著者
野嶋 素子 中山 裕子 小川 幸恵 保地 真紀子 和泉 智博
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0293, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】腰椎疾患においてL4/5とL5/S椎間は障害が多い部位である。L5神経根は前脛骨筋,中殿筋を優位に支配し,これまでに下垂足に伴い股関節外転筋力は低下し,歩行に影響することが報告されている。一方でS1神経根は下腿三頭筋,大殿筋を優位に支配しているが,S1神経根障害における臨床像と歩行能力の報告は少ない。本研究の目的はL5,S1神経根障害における筋力低下・感覚障害および歩行について調査することである。【方法】対象は2011.4~16.9に,L4/5またはL5/Sの単椎間ヘルニアで,内視鏡を含むヘルニア摘出術を施行したL4/5椎間板ヘルニア59名(以下L4/5群),男性43名,女性16名,平均46.9±14.4歳と,L5/S椎間板ヘルニア49名(L5/S群),男性31名,女性18名,平均40.0±11.7歳である。検討項目は,術前の前脛骨筋(以下TA),中殿筋(GME),ハムストリングス(HA),腓骨筋(PE),下腿三頭筋(TS),大殿筋(GMA)のMMT,感覚障害の有無とその部位,歩行速度,Timed Up and Go Test(以下TUG)であり,カルテより後ろ向きに調査した。またMMT3以下を筋力低下とし,L4/5群の筋力低下がある26名(以下L4/5-P群),男性19名,女性7名と,低下がない33名(L4/5-N群),男性24名,女性9名,L5/S群の筋力低下がある29名(L5/S-P群),男性18名,女性11名と低下がない20名(L5/S-N群),男性13名,女性7名に分類し,歩行に関する項目について比較した。統計解析はt検定を用い,有意水準は5%とした。【結果】L4/5群の筋力低下の割合は重複を含め,TA12名(20%),GME10名(17%),HA2名(3%),PE5名(8%),TS15名(25%),GMA5名(8%)であった。TAに筋力低下を認めた12名中5名(42%)にGMEの低下が見られ,4名は同時にTSが低下し,更に2名はGMAも低下していた。感覚障害はL5領域29名(49%),S1領域14名(24%)に,両領域12名(20%)に認めた。L5/S群の筋力低下は,TA6名(12%),GME9名(18%),HA7名(14%),PE3名(6%),TS22名(45%),GMA12名(24%)であり,TSに低下を認めた22名中12名(55%)にGMAの低下が見られ,そのうち3名はGMEに,更に2名はTAも低下していた。感覚障害はL5領域23名(47%),S1領域27名(55%),両領域17名(35%)に認めた。歩行速度はL4/5-P群1.4±0.4 m/s,L4/5-N群1.5±0.4m/s,TUGは10.6±2.9秒,9.7±2.6秒であり両群に差を認めず,L5/S-P群とL5/S-N群は,歩行速度が1.3±0.4m/s,1.5±0.4m/s,TUGは12.4±4.9秒,9.7±2.0秒であり,両群間に有意差を認めた。【結論】L4/5群ではTAの筋力低下に伴いGMEが低下,L5/S群もTSと同時にGMAが低下している症例が見られ,L4/5群では更にTS,L5/S群ではGMEの低下も一部認めた。感覚障害についても混在例が存在していた。これらは神経支配のオーバーラップによる障害の影響等が考えられるが明らかではない。L5/S-P群は,L5/S-N群に比べ歩行能力の低下を認めた。S1神経根障害による筋力低下は歩行障害を生じやすいため詳細な理学療法評価が重要である。