- 著者
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元木 愛理
篠原 亮次
山縣 然太朗
- 出版者
- 日本公衆衛生学会
- 雑誌
- 日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
- 巻号頁・発行日
- vol.63, no.7, pp.345-354, 2016 (Released:2016-08-17)
- 参考文献数
- 53
- 被引用文献数
-
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目的 国際的にも少子化は重要な社会課題として取り上げられており,少子化対策として子育て世帯への給付費に多くの財源を充てることが必要との見解が示されている。本研究では,子ども関連の社会保障費に関する国際比較および合計特殊出生率との関連を検討することを目的とした。方法 対象は OECD (Organisation for Economic Co-operation and Development:経済協力開発機構)加盟国のうち2011年度の家族関係社会支出対 GDP (Gross Domestic Product:国内総生産)比と高齢関係社会支出対 GDP 比が計上されている34か国である。各加盟国の家族関係社会支出対 GDP 比を 0~14歳の子どもの人口割合(年少人口割合)で除したものと高齢関係社会支出対 GDP 比を65歳以上の高齢者の人口割合(老年人口割合)で除したものを算出し,国際比較を行った。また,各人口割合を考慮した合計特殊出生率と家族関係社会支出対 GDP 比の相関分析と偏相関分析を行い,両者間の関連を検討した。結果 社会支出対 GDP 比を年少および老年人口割合を考慮して比較をした結果,OECD加盟国の平均は家族関係社会支出が0.13,高齢関係社会支出が0.47であったのに対し,日本は家族関係社会支出が0.10,高齢関係社会支出が0.45であった。次に合計特殊出生率と家族関係社会支出対 GDP 比に関する相関分析の結果,現物給付対 GDP 比と合計特殊出生率との間に相関傾向(r=0.32, P=0.06)がみられた。また,家族関係社会支出対 GDP 比と合計特殊出生率との偏相関分析の結果,両者の間に有意な相関がみられた。現金給付と現物給付に分け,それぞれの GDP 比と合計特殊出生率との偏相関分析の結果では,両者とも合計特殊出生率との間に有意な相関(r=0.51, P<0.01)があり,現金給付(r=0.39, P=0.03)よりも現物給付(r=0.45, P<0.01)のほうがより強い相関であった。結論 日本の子どもや子育て世帯への社会保障費は,経済水準を考慮した国際的な比較において GDP 比が低かった。また,社会保障の中でも保育サービスや就学前教育の充実など現物給付を増やすことは,合計特殊出生率を回復させる一要因となることが示唆された。