著者
米元 佑太 京極 真
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1752, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】理学療法には多様な専門領域のあり方や関係を基礎付ける学問的基盤となる機能をもつメタ理論がない。その弊害は,理論や方法を選択するための基準が不明瞭となり,「どのような理学療法がよい理学療法か」という問いに答えうる価値判断の基準が存在しない点にある。本論の目的はこの問題を解消する理学療法のメタ理論を構築することであった。【方法】本論では,メタ理論工学を用いた理論研究を行った。理論構築の方針は,異なる立場からも了解可能な原理になるように論証することであった。その方針のもと,①全ての理学療法に共通する理路の整備,②理学(physical)=身体の原理的基礎付け,③それらに立脚した介入プロセスの提示を行った。【結果】①全ての理学療法に共通する理路原理的に考えると,実践とは「ある状況と目的のもとで確率的に遂行される」といえる。これを「実践の原理」とよぶ。状況や目的と全く関係ない理学療法や,実践し終える前から事後の状態を確定できる理学療法はないことから,理学療法は例外なく実践であるといえる。そのため,実践の原理は全ての理学療法に共通する理路であるといえる。②身体の原理的基礎付け哲学史を通覧すると,本論と同型の目的をもつ理路に現象学的身体論がある。主な論者であるフッサール,ハイデガー,メルロ=ポンティらの最も原理的な理路を抽出すると,身体とは主観と客観が同時に成立する場であり,人間の存在可能性の根拠であり,世界と人間を繋ぐ媒体として働き,情状性=気分と相関的に構成される対象でもある,と再構成できる。これを踏まえ,本論では「身体は超越論的主観性において気分相関的に構成された媒体であり,それは世界と主体を繋ぐものであると同時に,可能性を担保しつつ制約する構造である」という「身体の原理」を定式化した。③介入プロセスの提示①と②をふまえると,理学療法は主体の可能性を確保することを目的として実施されるといえる。したがって,理学療法は「何らかの状況で,対象の可能性の確保を目的として,身体に介入することであり,その有用性は事後的に決まる」と定式化できる。これを臨床に落とし込むと,1.身体の原理に基づく評価,2.対象の可能性の確保に向けた行動計画立案,3.理学療法介入の実践,4.有用性の検討の4ステップで表現できる。①~③で構成されるメタ理論を「原理に基づく理学療法(Principle Based Physical Therapy:PBPT)」と命名した。PBPTの価値判断の基準は「対象の可能性の確保」であり,それに寄与しているかどうかで理学療法の成否を判断できる。【結論】立場が異なっても了解できる理路を構築することによって,あらゆる理学療法を基礎付けるメタ理論を開発できた。良い理学療法とは何かという問いに対して,PBPTは目的を達成できる理学療法が良い理学療法であると答えることができる。
著者
山口 剛司 高崎 恭輔 鈴木 俊明
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A3O2045, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】足部不安定性に対する運動療法は、閉鎖性運動連鎖でのエクササイズが有用であると考える。なぜなら実際の動作と類似した肢位でのエクササイズは、安定した動作を遂行するための機能的な筋活動を獲得できるからである。我々は第44回本学会において、片脚立位での一側下肢の運動課題時に生じる支持脚足部内のCOP変化と足部周囲筋群、膝屈筋群の筋活動について報告した。その結果、運動課題に伴うCOP移動は一定の傾向を示し、COP移動方向と筋活動には、次のような傾向を認めた。足部周囲筋群では、COP移動方向により腓骨筋と後脛骨筋の筋活動が明確に切り換る場合や同時活動する場合を認め、膝屈筋群ではCOP移動方向により大腿二頭筋と半膜様筋は明確に切り換る場合を認めた。この結果から膝屈筋群は、主に膝関節の回旋運動の制御に機能することが考えられた。しかしながら一般的には膝伸筋群が、膝関節の安定性に関与すると考えられるため、同運動課題における膝伸筋群の機能を把握する必要があると考えられた。そこで今回は、同運動課題でのCOPと足部周囲筋群、膝屈筋群に加え、膝伸筋群の筋電図評価を実施したので報告する。【方法】対象は、整形外科的・神経学的に問題のない男女7名(平均年齢29.7±3.7歳)の支持脚7肢とした。方法は、被験者に重心計のプレート上で片脚立位をとらせ、非支持脚下肢での運動課題を行わせた時の支持脚の筋電図ならびにCOPを記録した。支持脚は、股関節・膝関節を各々30゜屈曲位と規定した。筋電図では、支持脚の腓骨筋、後脛骨筋、半膜様筋、大腿二頭筋、内側広筋、外側広筋の筋活動を記録した。運動課題の開始肢位は、立位の状態から非利き足側(以下、運動側)下肢の足底が接地しないよう前方で空間保持した状態とした。運動課題は、開始肢位より運動側股関節を内転する課題を内側運動、外転する運動を外側運動とした。なお下肢の運動と筋電図記録、COP記録を同期するためにフットスイッチを運動側の母趾と小趾に配置し、内側運動、外側運動の両端に台を設置してスイッチと接触させた。運動課題の施行は開始肢位より内側運動から行い、外側・内側の3回の運動を1施行として、各被検者で3施行測定した。分析方法は、運動課題中のCOP軌跡の時間的変化とそれに伴う導出筋の筋活動パターンを分析した。【説明と同意】各被験者には本研究目的と内容について十分に説明を行い、同意を得た後に測定を実施した。【結果】 運動課題時のCOPは、内側運動課題中は小趾側方向へ移動し、外側運動課題中は母趾側方向へ移動した。一方筋電図では、次のような傾向を認めた。まず足部周囲筋群では、COPの移動方向により腓骨筋と後脛骨筋の筋活動が明確に切り換る場合や、後脛骨筋が持続的に活動する場合が見られた。具体的には、COPの小趾側移動中には後脛骨筋が活動し、母趾側移動中には腓骨筋の活動を認めた。次に膝屈筋群は、COPの小趾側移動中には半膜様筋が活動し、母趾側移動中には大腿二頭筋の活動を認め、COPの移動方向により両筋の明確な切り換りを認めた。膝伸筋群では、外側広筋がCOPの移動方向に関わらず持続的な活動を認め、内側広筋はCOPが母趾側移動中に活動する傾向を認めた。【考察】本運動課題中の足部周囲筋群では、先行研究と同様に腓骨筋と後脛骨筋の活動が切り換ることによりCOPの移動を円滑にすると考えられる。この中でも後脛骨筋が持続的な活動を認める場合は、課題中にCOPの移動が不安定な場合に生じる傾向が見られた。この時後脛骨筋は、足部内側の剛性を形成し足部安定化作用を担うため、運動課題時の足部不安定性を補償する目的で持続的に活動したと考えられる。次に膝伸筋群では内側広筋がCOP母趾側移動中に活動を認めた。COP母趾側移動中は、下肢では股関節屈曲位での軽度内転、膝関節屈曲位での外反外旋運動が観察される。このアラインメントでは膝外反外旋運動により、膝蓋骨は外方へ移動する力が生じる。この時内側広筋は、外側広筋との同時活動により膝蓋骨の外方移動を制動すると考えられる。内側広筋は、この膝蓋骨の外方移動を制動し、膝蓋骨を介して間接的に膝外反外旋運動を制動するのに最も効率の良い筋走行であると考える。そのためCOP母趾側移動中には、内側広筋が活動したと考えられる。【理学療法学研究としての意義】 足部不安定性に対する運動療法は、閉鎖性運動連鎖でのエクササイズが有用であると考える。本運動課題では、安定した姿勢を保持し、支持脚のCOPが円滑に移動するには、足部周囲筋群に加え膝周囲筋群の筋活動により下肢アラインメントを制御することが必要となる。また本運動課題はサイドステップやクロスオーバーステップ動作の肢位と類似することから、これら動作練習の前段階のエクササイズとして有用であると考える。
著者
生友 聖子 島野 幸枝 松田 史代 池田 恵子 川﨑 一弘 宮崎 雅司 山﨑 芳樹 吉田 義弘 坂江 清弘 森本 典夫
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A0545, 2007 (Released:2007-05-09)

【はじめに】 スポーツの各場面において選手は刻々と変化する状況を瞬間的に判断しながら体を動かす。このスポーツに重要な『視る能力』とスポーツの関係を、統合的に研究する学問をSports Vision(以下SV)という。先行研究では、男性のSVは女性よりも全体的に優れているとの報告がある。しかし、これは対象が不特定多数の競技者であり、特定競技の同等競技力レベルの男女を対象とした報告はない。今回、全国でもトップレベルの実力を有する高校男女サッカー部員のSVを調査し、同一種目競技者間の男女差について比較・検討を行なった。【方法】 対象は、K県内の高校サッカー部に所属する経験年数3年以上の男子31名(経験年数:10.45±1.84)、女子24名(経験年数:8.38±2.67)である。測定項目は、スポーツビジョン研究会の報告に準じて、静止視力、縦方向の動体視力であるKVA動体視力、横方向の動体視力であるDVA動体視力、眼球運動、深視力、瞬間視、眼と手の協応運動の7項目とし、特にDVA動体視力は右回転と左回転、深視力は指標が近づく場合と離れる場合に分けて測定した。また、測定は競技を行う際の眼の状態(裸眼、コンタクト、眼鏡)で行った。統計手法は、対応のないt検定(p<0.05)を用いた。【結果】 DVA動体視力は右回転・左回転共に男性群が女性群と比較し有意に優れていた。また、指標が近づく場合の深視力と眼と手の協応動作で男性群が女性群に比較し優位である傾向にあった。一方、眼球運動では女性群が男性群に比較し有意に優れており、指標が離れる場合の深視力と瞬間視で女性群が男性群に比較し優位である傾向にあった。【考察】 今回、高校生サッカー部員の男女間比較では、DVA動体視力、眼球運動において両群間に有意差がみられた。先行研究においては、視機能は全体的に男性が優れているとされ、今回の研究でも、特にDVA動体視力において有意に男性が女性より優れていた。同等競技年数でトップレベルの選手間においても、先行研究と同様に男女差が見られたことから、これは運動習慣の差異ではなく生得的な原因によるものではないかと考えられる。また、眼球運動に関しては女性が有意に男性より優れており、先行研究と異なる結果が得られた。このことから、女性は跳動的に動く像を正確に目で追う能力は男性よりも優れているが、動いている像がどのようなものかを識別する能力は男性より劣っている可能性が示唆された。今後、男女間のみならず、種々の競技間での比較・検討なども行い、スポーツビジョンの分野をさらに追求していきたい。
著者
森田 恵美子 青山 宏樹 梶本 浩之
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.FcOF1111, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】重症筋無力症(以下、MG)患者にとって、気候や入浴等による外気温の変化は、筋出力低下を引き起こす一要因であるものの、このような症状は一般的には知られていない。MGの簡易的な診断方法としてアイステストがある。これは閉眼した眼瞼の上に、袋に入れた氷を2分間置き、眼瞼下垂が2mm以上改善すれば陽性と判別する方法である。今回はこのアイステストをヒントに、寒冷刺激によってMG患者の疲労度が軽減するという仮説を立て、反復誘発筋電図テスト(Harvey-Masland test)を用いて漸減(waning)現象に着目し検証したので報告する。【方法】対象者は12年前にMGを発症し胸腺全摘出を施行した女性(年齢42歳)1名である。Osseman分類II-A、抗AchR抗体2200nmol/L、症状として日内変動による眼瞼下垂、複視、全身脱力感はあるが、就労を含む日常生活に支障はない状態である。今回の実験はHarvey-Masland testのプロトコールに従って実施した。はじめに、尺側手根屈筋に対して筋疲労を生じさせるため、誘発電位・筋電図検査装置(Nicolet社製Viking Quest S403)を用いて、尺骨神経に最大上刺激(10.2mV)にて周波数50Hzの頻度で電気刺激を5秒間与えた。2分間の休息を入れた後、3Hzおよび1Hzにて尺骨神経を肘関節部内側上顆の直下から刺激し、尺側手根屈筋の表面筋電図を導出した。実験条件は、反復神経刺激を与える前に氷嚢で尺側手根屈筋筋腹を20分間冷却した寒冷刺激および介入なしの2条件とした。また尺側手根屈筋筋腹部の表在温度も測定した。各条件において計測は7回実施し、導出された筋電図の初発に対する5発目の振幅の割合を算出し、平均漸減率を求めた。一元配置分散分析および多重比較にて統計学的検討を行った。【説明と同意】対象者に対して、ヘルシンキ宣言に従い事前に本研究の主旨を説明し、実験に参加する同意を得た。【結果】電気刺激によって誘発された筋電図の漸減率を比較したところ、介入なしの1Hzでは漸減率が92.8%、3Hzでは76.8%であった。寒冷刺激の漸減率は1Hzで99.2%、3Hzでは102.8%であった。介入なしでは1Hzに比べ3Hzの電気刺激の方が有意(P<0.01)に漸減率が高かった。3Hzの反復刺激においては、介入なしに比べ寒冷刺激の方が漸減率が有意(P<0.01)に低かった。また、介入なしの1Hzに比べ寒冷刺激の3Hzの方が漸減率が有意(P<0.01)に低かった。尺側手根屈筋筋腹部の表在温度は介入なしで31.2±0.4度、寒冷刺激で23.6±0.8度であり、両者で有意差が認められた(P<0.05)。【考察】今回の実験では、介入なしの条件下での1Hzの刺激では活動電位の漸減は見られなかったものの、3Hzの刺激では76.8%の漸減が認められwaning現象が確認された。Waning 現象とは、5Hz以下の刺激下で5発目の活動電位の振幅が初発の振幅の90%以下になる現象を示すが、Harvey-Maslandによると、健常者およびMGでは1Hzの刺激を与えても筋活動電位の振幅には減衰は起こりにくく、3Hzの刺激では健常者では減衰は全く起こらないか、せいぜい7%以下である一方、MG患者では顕著に出現するとしている。今回は、このHarvey-Maslandのテストのプロトコールに沿って実施したことで、介入なしでの3Hzの刺激のみにwaning現象が出現したと考えられ、今回の対象者がMG特有の波形を示すことが確認された。この対象者に寒冷刺激の条件下で3Hzの反復電気刺激を与えたところ、漸減率は102.8%でありwaning現象は認められなかった。この結果は寒冷刺激によって表在温度が23.6度まで下がったことで、アセチルコリン分解酵素であるコリンエステラーゼの作用が介入なしよりも抑制されたことが一要因ではないかと考える。以上のことより今回の実験では、MG患者に対しての寒冷刺激が神経筋接合部での疲労および筋出力低下を軽減させる一助となることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】現在MG患者の運動療法においては、疲労回避のための低負荷・高頻度の運動が推奨されている。しかし、MG患者が外気温もしくは自身の表在温度を配慮し運動を行った報告はほとんど見当たらない。寒冷刺激が実際のパフォーマンス後の筋出力低下、疲労度を軽減することが可能であれば、運動実施前の寒冷療法が有効な手段となりうるのではないかと考える。
著者
平良 眞也 目島 直人 神山 寛之
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A3P2073, 2009 (Released:2009-04-25)

【目的】日々の臨床の中で、姿勢を変える事で様々な変化が出てくる事はセラピストなら誰でも経験する事である.担当の患者で野球を趣味に持つ方の治療をしている際に、打撃姿勢を変え、頚部の筋緊張の調整を行った際に、『ボールが見やすくなった』とのコメントが聞かれた.そこで今回、後頭下筋群の筋緊張を変化させた時に衝動性眼球運動にどのような影響があるのか、関連性を調べたので以下に報告する.【方法】今回の研究の意図をしっかり説明した上で了承を得た、身体に問題のない健常成人9名.左右の目を片目ずつ、眼球運動幅を計測する.計測方法は、まず壁にテープメジャーを横にして貼り付け、被検者の目線の高さに合わせて設定する.そして被検者の目と壁の距離を30cmに設定し、端坐位をとらせる.計測は被検者には左目を押さえてもらい、頭部を動かさないように注意してもらう.その時、目の前の数字を基準に、テープメジャー上の目盛の数字がはっきり見える所までを答えてもらい、基準からの距離を計測した.これを耳側方向、鼻側方向の距離を計測し、左目も同様に計測した.そして被検者の眼球運動を左右方向で行い、その時に左右どの方向に動かし易いかを聴取し、後頭下筋群の筋収縮の強弱を徒手にて左右差を確認した.そして筋収縮の左右差と眼球運動幅、眼球の動かし易さと眼球運動幅の関連を調べた.また、後頭下筋群の筋緊張を左右ほぼ同等となるよう坐位姿勢を変化させ、眼球運動幅の変化をアプローチ前と同様に計測、比較した.【結果】(眼球の動かし易さと眼球運動幅)左右へ眼球運動を行なってもらい比較した結果、9例中7例、眼球運動幅が大きい側と反対方向に眼球の動かしやすさを訴えた.(後頭下筋群の筋収縮の左右差と眼球運動幅)9例中7例が、左右の眼球運動で眼球運動幅が大きかった目の側と反対側後頭下筋群の筋緊張が高かった. (アプローチ前後の眼球運動幅)アプローチ後、被検者9例中8例が眼球運動幅が増大した.殆どの被検者において動かし易さが変化したと訴えた.【考察】スポーツでは動体視力が必要となる.その中で衝動性眼球運動に焦点を当てた.当初、眼球運動幅が大きい側の目の方向に動かし易いと考えていたが、反対の結果となった.これは眼球を動かしにくい側の眼球運動を動かし易い側で代償しているのではないかと考える.そして後頭下筋群の筋収縮の差も、努力性筋収縮を引き起こしていたのではないかと考える.また、坐位姿勢を変化させ、頭頚部の筋緊張を変化させた事で眼球運動幅の増大が起こった理由として、衝動性眼球運動及び頚部運動の両方を駆動するものが運動前野にある事、運動前野の腹側部位が刺激を受けると、衝動性眼球運動を活性化する事から、後頭下筋群の筋緊張の調整をする事で眼球運動が活性化し、眼球運動幅も増大したものと考える.【まとめ】衝動性眼球運動と後頭下筋群の筋緊張には関連があると考えられる.
著者
高村 優作 大松 聡子 今西 麻帆 田中 幸平 万治 淳史 生野 公貴 加辺 憲人 富永 孝紀 阿部 浩明 森岡 周 河島 則天
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0985, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】近年の研究成果の蓄積により,脳卒中後に生じる半側空間無視(Unilateral spatial neglect,以下,USN)の病態が,視覚情報処理プロセスにおける受動的注意の停滞を基盤として生じていることが明らかにされてきた。BIT行動性無視検査(Behavioral inattention test,以下,BIT)は,包括的かつ詳細な無視症状の把握が可能である一方で,能動的注意による課題実施の配分が多く,上記の受動的注意の要素を把握・評価することに困難がある。本研究では,PCディスプレイ上に配置されたオブジェクトを,①能動的(任意順序の選択),②受動的(点滅による反応選択)に選択する課題を作成し,双方の成績の対比的評価から無視症状の特徴を捉えるとともに,受動課題における選択反応時間の空間分布特性から無視症状と注意障害の関連性を捉える新たな評価方法の考案を試みた。【方法】発症後180日以内の右半球損傷患者66名を対象とし,BIT通常検査のカットオフ値(131点)を基準にUSN群(n=32),USNのない右半球損傷RHD群(n=34)の2群に分類した。対象者はPCディスプレイ上に配置した縦7×横5行,計35個のオブジェクトに右示指にてタッチし選択する課題を実施した。能動的選択課題として,任意順序によるオブジェクト選択を実施し,非選択数(count of miss-selection:cMS)を能動的注意機能の評価変数として用いた。受動的選択課題として,ランダムな順序で点滅するオブジェクトに対する選択反応時間(RT)を計測し,平均反応時間(RTmean)と左右比(L/Rratio)を,それぞれ全般的注意機能および受動的注意機能の評価変数として用いた。【結果】cMSおよびL/RratioはRHD群と比較してUSN群で有意に高値を示した。一方で,両変数間には相関関係は認められず,USN群における両変数の分布特性をみると,①cMSが少ないにも関わらずL/Rratioが大きい症例,②cMSが多いにも関わらずL/Rratioが小さい症例などが特徴的に分布していることが明らかとなった。①に該当する症例は,代償戦略により能動探索が可能であるが,受動課題では無視の残存が明確となるケースと考えられる。また,RHD群にはBIT通常検査のカットオフ値を上回るものの,無視症状が残存している症例が複数含まれているが,これら症例群は,上記①と同様にcMSは他のRHD群と同様に少ない一方で,L/Rratioが大きい傾向を認めた。②に該当する症例ではcMSの増加に加えてRTmeanの遅延を認め,無視症状に加えて全般性注意障害の影響が随伴しているものと考えられた。【結論】今回考案した評価方法では,能動的/受動的選択課題の対比的評価から,無視症状の特性把握が可能であり,加えて受動課題で得られる反応時間の空間分布の結果から,全般性注意機能と無視症状の関係性を捉えることが可能性であった。
著者
石田 修平
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Df0861, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに、目的】 癌患者に対しては早期からの介入により、その後予測される身体機能の低下に対して、環境作りや身体機能維持を目的としたアプローチが必要とされている。また、患者とのコミュニケーションを検討することによって、主体性をもたせることはtotal painの緩和に対して重要な点でもある。この度、終末期癌患者を担当し、息子の結婚式への出席に向けた介入を行う機会を得たため、ここに報告する。【症例】 (症例紹介)症例は70歳代女性。夫と同居。診断名は胃癌で、肝蔵、リンパ節、骨への転移が認められている。 (臨床像、評価)日中は臥位で過ごすことが多い。ADLは、最大介助レベルであり、安静時、運動時ともに腰部痛がある。疼痛の程度は安静時にNRS3、運動時にNRS7となる。このため、座位保持時間は背もたれの有無に関わらず5分程度である。 結婚式は、症例の予後が長くはないために、計画されたものである。介入当初は出席への意欲的な発言も聞かれたが、腰部痛の増強によりADLの低下が現れてくる頃には、自身の体調を気にすることが苦痛となり、“行っても疲れるだけ”、“行かなくて良いなら行きたくない”などの消極的な発言が多くなった。しかし、その反面、自身のために計画された式のため、行かなければならないという思いも強い。 (実際のプログラム)症例も夫も、身体機能向上に向けた理学療法よりも、緩和的な理学療法を希望された。そのため、体調に応じての座位訓練や、マッサージ、ストレッチ、精神的ストレスを軽減させる・主体性を高めるためのコミュニケーションなどを主に実施した。【説明と同意】 今回の発表にあたり、症例本人やご家族に発表の主旨、内容、プライバシーの保護等についての説明を行い、同意を得た。【経過】 理学療法は入院直後から、介入を開始した。介入当初は身体機能の維持、改善を目的に車いす座位練習や起立練習などを実施していた。しかし、骨転移の影響による腰部痛が徐々に増強してきたことや、症例や夫から身体機能向上を目標とした積極的な訓練よりも、緩和的介入に対する希望があったこともあり、体調に合わせて座位練習やマッサージ、ストレッチ、コミュニケーションを行うに至った。 身体機能の低下に伴って、徐々にADL能力の低下も認められるようになり、座位保持可能な時間も減少してきた。結婚式では、30分程度の座位をとる必要があったが、結婚式に対して意欲的な発言も減少してきたため、座位時間確保に向けた訓練も実施しにくい状況であった。このような中でも、身体的・精神的な苦痛を取り除くためのマッサージやコミュニケーションでの介入を継続して行っていった。最終的に結婚式は周囲の協力もあり、ストレッチャーにて出席された。出席後には“行ってよかった”“皆さんが優しくしてくれた”等の発言が聞かれた。【考察】 結婚式の出席に消極的であった症例からも、“行ってよかった”との発言が聞かれ、症例や夫の思いを尊重しながらの結婚式に向けた介入は実施できたと考えられる。内山らは、終末期の癌患者はADL向上よりもQOL向上を目的とするため、「残された時間を患者がどのように過ごすことを望むか」ということが重要になると述べている。このことからも、この度の介入は妥当なものであったと言えるのではないだろうか。しかしその一方で、身体機能の低下は顕著に認められた。終末期において身体機能低下に伴うADL低下は不可避ではあるが、積極的な訓練を行っていくことで、機能低下を緩徐なものとできていたかもしれない。また、結婚式という目標がある以上は、緩和的介入を実施しながらも、座位耐久性や実施可能な運動、疼痛を緩和できる方法などを正確に把握しておくことは必要であったと考えられる。 今回、治療的介入と緩和的介入をどのように組み合わせ関わっていくことが必要かという点に最も苦慮した。寄本らは、リハビリ専門職による緩和ケアとは、どのような場合であっても、リハビリ介入を通して、患者がモチベーションを高め、「積極的に今を生きる事」を支援することであると述べている。このことを踏まえると、今回のコミュニケーションを含めた理学療法の介入は、症例の結婚式出席への意欲を少なからず保つことができたため、適切な介入の1つの形であったのではないかと考えられる。【理学療法研究としての意義】 身体機能面を把握することだけでなく、患者の苦痛も理解し、理学療法を通じて希望や思いを支えていくことの重要性が示唆された。
著者
神尾 博代 中俣 修 古川 順光 信太 奈美 来間 弘展 金子 誠喜 柳澤 健
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A1243, 2007 (Released:2007-05-09)

【目的】転倒の危険が少なく、より安定した立ち上がり動作を獲得することは重要である。片麻痺患者の場合、麻痺側を前方に位置した立ち上がり動作を日常生活活動として指導することが多い。そこで、足部位置を変化させることによって、その動作を遂行するためにどの程度の下肢関節モーメントが必要とされるのか把握することが必要であると考えられる。本研究では、足部を平行位にした場合と前後に置いた場合の立ち上がり動作を比較し、下肢関節モーメントについて分析することを目的にした。【方法】対象は健常成人11名(男性7名、女性4名)とした。ヘルシンキ宣言に基づいて、被験者に実験の目的・危険性等を説明し書面にて承諾を得た。立ち上がり動作の計測には、三次元動作解析装置VICON370(Oxford Metrics社製)および床反力計(kistler社製)を用いた。背もたれのない座面高を下腿長の高さとする、椅子からの立ち上がり動作を課題とした。このとき、上肢は体側に自然下垂位とし、スピードは被験者の最も楽に立ち上がれる速さとした。また、足部位置は肩幅の広さとし、一側足部を前方に置いた右前型、左前型、平行位に置いた揃え型の3種類とした。各試行とも3回ずつ行った。この時の下肢の股関節・膝関節の伸展モーメントの最大値をもとめ、各試行間での比較検討を行った。統計解析は分散分析および多重比較を行った。有意水準は5%未満とした。【結果および考察】揃え型、右前型、左前型における股関節・膝関節の最大伸展モーメントの平均値(SD)は、左股関節では揃え型が74.5(16.0)Nm、右前型が107.7(22.7)Nm、左前型が79.9(29.5)Nmであった。右股関節では揃え型が69.1(17.7)Nm、右前型が77.3(25.8)Nm、左前型が93.6(20.1)Nmであった。左膝関節では、揃え型が57.1(11.9)Nm、右前型が83.4(15.6)Nm、左前型が7.7(8.0)Nmであった。右膝関節では揃え型が63.1(18.0)Nm、右前型が11.1(10.1)Nm、左前型が91.8(22.6)Nmであった。一側下肢を前方に出すことで前方側の膝関節モ-メントは有意に小さくなった。しかし、前方側の股関節伸展モーメントは揃え型と比べてほとんど変化が見られず、後方側の股関節・膝関節モーメントは揃え型よりも有意に大きなモーメントを必要とすることがわかった。臨床場面で、麻痺側下肢を前方に出した位置での立ち上がり動作を指導する場面があるが、これらの結果から非麻痺側である後方側の股関節・膝関節伸展モーメントが十分に発揮できないと立ち上がることが困難になると考えられる。今後、片麻痺患者について検討することで確認を行いたいと考える。なお、本研究は本学の研究倫理審査委員会の承認を受けて実施した。
著者
田中 幸平 高村 優作 大松 聡子 藤井 慎太郎 生野 公貴 万治 淳史 阿部 浩明 森岡 周 河島 則天
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1130, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】半側空間無視(USN:Unilateral Spacing Neglect)は,右半球損傷後に後発する高次脳機能障害の一つであり,病巣半球と反対側の刺激に対して,反応/回答したり,その方向に注意を向けることに停滞が生じる病態である。高村らは最近,半側空間無視症状の回復過程において,病識の向上に伴う左空間への意図的な視線偏向が生じること,その行動的特徴は前頭機能の過剰動員によって裏付けられることを明らかにしている。本研究では,こうした半側空間無視症例の選択注視特性について,無視症状のない右半球損傷群,さらに脳損傷のない健常群との比較を行い,高次脳機能障害の評価を行う際の参照値を得ることを目的とした。【方法】脳損傷のない健常群(53名,55.5±19.3歳)と右半球損傷患者(40名,発症後69.0±133.4日)を対象とした。右半球損傷患者は,BIT行動性無視検査の得点とCatharine bergego scaleの客観得点と主観得点の差を基に,BITがカットオフ値以下をUSN++群(n=16,70.4±19.0歳),BITが131点以上だが日常生活上で無視症状を認めるもしくはCBSの差が1点以上であるUSN+群(n=12,62.7±11.2歳)と無視症状を認めないRight Hemisphere Disease:RHD群(n=12,64.9±6.7歳)に分類した。対象者は視線計測装置内蔵のPCモニタ(Tobii TX60)の前に座位姿勢を取り,モニター上に水平方向に配置された5つの正円オブジェクトを視線(眼球運動)で追跡・注視する選択反応課題を実施した。注視対象はオブジェクトの色彩変化(黒から赤)を点滅で呈示し,呈示前500ms前にビープ音を鳴らすことで注意レベルの安定化を図った。注視対象の呈示時間は2000msとし,呈示後1500msの安静状態とビープ音後500msを設けた。左右方向への視線推移データから各群におけるビープ音~注視対象呈示前500ms間の視線配分(視線偏向)を算出した。視線配分の算出値は水平面上0~1で表し,PCディスプレイ上の最も左を0とした。【結果】健常群の視線配分はほぼ中心にあり,加齢的影響はみられなかった(r=-0.191)。USN++群では全体的に視線が右偏向を呈していたが,中には左偏向を示す症例が散見された。USN+群ではUSN++群よりも右偏向の程度が減少し,高村の報告と同様に,左偏向を示すものが散見された。RHD群は明らかな左右の視線偏向を認めず,健常群と同様の視線配分になっていた。【結論】半側空間無視症例の中には,課題実施時に明らかな右視線偏向を示す症例と,反対に左視線偏向を示す症例が存在した。無視空間である左空間に視線偏向を示す症例は,高村らの先行研究と同様に空間無視に対する選択的注意(代償)を向けていることを示していると考えられる。また,健常群の結果から視線配分には加齢的影響はなく,RHD群も同様の傾向を示していることから,健常群の結果を参考値とし右半球損傷患者の空間無視に対する介入を進めていくことが可能と考えられる。
著者
田篭 慶一 中川 法一 生友 尚志 三浦 なみ香 住谷 精洋 都留 貴志 西川 明子 阪本 良太 堀江 淳 増原 建作
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Cb1131, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに、目的】 変形性股関節症患者の多くはDuchenne跛行のような前額面上での体幹の姿勢異常を呈する.この原因については,外転筋力や可動性の低下など股関節機能の問題によるものと考えられてきた.しかし,長期にわたり同じ跛行を繰り返すことにより,股関節のみならず体幹にも問題が生じている可能性がある.本研究では,末期股関節症患者における体幹機能障害を明らかにするため,端坐位での側方傾斜刺激に対する体幹の姿勢制御反応がどのように生じるか,側屈角度の計測により検討したので報告する.【方法】 対象は,末期股関節症患者25名とした(平均年齢59.0±9.5歳).患側と健側を比較するためすべて片側症例とし,健側股関節は正常または臼蓋形成不全で疼痛や運動機能制限のない者とした.また,Cobb角10°以上の側弯がある者,神経疾患等の合併症がある者,測定中に疼痛を訴えた者は対象から除外した. 方法は,まず側方に最大15°傾斜する測定ボード上に端坐位をとり,測定ボードを他動的に約1秒で最大傾斜させた時の体幹側屈角度を計測した.次に水平座面上に端坐位をとり,反対側臀部を高く引き上げて骨盤を側方傾斜させる運動を行い保持した際の体幹側屈角度を計測した.測定は閉眼で行い,足部は接地せず,骨盤は前後傾中間位となるようにした.運動は,まずどのような運動か確認させた後各1回ずつ実施した. 体幹側屈角度を計測するために第7頸椎(C7),第12胸椎(Th12),第5腰椎(L5)の棘突起および左右上後腸骨棘,肩峰にマーカーを貼付し,測定時に被験者の後方より動画撮影した.得られた動画から安静時および動作完了時のフレームを抽出し,画像解析ソフト(ImageJ1.39u,NIH)にて側屈角度を計測した.なお,側屈角度はマーカーC7,Th12,L5がなす角を胸部側屈角度とし,左右上後腸骨棘を結んだ線分に対するTh12とL5を結んだ線分のなす角を腰部側屈角度とした.さらに,左右上後腸骨棘を結んだ線分の傾きを骨盤傾斜角度,左右の肩峰を結んだ線分の傾きを肩峰傾斜角度とした.体幹側屈の方向については運動方向への側屈を+,反対側への側屈を-と定義し,それぞれ安静時からの変化量で表した. 統計処理は,各運動における胸部および腰部の側屈角度,骨盤および肩峰の傾斜角度の平均値を患側と健側で比較した.また胸部と腰部の側屈角度についても比較した.差の検定には対応のあるt検定を用い,有意水準は5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は当院倫理規定に則り実施した.対象一人ひとりに対し,本研究の趣旨および内容を書面にて十分に説明し,署名をもって同意を得た.【結果】 測定ボードで側方傾斜させた際の体幹側屈角度は,患側が胸部-10.3±5.7°,腰部-6.6±3.3°となり骨盤傾斜は12.4±4.3°,肩峰傾斜は-3.8±6.5°となった.健側では胸部-9.6±4.5°,腰部-7.2±4.1°となり骨盤傾斜は13.6±4.1°,肩峰傾斜は-2.0±5.7°となった.各項目において患側と健側で有意差はみられなかった.また,患側では腰部より胸部の側屈角度が有意に大きく(p<0.05),健側では有意差はみられなかった. 反対側臀部挙上による体幹側屈角度は,患側が胸部-8.4±6.5°,腰部5.1±5.0°となり骨盤傾斜は19.8±5.3°,肩峰傾斜は14.7±7.8°となった.健側は胸部-12.3±5.6°,腰部1.4±4.9°となり骨盤傾斜は23.0±4.9°,肩峰傾斜は12.0±8.3°となった.胸部および腰部の側屈角度,骨盤傾斜角度において患側と健側の間に有意差がみられた(p<0.05).また患側,健側ともに胸部と腰部で差がみられた(p<0.01).【考察】 今回,測定ボードにて他動的に座面を側方に傾斜させた場合の反応として,患側は胸部の側屈が腰部に比べ大きくなった.これは,腰部での立ち直りの不十分さを胸部の側屈で補う様式となっていることを示していると考えられる.この原因としては腰部の可動性低下や筋群の協調性低下などが考えられるが,腰部の側屈角度は健側と差がなかったことから,両側性に腰部側屈可動域制限が生じており,それが今回の結果に影響していると思われた.一方,自動運動として反対側臀部挙上を行った場合の反応については,患側は健側に比べ骨盤傾斜が少なく,腰部の同側への側屈が大きくなった.これは,患側では健側と比べ十分なcounter activityが生じていないことを示していると考えられる.すなわち,可動性のみならず体幹筋群の協調性にも問題がある可能性が示唆された.今回の結果から,片側股関節症患者においては体幹の姿勢制御に関する運動戦略の変容を来していることが明らかとなった.【理学療法学研究としての意義】 変形性股関節症患者の姿勢異常には様々な要因があると考えられるが,股関節機能のみでなく総合的アプローチが必要であり,体幹機能について評価・研究することは重要である.
著者
齊藤 明 岡田 恭司 斎藤 功 木下 和勇 瀬戸 新 佐藤 大道 柴田 和幸 安田 真理 堀岡 航 若狭 正彦
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1393, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】膝関節筋は中間広筋の深層に位置し,大腿骨遠位前面を起始,膝蓋上包を停止とする筋である。大腿四頭筋と合わせて大腿五頭筋と称されることもあるが,その作用は大腿四頭筋とは異なり膝関節伸展時に膝蓋上包を挙上するとされ,機能不全が生じると膝蓋上包の挟み込みにより拘縮の原因になると考えられている。変形性膝関節症(以下,膝OA)で多くみられる関節水腫は,膝関節筋機能不全の要因の1つとされているが,その関係は明らかにされていない。しかしそれにより関節拘縮など新たな障害を招く可能性があり,膝OAの病態を複雑化させる恐れがある。本研究の目的は膝OAにおいて膝関節水腫と膝関節筋機能との関係を明らかにすることである。【方法】膝OA患者60名81肢(男性15名,女性45名,平均年齢73歳)を対象とした。測定肢位は筋力測定機器Musculator GT30(OG技研社製)を使用し椅子座位にて体幹,骨盤,下腿遠位部をベルトで固定し,膝関節は屈曲30°位とした。膝関節水腫および膝関節筋は超音波診断装置Hi vision Avius(日立アロカメディカル社製),14MHzのリニアプローブを用いてBモードで測定した。描写はいずれも上前腸骨棘と膝蓋骨上縁中央を結ぶ線上で,膝蓋骨上縁より3cm上方を長軸走査にて行った。膝関節水腫は安静時の膝蓋上包の腔内間距離である前後径を計測し,Mendietaらの報告に基づき2mm以上のものを関節水腫と判定し,水腫あり群となし群に分けた。膝関節筋は最大等尺性膝伸展運動時の筋厚および停止部移動距離を測定した。筋厚は筋膜間の最大距離を計測し,安静時の値に対する等尺性膝伸展運動時の値の変化率を求めた。停止部移動距離は安静時の画像上で膝関節筋停止部をマークし,等尺性膝伸展運動時の画像上でその点の移動距離を計測した。この移動距離は膝蓋上包が膝関節筋により挙上された距離と定義した。また膝関節屈曲,伸展可動域(以下,ROM)を測定し,膝関節の疼痛をVisual analog scale(以下VAS),膝OAの重症度をKellgren-Lawrence分類(K/L分類)を用いて評価した。膝関節筋筋厚,停止部移動距離の2群間での比較には,まず膝関節ROM,疼痛,重症度をt検定を用いて比較し,有意差のみられた項目を共変量とした共分散分析を行った。また膝関節筋筋厚および停止部移動距離と膝蓋上包前後径との関係をPearsonの相関係数を求めて検討した。統計解析にはSPSS22を使用し,有意水準は5%とした。【結果】膝関節水腫あり群は50肢(平均年齢74歳),なし群は31肢(平均年齢73歳)であった。膝関節ROMは伸展(-10.85±5.10°vs -5.83±4.92°),屈曲(132.80±14.30°vs 142.33±6.92°)ともに水腫あり群がなし群に比べ有意に低値を示し(いずれもp<0.001),またVAS(48.17±23.07 mm vs 31.87±18.73mm),K/L分類(2.71±0.67 vs 1.83±0.83)は水腫あり群がなし群より有意に高かった(いずれもp<0.001)。これらの膝関節ROM,VAS,K/L分類で補正した共分散分析の結果,安静時の膝関節筋筋厚は2群間に有意差が認められなかったが,筋厚変化率(31.86±16.55% vs 61.95±18.11%)および停止部移動距離(4.74±2.08mm vs 8.03±2.21mm)は水腫あり群がなし群に比べ有意に低値であった。また膝関節筋の筋厚変化率および停止部移動距離と膝蓋上包前後径との間に有意な負の相関を認めた(それぞれ,r=-0.592,r=-0.628)。【考察】膝関節水腫あり群ではなし群に比べ膝関節筋の筋厚変化率および停止部移動距離が低値であり,また水腫の程度を示す膝蓋上包前後径といずれも有意な相関関係を認めたことから,膝関節水腫は膝関節筋機能に影響を及ぼし,関節水腫が重度であるほど膝関節筋の機能低下が大きいことが示唆された。これは関節水腫により膝蓋上包が伸張され,上方へ引き上げられる距離が短縮したため膝関節筋の十分な筋収縮が得られなかったと推察される。膝関節水腫は膝関節ROMや疼痛,膝OAの進行に影響を及ぼすだけなく,長期間の存在は膝関節筋の機能不全やそれに続発する膝関節拘縮の要因となり得ると考察した。【理学療法学研究としての意義】膝関節水腫は膝OAの症状や進行,膝関節筋の機能低下に影響を及ぼし,特に長期間の存在は拘縮など新たな二次的障害を生じる可能性があるため,理学療法施行時には関節水腫に対する早急な対応が必要であると考えられる。
著者
中尾 聡志 西上 智彦 岡田 知也 明崎 禎輝 村山 大樹 中平 智 岩崎 洋子 松田 芳郎
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Fe0103, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに】 関節可動域(ROM)運動時の強い痛みに対して,傷害部位へのアイシングが中心に行われてきたが,十分な除痛が認められないことも多い.我々は膝関節炎による強い痛みによりROM運動が実施困難であった症例に対して,患部ではなく手部にアイシングを行うことで痛みが著明に改善し,ROM運動が円滑に行なうことが可能となった症例を経験し,第39回四国理学療法士学会にて報告した.このような現象の報告はこれまでになく,複数例にて効果が認められるかについて未だ明らかではない.そこで,本研究では,まず,人工膝関節全置換術(TKA)後症例に対して,患部へのアイシングと手部へのアイシングの痛みの抑制効果について検討した.さらに,どのような症例に対して,手部へのアイシングがより効果的かについて,手部のアイシング変化率と個体要因(器質的側面・心理的側面)の相関関係を求めて検討した.【方法】 対象はTKA症例(平均年齢76.5±5.6歳・術後平均日数13.1±6.5日)16名16膝とした.連続した2日間にて患部へのアイシング及び術側と同側の手部へのアイシングをそれぞれ,1日ずつ10分間実施し,アイシング前の膝関節最大屈曲(膝屈曲)時の膝関節における疼痛をVisual analogue scale(VAS)にて測定した.アイシング前後の膝屈曲において,アイシング前の屈曲角度を参考にアイシング後も同一角度を再現した後にVASの測定を実施し,アイシング後のVASから前のVASの数値を引いたものをアイシング変化率として求めた.他の評価項目として,術後最大CRP値・現状の経過に対する不安度・アイシング時の自覚的快楽の有無・膝屈曲角度を求め,不安度は痛みと同様にVASにて数値化した.なお,アイシングの実施順は各症例のID番号末尾の数字を参考に,偶数である者を手部アイシングより,奇数である者を患部アイシングより開始した.統計処理として,アイシング前後のVASの値を患部・手部それぞれにおいてt検定にて比較し,アイシング効果の有無を検討した.また,患部・手部へのアイシングの変化率と各評価項目に対する関連性をSpearmanの順位相関係数にて求めた.なお,有意水準は5%未満とした.【説明と同意】 ヘルシンキ宣言に基づき,事前に本研究目的と内容を十分に説明し,同意の得られた症例のみを対象とした.【結果】 各評価項目における平均値は,患部アイシング前VAS52.2±16.4mm・患部アイシング後VAS47.6±19.6mm・手部アイシング前VAS66.2・手部アイシング後VAS42.8±28.3・患部アイシング変化率-4.6±15.4mm・手部アイシング変化率-23.4±27.5mm・術後最大CRP値6.7±4.5mg/dl・現状の経過に対する不安度30.0±29.7mm・膝屈曲角度100.3±20.1°であった.また,16名中14名が手部のアイシング中に「気持ち良い」と答えた. アイシングの効果について,患部アイシング前後のVAS(前:52.2±16.4 mm,後:47.6±19.6 mm)においては有意な差を認めなかったが,手部アイシング前後のVAS(前:66.2±10.9 mm,後42.8±28.3 mm)では有意な差を認めた(p<0.01).アイシング後のVAS変化率において,患部へのアイシング変化率に相関性を認める評価項目は認められなかったが,手部へのアイシング変化率は不安度(r=-0.51,p<0.05),膝屈曲角度(r=-0.51,p<0.05)と負の相関関係をそれぞれ認めた.【考察】 本研究はTKA後症例に対して患部よりも遠隔部位へのアイシングが効果的であることを示したはじめての報告である.Nielsen(Pain,2008)らは健常者の膝関節部位への圧痛閾値は手への寒冷刺激によって上昇し,その要因として下行性疼痛抑制系の賦活を挙げている.本研究において,患部周辺は持続した炎症によって,末梢からの刺激伝達系に異常が生じており,同部位にアイシングを行っても下行性疼痛抑制系が賦活する正常な神経反応が生じなかったのかもしれない.また,手部へのアイシング後にVASがより軽減していた症例では,現状の経過に対する不安度が高い傾向にあった.不安は痛みをより増強させることが報告されており,その増強された痛みが下行性疼痛系の賦活によって減少されたため,不安が強い人ほどより痛み抑制効果が高かった可能性がある.膝屈曲角度が低下している症例ほど手部へのアイシングによる痛み変化率は低かった.これは膝屈曲角度が低い症例では,軟部組織の伸張性などの器質的問題が痛みにより関与するため,手部へのアイシングの効果が低かったと考えられる.【理学療法学研究としての意義】 本研究の結果より,術後不安が強いTKA後症例に対する疼痛の管理方法として手部のアイシングが有効であることが明らかとなり,新しい物理療法手法としての可能性が示唆された.
著者
阿久澤 弘 金岡 恒治
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0353, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】着地動作は多くのスポーツに含まれる動作であり,適切に遂行するために多くの筋が協調して活動している。特に後脛骨筋や,長腓骨筋,中殿筋はそれぞれ足関節周囲,股関節周囲の安定性を担っており,動作や姿勢保持に重要な役割を果たしている。姿勢保持のためにそれぞれの筋が協調的に活動し,お互いの機能を補完し合っているとの報告は散見されるが,着地動作中の筋の筋活動開始時間を比較した研究はみられない。本研究の目的は,着地動作中の後脛骨筋,長腓骨筋,中殿筋の筋活動開始時間を比較検討することである。【方法】対象は健常成人男性6名(平均年齢20.6±1.6歳)とした。除外基準は下肢に外傷や疼痛があり,着地動作を行えないものとした。実験試技は片脚着地動作として,高さ30cmの台上で右脚片脚立位をとった姿勢から,台の30cm前方に設置したフォースプレート上に飛び降り,右脚で着地するように行った。試技は5回行い,そのうち3回の成功試技を記録した。被験筋は後脛骨筋,長腓骨筋,中殿筋として着地動作中の筋活動を測定した。後脛骨筋の筋活動測定にはワイヤ筋電図を用いた。ワイヤ電極の刺入は下腿内側近位1/3の位置にて,超音波エコーで筋を描出しながら行った。長腓骨筋と中殿筋の測定は表面筋電図を用いた。筋電図のフィルタ設定はhigh pass 20Hz,low pass 500Hzとし,得られた筋活動データに対して全波整流処理を行った。一連の着地動作のうち身体が宙空にある接地200msec前から接地までの期間を解析し,各筋の筋活動開始時間をintegrated profile methodに基づいて算出した。3回の試技の平均値を各筋の筋活動開始時間として,接地の何msec前から活動を開始したか記録とした。統計解析には一元配置分散分析を使用し,post hoc testとしてBonferroni法を用いた。有意水準は5%未満とした。【結果】各筋の筋活動開始時間は,後脛骨筋が-59.7±28.6msec,長腓骨筋が-70.9±26.6msec,中殿筋が-116.8±22.7msecであった。統計解析の結果,中殿筋の筋活動開始時間は,後脛骨筋,長腓骨筋と比較して有意に早いものであった(p<0.05)。後脛骨筋と長腓骨筋の筋活動開始時間に有意差はみられなかった。【結論】本研究の結果より,着地動作において中殿筋が後脛骨筋,長腓骨筋よりも早期に活動を開始することが示された。中殿筋の機能が不十分だと片脚立位時の足圧中心偏位量が増加するとされている。また,中殿筋の疲労が起こると着地時に長腓骨筋の筋活動量が増加し,筋活動開始時間も早くなるとの報告もある。それらのことからも,身体重心に近い中殿筋から筋活動を開始し,近位部分を安定化させることで,下肢全体の安定性を向上させていると考えられる。臨床的にも,足部の安定性改善を図る場合,中殿筋などの股関節周囲筋も含めた運動が行われているが,その理論的な根拠の一つとなる結果が示唆された。
著者
伊藤 祥江 髙木 聖 小川 優喜 瀧野 皓哉 早藤 亮兵 川出 佳代子 今村 隼 稲垣 潤一 林 由布子 中村 優希 加藤 陽子 森 紀康 鈴木 重行 今村 康宏
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.BbPI1176, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】2000年に回復期リハビリテーション病棟(以下、リハ病棟)制度が創設され、医療施設の機能分化が進められた。急性期病院における在院日数は短縮され、長期の入院を必要とする脳卒中片麻痺患者はリハ病棟を有する病院への転院を余儀なくされる。脳卒中ガイドラインにおいては早期リハを積極的に行うことが強く勧められており、その内容には下肢装具を用いての早期歩行訓練も含まれている。しかし、装具処方から完成までには通常1~2週間を要することなどから、急性期病院における片麻痺患者に対する積極的な早期装具処方は容易ではなく、装具適応患者に対する装具処方のほとんどが、リハ病棟転院後に行われているのが実情であろう。その結果、歩行能力の改善が遅れ、入院期間が長くなっていることが推測される。当院は人口約14万7千人の医療圏における中核病院で、平成18年にリハ病棟を開設した。現在は当院一般病棟からの転棟患者ならびに近隣の救急病院からの転院患者も広く受け入れている。今回われわれは、当院リハ病棟に入院した脳卒中片麻痺患者において、下肢装具作製時期が発症から退院までの日数におよぼす影響について検討したので若干の考察とともに報告する。【方法】平成18年12月から平成22年7月までの間に当院リハ病棟に入院し、理学療法を施行した初回発症の脳卒中片麻痺患者のうち、下肢装具を作製した32例を対象とした。内訳は脳梗塞25例、脳出血7例、男性15例、女性17例、右麻痺13例、左麻痺19例、平均年齢69.5±13.3歳であった。当院の一般病棟からリハ病棟に転棟した群(以下、A群)と他院での急性期治療後に当院リハ病棟に入院した群(以下、B群)の2群に分けた。これら2群について(1)作製した装具の内訳ならびに(2)発症から当院リハ病棟退院までの日数について調査した。また、(2)に含まれる1)発症から装具採型までの日数、2)発症からリハ病棟入院までの日数、3)リハ病棟入院から装具採型までの日数、4)リハ病棟入院から退院までの日数の各項目についても合わせて調査した。2群間の比較は対応のないt検定を用いて行い、5%未満を有意な差と判断した。【説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言をもとに実施し、収集した個人情報は当院の個人情報保護方針をもとに取り扱っている。【結果】(1)A群は長下肢装具(以下、KAFO)3例、金属支柱付短下肢装具(以下、支柱AFO)13例、プラスチック製短下肢装具(以下、P-AFO)1例であった。B群はKAFO2例、支柱AFO6例、P-AFO7例であった。(2)A群で137.2±32.5日、B群では166.8±30.2日でA群の方が有意に短かった。(2)-1)A群で22.5±9.8日、B群では48.2±12.4日でA群の方が有意に短かった。(2)-2)A群で21.9±7.3日、B群では33.8±11.3日でA群の方が有意に短かった。(2)-3)A群で0.65±9.8日、B群では14.5±7.1日でA群の方が有意に短かった。(2)-4)A群で115.2±31.5日、B群では131.5±32.3日でA群の方が短かったが、有意差はみられなかった。【考察】本研究では、装具作製時期ならびにリハ病棟入院時期に着目し、発症からリハ病棟退院までを4つの期間に分けて入院日数との関連について検討した。その結果、リハ病棟入院日数においては両群間に差はなかったが、A群においてはリハ病棟転棟とほぼ同時期に装具の採型がされており、発症からの日数も有意に短かった。このことから、早期の装具処方によりリハ病棟転棟後もリハが途絶えることなく継続することが可能で、早期に歩行が獲得できたものと思われる。その結果、発症から退院までの期間を短縮したと考えられる。一方、B群においてはリハ病棟入院時期のみならず装具作製時期も有意に遅かった。リハ病棟入院日数にはA群と差がなかったことから、作製時期が発症から退院までの日数に影響をおよぼしたものと考えられる。急性期病院においては在院日数の短縮、作製途中での転院の可能性、また義肢装具士の来院頻度など積極的な装具作製を妨げる多くの要因があることが推測される。近年、急性期病院において装具が作製されることは少なく、リハ病院での作製件数が増加傾向にあること、また、リハ病棟が急性期にシフトしてきていることが報告されている。B群では当院リハ病棟転院から装具採型まで約2週間要していたことから、今後は転院後早期から装具処方について検討する必要があろう。2007年から連携パスが運用され始めている。それが単なる情報提供に留まらず、片麻痺患者に対する早期の装具処方、スムーズなリハの継続、そして早期の在宅復帰につながるよう連携することが必要であろう。【理学療法学研究としての意義】脳卒中発症後の早期装具作製は早期歩行獲得、在院日数の短縮に結びつく。それを推進するための地域連携について考えるものである。
著者
三田 菜奈子 田中 涼 浅井 友詞
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0653, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】人間のバランスは視覚,前庭感覚,体性感覚の情報が統合され,姿勢制御が行われる。その中でも視覚は重要な役割を果たしており,正確な視覚情報を取り込むために様々なサブシステムを用いて眼球運動の調節を行っている。その1つである滑動性追跡眼球運動(smooth pursuit:SP)は視標の速度,加速度の情報が視覚野から前頭眼野を経て橋,小脳,前庭神経核に至って眼球運動を行う。先行研究では外傷性頸部症候群において頸部構造の損傷が固有受容器への入力の障害をおよぼし,SPの加速度の遅延が生じるとされているが,頸部筋疲労が眼球運動におよぼす影響は明らかでない。そこで今回は,健常若年者における頸部筋疲労がSPにおよぼす影響について電気眼振図を用いて検討した。【方法】対象は健常若年者36名とし,介入前後にSP中の眼球運動角度を電気眼振図(日本光電社製)にて計測し,規定の眼球運動が行えた25名(筋疲労群18名,コントロール群7名)を抽出した。筋疲労群は腹臥位にて25%MVCの負荷で頸部伸展位を10分間保持し,表面筋電図にて両僧帽筋上部の中央周波数が有意に低下(p<0.05)した12名を抽出した。運動中は頸部の疼痛をNRS(Numerical Rating Scale)で聴取し,NRS10に達した段階で中止した。筋疲労群のうち,NRS6以上を重度疼痛群(7名),NRS5以下を軽度疼痛群(5名)に分類した。コントロール群は10分間の安静を行った。解析項目はSP中の眼球運動角度とし,介入前に対する介入後の眼球運動角度の変化量を算出して3群で比較した。さらに,筋疲労群においてNRSの最大値と眼球運動角度の変化量との相関を算出した。【結果】3群における眼球運動角度の変化量を比較した結果,重度疼痛群6.0±0.5度,軽度疼痛群2.1±0.1度,コントロール群1.9±0.7度であり,重度疼痛群において有意な増加が認められた(p<0.05)。筋疲労群において疼痛に対する眼球運動角度の相関関係は係数0.592であり,相関を示した(p<0.05)。【結論】動作において頭頸部が動いた際に前庭動眼反射や頸眼反射により眼球運動の補正が行われており,頸部固有受容器と眼球運動は密接に関わっている。固有受容器への入力が障害される因子のひとつとして筋疲労が挙げられており,本研究では頸部に筋疲労を作成したことで頸部固有受容器への入力に異常が生じたことが推察される。さらに頸部に疼痛が出現したことで筋紡錘の感度亢進や交感神経活性化が生じ,頸部固有受容器から前庭神経核への入力に異常が生じ,SPに影響をおよぼしたと考えられる。したがって,頸部筋疲労が眼球運動制御に影響をおよぼす可能性が示唆された。このメカニズムには頸部筋疲労による頸部固有受容器からの情報がSPに影響をおよぼし,その結果眼球運動制御障害が出現したと推察される。