著者
儀間 智子
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.385, 2010

【はじめに】<BR>今回、対人緊張が高い為関わりが難しく外出に対しても抵抗がある症例に対して、雑誌コーナーの雑誌購入を導入した結果、退院してピアノ教室に通いたいと口に出すようになった。振り返りを行い考察を加えたので報告する。<BR>【症例紹介】<BR>30歳代女性。19歳、人と付き合い難くなり家へ閉じこもる。21歳、薬学に通うが寮生活で対人関係上手くいかず不登校となる。帰沖し復学試みるが、自主退学する。33歳、多量服薬しA病院の5階から飛び降り、興奮状態で当院入院となる。関わり当初、単語での返答多く近くに座ると自ら離れていき関わるのが困難であった。雑誌や化粧品を一人で見て過ごす場面が多く見られた。<BR>【方法と経過】<BR>『雑誌コーナーの雑誌購入』月に1回個別で行い、1.楽しむ体験2.自信の回復を目的とした。OTRから誘い、雑誌を2~3冊程度選んでもらう。〈BR>症例が他患と雑誌や化粧をしているOTRの姿を見る事から始め、同じ机で雑誌を見ながら徐々に会話を図り購入へ誘った。購入初回時には拒否もあった。移動中の車内では、OTRが1~2回話しかけるのみで帰りは笑っている表情が多く見られた。初めは常にOTRの後ろから歩いており、多くの雑誌の中から選ぶ事が出来ず、立ちすくむ場面が見られた。その為、「購入月の前後や読んだ事のある雑誌から選ぶと選びやすいよ」と段階付けを行い読みたい本(漫画)の選択が出来る様になる。その頃と同時期にOTRの前を歩くようになり、買いたい雑誌や漫画の棚に積極的に足を運ぶようになる。また、会計後の雑誌を積極的に持つようになる。<BR>【結果】<BR>OTRに対して、感情を表出したり、「家に帰りたい、ピアノ教室に通い、○○の40番を完成させたい」と話すようになる。<BR>【考察】<BR>今回、対人緊張が高く関わり難い症例に対して、興味がある雑誌を通して個別での雑誌購入を導入した。雑誌購入は、将来に関わる大きな決断ではない事やOTRからの誘いから受容的な参加が可能な状況が参加しやすく、選んだ雑誌に対してOTRに肯定される体験から安心感が生じたと考える。安心感から次第に自分の読みたい雑誌を意思表示出来るようになり買えた満足感や購入した雑誌をホールに来て見る事、女性らしさを意識する本人の楽しみから継続して購入に至っているのではないか。また、他者が手に取り読む姿を見て「この雑誌でよかった」と喜ぶ姿や賞賛される体験が自信に繋がったと考える。今回の雑誌購入は、(1)流行の服や髪形を気にする、(2)自分を変えたいと感じる機会と症例自信から生じる喜びが大きかったと考える。結果として現在では、以前やり残した「家に帰ってピアノ教室に通いたい、曲を完成させたい」という希望をOTRを含め他者へ意思表示する様子が伺えるようになった。今後は、本人の気持ちを引き出していきながら意思を固めていく。活動でもピアノを取り入れていき糸口を見つけていく。