item, either an argument or an adjunct, from taking proper scope above it. I will show that the reason why argument extraction appears to be possible is due to a covert resumptive pronoun strategy (cf. Cinque 1990, Postal 1998, Stroik 1992). I will formally characterize the locality of quantification using Beck's (1996) Quantifier-Induced Barrier (QUIB), making a subtle but crucial revision in her definition to incorporate a much wider range of data. Weak islands, as we will see, are simply a subset of QUIBs. This also explains a mystery noted by Hoji (1986) that in Japanese, an example such as the following lacks a pair-list interpretation. (4) Nani-o daremo-ga t katta no? what-ACC everyone-NOM bought Q 'What did everyone buy?' Independently, we can see that the universal quantifier in Japanese is a QUIB (cf. Hoji 1985). The lack of pair-list in this example is exactly the same as the lack of this interpretation in the English weak-island example in (2). Time permitting. I will also explore the issues that naturally arise with inverse scope in English, as in the example, "Someone loves everyone.
著者
李 榮
出版者
神田外語大学
雑誌
Scientific approaches to language (ISSN:13473026)
巻号頁・発行日
no.9, pp.279-297, 2010-03

論文本研究では、上級の日本語学習者と、日本語母語話者を対象に、日本語の説明文における文構造の複雑さが内容再生に及ぼす影響について調べた。埋め込み節で統語的複雑さのレベルを操作した複数の説明文を与え、筆記による内容再生タスクを行った。複雑さのレベルは、1文当たりの従属節を基準として3つに分けた。量的分析の結果、学習者と母語話者共に、再生率において複雑さ条件による有意差は見られなかった。しかし、再生率の低い学習者では、複雑さ条件によって質的な違いが観察された。最も複雑な条件では、一文一文の理解には成功したものの、
著者
鄭 汀
出版者
神田外語大学
雑誌
Scientific approaches to language (ISSN:13473026)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.133-148, 2010-03
被引用文献数
1

本稿は中日両言語の存在表現における「着」構文と「てある」構文の対応について影山(1996,2001,2009)の動詞の意味構造に基づき分析比較したものである。「着」構文と「てある」構文の対応関係を明らかにするためにはその動詞の意味構造を考察することが必要である。動詞の意味の体系についてはさまざまな考え方があるが、本稿では、両言語の動詞の意味を影山の<行為>→<変化>→<状態>という行為連鎖の観点から考察する。なぜなら両言語の存在表現の対応関係を同じ概念構造において比較することがその違いや共通点より明確に現れるだけでなく、その枠組みの有用性と限界を明らかにすることも可能となるからである。
著者
佐野 まさき
出版者
神田外語大学
雑誌
Scientific approaches to language (ISSN:13473026)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.49-69, 2006-03-31

日本語のいわゆるとりたて詞は、文末との呼応が明白なものとそうでないものとがある。たとえば「健は酒さえ飲んだ」に見られるとりたて詞サエは一見特定の述部と呼応することを要求しない。これは「飲んだ」の部分を「欲しがった」「飲まなかった」「飲んでいた」「飲んだようだ」などあらゆる形に変えても、サエとの文法的な関係に問題が生じるということはないことからそのように見える。一方「健は酒でも飲んだようだ」に見られる例示的なデモは、「ようだ」「に違いない」などのモダリティ表現で終わることを要求し、「飲んだ」で終わることはできない。本論はしかし、このような区別は文法的には意味がなく、むしろすべてのとりたて詞がそれ自身の呼応述部、認可子を持つという立場をとる。それによりとりたて詞の文中、特に従属節内での分布制限が普遍文法の一般原理により自然に捉えられることを示唆する。
著者
神谷 昇 長谷川 信子 町田 なほみ 長谷部 郁子
出版者
神田外語大学
雑誌
Scientific approaches to language (ISSN:13473026)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.119-145, 2009-03

本稿は、2011年から公立小学校で必修化される英語活動の一定基準を示すために作成された『英語ノート(試作版)』に現れる語彙を言語学的観点から、その特徴を考察し、それを基盤に小学校での英語活動で可能となる英語のカタチを明らかにするものである。まず、早期英語教育の分野におけるこれまでの語彙研究を概観し、早期英語教育用語彙リストを比較した上で、収録語彙の特徴をとらえる。次に『英語ノート(試作版)』の語彙のうち、児童の語彙に着目し、それらの品詞割合を分析し、先行研究との比較に加え、成人向けの語彙との比較も併せて行い、相違点を検証する。さらに、『英語ノート(試作版)』出現語彙のうち、先行研究で示された早期英語教育用語彙リストと大きく異なる割合を示した動詞に焦点を当て、その意味タイプの分類、有生物主語と無生物主語の割合について言語学的見地から考察し、その特徴をとらえ、『英語ノート(試作版)』に提示されている「英語の特徴・カタチ」を、英語の体系の観点から明らかにする。