著者
佐野 潤子
出版者
生活経済学会
雑誌
生活経済学研究 (ISSN:13417347)
巻号頁・発行日
vol.55, pp.31-44, 2022 (Released:2022-09-30)
参考文献数
26

本研究は、日本証券業協会調査部が実施した「2018年証券投資に関する全国実態調査」と題する男女へのアンケート調査をもとに、金融行動における性差をジェンダーの視点から考察したものである。本稿でいう「性差」は、その差が社会的要因に由来すると考えられる場合に用いられる言葉である。本研究では、30 歳から 65 歳までの既婚の正社員で、現役世代で収入を得ている男性 1,253 名、女性 347 名のデータを分析した。記述統計によると、女性は男性に比べて証券投資の必要性を感じないということが示唆された。しかし、男性の方がリスク回避的であり、そのために有価証券の保有額が有意に減少していることが示された。女性の平均保有証券額は、男性の平均保有証券額の約54%であった。一方、年収に対する有価証券の比率、個人名義の金融資産に対する有価証券の比率では、男女間に有意な差は見られなかった。この結果は、正規雇用の女性は、投資行動が男性に比して消極的とは言えない。パス分析の結果、男女とも有価証券の保有額を増加させる要因は、自分名義の金融資産の保有額であることがわかった。つまり、自分の資産を形成するための知識が重要であることがわかる。したがって、女性が働き続ければ、年収や自分名義の金融資産額が増える一方で、女性の投資行動も活発化することになる。
著者
佐野 潤子
出版者
生活経済学会
雑誌
生活経済学研究 (ISSN:13417347)
巻号頁・発行日
vol.57, pp.61-81, 2023 (Released:2023-09-30)
参考文献数
28

本研究では、ジェンダーギャップ指数が世界3位と高いノルウェーの夫婦(カップル)の金融資産状況を比較することで、現役世代の夫婦の金融資産額の差の要因にジェンダー意識(性別役割分業意識)が関わっているかを検討した。 ノルウェーでは、夫婦の金融資産額の差は、夫と妻の年収の差に比例していたが、日本は、特に妻の就業形態がパートタイムと専業主婦の場合において、夫婦の年収の差と比較して、夫婦の金融資産額の差が小さくなっていた。 日本における夫婦の金融資産額の差は、妻年齢が高いほど大きくなり、妻年収と妻家計意思決定度が高いほど小さくなっていた。日本では、家計の意思決定権が収入の多寡ではなく、ジェンダー意識(性別役割分業意識)によって支配されていた。すなわち、日本ではノルウェーと比較して、夫の収入は夫のものではなく、家族のものだとする回答が多かった。生活費、貯蓄プラン、資産運用に関しては、ノルウェーでは、夫婦二人で決めているという回答が半数を占めるのに対して、日本では、夫婦二人で決めているという回答が1/4程度と少なく、生活費や貯蓄プランは妻が決めているという回答が過半数を占めていた。 有償、無償の貢献がともに資産保有に反映される仕組みは、夫名義と妻名義の金融資産額の格差の是正にはつながっており、一見不平等を感じさせないが、夫婦の金融資産額を合わせた世帯の豊かさにはつながらない。世界有数の長寿社会で生き抜くには、ノルウェーのように夫と妻のそれぞれの資産形成をすすめ世帯金融資産額を高めることが必要である。