著者
村上 祐一 倉西 森大 CHAMSAI Sawitree 岡本 純一郎
出版者
北海道大学大学院水産科学研究科
雑誌
北海道大学水産科学研究彙報 (ISSN:13461842)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.51-61, 2012-12

我が国の漁業管理は,許可制度と漁業権制度によって組み立てられている。いずれも漁業管理当局の許可又は免許という形で漁業を営む権利が確立するが,漁業権制度は,所謂許可制度とは異なった由来と性格をもつ。漁業権制度は,沿岸地域の漁業者集団による特定の漁業を目的とした沿岸地先水域の共同使用権的性格を有している。漁業権制度の起源を歴史的に辿れば,江戸時代の幕府の沿岸漁業統治の指針とされた律令要略の所謂「磯は地先,沖は入会」に由来し,それが明治漁業法により近代法制国家の下で漁業権の法的権利として確立されたものである。その後,戦後の沿岸漁業民主化のための制度変更を経て,漁業権制度は沿岸漁業者集団による沿岸漁業の自主管理枠組みとして我が国の漁業管理制度の骨格を成してきた。戦後,沿岸漁業の稠密化への対応として我が国の外延的漁業発展過程の中で企業経営が中心の沖合,遠洋漁業が漁獲量,漁獲金額において我が国の漁業の主役となるなかで沿岸漁業の漁業権制度は我が国漁業界においてある種,自明な制度として定着してきた。しかしながら近年,沿岸漁業の外部から漁業権制度について,その閉鎖性,非効率性を批判し,漁業権制度の改革ということが議論されるようになってきた。このような議論に対して漁業協同組合を中心に強い反発が起きている。2007年2月,経済団体連合会,日本商工会議所,経済同友会,日本貿易会の経済4団体の支援を受けた日本経済調査協議会は,規制改革議論の一環として水産業の戦略的な抜本改革を求める緊急提言を行った。この提言の背景には日本の水産業の低迷(水産資源減少,漁業経営の悪化など)があり,議論は漁業の活性化のための制度改革論として主導されたものであるが,その中で漁業の活性化のための漁業資源の科学的管理(許容漁獲量による管理),漁業経営の改善(許容漁獲量の漁業者への譲渡可能な個別割当)とともに漁業制度の規制緩和策として漁業協同組合員の資格要件の緩和と漁業権の中の定置漁業権,養殖のための特定区画漁業権を漁業協同組合以外の個別経営体にも免許を認めるべきとの提言が行われている。日本経済調査協議会の緊急提言は,現在の水産資源管理に不満を有する資源研究者を含め水産関係研究者をも巻き込み大きな議論となった。特に,漁業権制度の改革提言に対して沿岸漁業者の団体であり,漁業権制度の当事者である漁業協同組合は日本経済調査協議会の緊急提言に強く反発した。日本経済調査協議会の緊急提言をめぐる議論は,政権交代や政府の規制改革会議の終了により一旦は沈静化したものの,2011年3月11日に起きた東日本大震災という未曾有の災害からの水産復興対策議論の中で養殖のための特定区画漁業権の免許資格の規制緩和論が再び浮上することとなった。